四話『愛妻奴隷になりたくて』

【シルクを奴隷にしました】


 ……はい? なんか今、不穏な音声が聞こえた気がするんですけど。『えいきゅうどれい?』ナニソレオイシイノ?


「ご主人……様、ごめんなさい……」


「……シルク、永久奴隷とか、なってない……よね?」


 シルクの首に見える首輪。この際、奴隷になっていることは良しとしよう。

 僕の手をシルクの手が動かし、自分の首に付けた。これだけで、僕の奴隷として契約される。解放するのも簡単だ。


 ただ、永久奴隷はまずい。文字通り、永久に解放されない奴隷。本来なら、死刑にならない程度の犯罪者を、労働力として使うために存在している。


 専用の契約をしなければならないはずで、シルクがそんなものを知っているとは思えない。


 それに、今の僕では解放出来ないから、困る。


「……なったよ。シルクが、自分から」


 頭が真っ白になる。この子は一体何を言っているんだ? 僕の奴隷に、自分からなった? しかも、死ぬまで離れなれない永久奴隷に?


「どうしてそんな事……」


「シグレと離れたくないから」


「そうじゃなくて、もっと自分を大切に――」


「シグレの奴隷にならなかったら、他で奴隷になるか、死ぬだけだってへーネさんが言ってたよ?」


「それは、確かに……」


 前の村には帰りたくないだろうけど、街に出れば、捕まるか殺されるかするだろう。魔王が言っていた通りに。だけど、永久奴隷になるなんて……ん? 「へーネさんが言ってた」って!?


「その首輪も、へーネが?」


「そうだよ?」


 何してんのあの人……


「永久奴隷の契約も教えてくれた!」


 マジで、なにしてくれちゃってんの!?


「ご主人様は優しいから、一生着いてく」


「いや、別に優しくないって。他の人でも助け――」


 僕は、事実を言うつもりだった。だけど、シルクが真剣な顔で、それを遮る。


「でも、助けてくれたのはご主人様。シルクの知ってる『他の人』には、見捨てられたもん。ご主人様に優しくして欲しいし、仲良くなりたいの。……どうしても、いや?」


「嫌じゃ、ないよ」


 問題は、そのうち後悔するだろうって事なんだけど。

 ……あ、リアが起きてる。


「だめです!」


「だよな、やっぱり――」


「わたしも永久奴隷にしてください!」


「そっちかよ!?」


 ――シルクさんだけずるい、わたしもシグレくん――いえ、シグレさまに全部あげたいと思ってたんですよ……?


「こんな事もあろうかと、へーネさんが二つくれたから。えっとね、はい」


「はいじゃないよ!?」


「ありがとうございます! ――えいっ」


 驚愕で固まっていると、リアの手によって、僕が首輪を付けてしまった。……やっば。


「落ち着こう、リア。それは良くない」


「落ち着いてます。シグレさまに全てささげないと、わたしがおかしくなってしまいます――《リア・ステファノスは、この身を、心を、魂を、永久を……水崎 時雨様に捧ぐ。永遠に続く愛の契約を……》」


 くっそ、レベルが低いからシルクを振り払えなかったァ!! はっ!? 命令すればよかったじゃん……!


 犯罪奴隷とは違い、結婚する際の指輪のような物として使われていたのが今の契約句……らしい。現在では、一度契約すると二度と解けない、首輪だと印象が悪い、という点から使われなくなった。


 愛妻奴隷いう名も。


 ……一部では、まだ使っているらしいけど。


 ほら、魔族とか、ね。


 ――以上、リアの記憶からでした!


【リア・ステファノスを永久奴隷にしました】


 リアの首輪が、無骨な黒から、ちょっとオシャレなチョーカーみたいな、銀メインの色合いになった。


「……あのさ、婚約もまだなのに、結婚する時にやることをしても大丈夫なわけ?」


「婚約発表を、結婚発表にしちゃえばいいのではないでしょうか」


「へー……シルクは?」


 同じくオシャレな首輪になってるシルクへ問う。まあ、知らずにやったんだろうけどさ。


「そういうものだって教えてもらった」


「知ってんのかよ……」


 そうですか、お嫁さん二人ですか。………嬉しいに決まってるだろチクショウ!


 なんなの? 片や尻尾振ってクンカクンカ&スリスリ……とかしてるし、片や首輪に触れながらうっとりして、脳内では愛情爆発させてるんだけど?


「これ、ガロにどう報告すればいいの?――へーネ」


「「えっ?」」


 ガタッ!


 扉の向こうから、音がした。気づかないはずないよね。僕だったら、間違いなく聞きに来るから。


「……申し訳ございません」


 シルクの事を心配していだだろうし、リアは……ちょっとフォロー出来ないな。心配してても、あんな事させる理由にならないわ。


「とりあえず……三人とも正座しよっか?」


「「?」」「ひっ」


 ああ、そっか、リアだけは知ってるんだっけ。正座、慣れてないと辛いよね? ステータスが高いなら、重りを乗せればいいもんね?


 というわけで――





 ツンツン


「んはぁっ、申し訳ございましぇん……!」


 ツツン


「わぅぅ……ごめんなさいぃ……!」


 ツツツン


「……もう、しませんからぁ……はぅ……」


 ペシッ


「「「あぁ――――――――っ!?」」」



 あ、倒れた。シルクは尻尾穴が無いせいで、ずり下がった服から下着が見えてるんだけど……見ないようにしよう。後でリアにバレるから。

 へーネはメイド服がロングスカートだからね。噛んでたのは面白かったけど。


 ……みんな痙攣してるから、微妙にエロい。


「こんな所かな。今後はこんな事がないように。もしあったら……分かってるよね?」


「「「は、はい……」」」


 待って、頬を染める所じゃないから。怖がるところだから。そういうのに目覚めたとか言わないでよ?


 …………リアは僕に何かしてもらえればそれでいいらしい。出来れば優しいのがいい、と。良かった、そっちに目覚めた訳ではないようだ。


「……寝よ」


「はい……あっ……抱っこされると、子供みたいになっちゃいますね……」


 動き辛そうにしているリアを抱き上げて、ベッドまで運ぶ。シルクとへーネも並んで横になり、僕は真ん中に……じゃねぇよ。


「そこ二人、当たり前のように混ざるのやめようか」


「……お、お嫁さんだから、ご主人様と寝るのは当然だよ? それに、離れたくないんだもん……」


 お風呂で洗ったのは失敗だった。ゆるふわな髪で顔も可愛いし、体も日焼けしてて、でも焼けすぎてない魅力的な肌になってる。元は色白みたいで、日焼けしていない部分の白がまたいい。


 リアの尽くすみたいなのとは違って、甘えん坊な感じだ。村では家族すら味方じゃなかったみたいだし、人肌恋しいって事かな?

 依存されてるのか、本当に好かれているのか分からないなぁ……ま、依存だったらそのうち好きな人が出来たってなるだろうし、その時は解放するのに必要なスキルを取ってあげよう。


 使い捨てスキルだから、一々取らないといけないのは面倒なんだよね。ポイントもえげつない。


「では私は、愛人として――」


「論外だよ、帰れ」


「……シグレ様にとって、私はなんなのですか!?」


「ただのメイドだろっ! 無理矢理修羅場みたいにしてんじゃねぇよ! もはや、あんたのキャラが崩壊してんぞ!?」


 ちゃんとしたいいメイドさんだと思ってたのに。残念過ぎる。落差が激しいから余計に。


「はいはーい、メイド1名退出しまーす」


「し、シグレ様? 引き摺るのはさすがに――」


 ポイッ、バタン!


「よし、邪魔者は消えたし……寝よう」


 ベッドに戻り……やっぱり真ん中で寝る。おや、シルクの事を考えていたせいで、リアが嫉妬してるみたい。可愛いね。


「……シルク、尻尾を何とかしないと、下着見えたままになるんじゃない?」


「見てもいいよ。……ただ、触るのはこころの準備が出来てからにして欲しいかなって……どうしてもって言うなら、寝てるあいだは好きにして平気だから」


「そこはダメって言おうか。寝てる間に触るとか、僕は変態か何かなの?」


「……でも、へーネさんが、男の人はみんな変態だって」


 ……否定出来ない。実際、リアが隣にいるだけでも色々考える。美少女が目の前にいるのに、何とも思わないはずがない。ましてや、自分を慕ってくれてるんだから。


「……し、シグレさま、わたしは……いつでもさわっていただいて構いませんからねっ! ……あんまり、さわり心地は良くないかもしれませんけど……」


「そのうち、お願いするかも」


「シルクには?」


「……触って欲しい?」


「こころの準備ができたら」


「そうなんだ……」


 シルクの場合は触れ合いたいだけなのかな? でも、変態がどうのって話になる時点で、性的な意味合いなんだろうし……難しい。


「そういえば、リアはどうして呼び方を変えたの?」


「シグレさまとお呼びする方が、支配していただけてるって思えるので……」


 これ、本気で言ってるんだもんなぁ。可愛いし、支配したくなる表情なんだけど……!


 ――ふにふに


「……ご主人様の腕、あったかい」


 寝ないと。柔らかくて程よい大きさの何かなんて知らないんだ。それに対抗して太ももに挟んでるリアとかも……





【――ソウルリンク、接続】






「つまり、こことは違う世界から来た勇者で、魔王退治に来たのに、魔王を助けちゃって……リアから離れると死んじゃうように………シルクも混ぜて」


「いや、狙ってやったわけじゃないんだってば。で、どうやらそれと似たようなのが、シルクとも繋がってるらしいんだ」


 目が覚めたら、目の前にソウルリンクの使い方なるものが表示されてた。SOL、ソウルリンク。これが0になるとリアと僕は死に至る……永久奴隷の、さらに強力な繋がりを得る契約をしたせいで、それがシルクとも繋がった。


 ただ、シルクの場合、一定時間離れると死ぬとかは無くて、ただ単に凄いことが出来るようになった。


 それがこちら。


 ・スキルポイントの受け渡し。

 ・一部スキルの共有と重複。

 ・いつでもどこでも心話が出来る。

 ・レベルとステータスの限界突破。


 ちなみに、リアとも可能である。

 ……その方法がまずいんだけどね。


「スキルポイントの受け渡しには、キスが必要なんだ。限界突破の方は……その、深い繋がり(物理)をしなきゃいけない」


「キスに、深い繋がり(物理)、ですか……はぅぅ……」


「は、ハードルが高いかも……」


 つまり、キスとエッチするって事。エッチは一度すればそれでいいんだけど、今のところする予定は無い。

 まあ、リアとなら……大丈夫かな。


「スキル共有した上で重複って、人数が増えると大変な事になるんじゃ……? よし、これは秘密の方向で。バレたら僕達が狙われる」


 強くなれる、という意味ではいい事なんだけど、永久奴隷(結婚ver)を増やすのはちょっと。力目当てで来られても面倒だ。


「僕を召喚した国が知ったら、薬漬けでもなんでもするだろうね。王も王女も家臣達も、片っ端から腐ってたし。……まあ、その時はあの国消すけど」


「それなら、シルクも頑張るよ……」


「……シグレさまぁ……」


 シルクは僕を利用するつもりだった国に憤り、リアは僕が二人を守るためなら世界すら敵に回す……と考えていたのを知ってうっとりしてる。危ない兆候だ。


 もちろん、僕も含めて。


「……さてと、ガロと話さなきゃね」






「……誠に申し訳ございません」


 ガロの部屋に入った瞬間、へーネの土下座である。


「こいつは優秀なんだが……稀にとんでもない事をやらかす。もう、遅いだろうが」


「いや、僕はいいんだよ、僕は。結果的にお嫁さん二人はいい子で問題は無かった。でもさ、魔王の娘が奴隷ってまずいよね?」


「ああ、間違いなく貴様は殺されるだろう――」


「おっけ、僕達は近いうちにここは出ていく。いいね? お金は出すから、食料とか旅に必要なものを準備してくれ」


「それがいいだろうな。シグレが死ねば、リアも死ぬ事になる。そうなれば、我が厄災となる」


 うわ、とんでもねぇ。レベル上げたら、僕達の方が化け物になるんだけどね。

 リアはガロと離れるのを嫌がるかと思ってたけど、僕と旅をする方が重要なんだとさ。シルクは僕が居れば何処でもいいって……


「複雑だな……娘だけでなく、他の女も同時にとは……」


 全員の視線がへーネに集まる。冷静なふりをしているが、冷や汗がめっちゃ垂れてた。

 まあでも、二人の行動力が凄すぎるのもあるんだけどね。


「まあいいだろう。……しかし、ここを出る前に、魔王城の地下迷宮へ行く気は無いか?」


「地下迷宮があんの? 魔王城の地下に?」


 裏ボスとか出てこないよね?


「最深部に辿り着くことが出来れば、必要なスキルが手に入る。我の時には、二週間程だったか」


「ふーん……どんなスキルだった?」


「回数制限付きで魔法を無効化出来る」


「うわぁ……」


 魔法使いは即死だよ、それ。でも、そうか、そのくらいのスキルが手に入るなら、行ってもいいね。


「どうする? 行きたい?」


「……行きたい、かな」


「シグレさまのお役にたちたいです!」


 強力なスキルが手に入るなら、行きたいに決まってるよね。現段階でも、過去のガロよりは強いだろうし、問題ないはず。


 装備を身に付け、食料――は、僕が持ってたから大丈夫。迷宮の入り口に案内してもらうと、そこは魔王城の後ろに隠されていた。

 ……本当に裏ボスだったりしないよね?


 入る前にはステータスチェック。


 ―――――――――――――――――――――


 名前 : 水崎 時雨 種族 : 異世界人? (魔族?)


 レベル : 17

 魔力 : 145200/145200

 筋力 : 42000

 耐久 : 39250

 敏捷 : 95300

 技巧 : 74550

 魔技 : 67200

 精神 : 120000

 SOL : 4435/4600


 スキル


『言語理解』『経験値倍化』『成長率倍化』

『成長限界突破』『スキルポイント倍化』

『刀術Lv5』『威圧Lv2』『体術Lv5』

『魔力操作Lv2』『回復魔法Lv3』

『雷魔法Lv2』『ステータス強化Lv20(10)』

『鑑定Lv3』『隠蔽Lv3』


 特殊スキル


『召喚 : 刀』『無限収納』


 スキルポイント : 1680

 ―――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――


 名前 : リア・ステファノス 種族 : 魔族?


 レベル : 21

 魔力 : 9999/9999 (68278)

 筋力 : 4886

 耐久 : 4074

 敏捷 : 4879

 技巧 : 9999 (14882)

 魔技 : 9999 (30114)

 精神 : 9999 (23142)

 SOL : 4435/4600


 スキル


『経験値倍化』『成長率倍化』

『スキルポイント倍化』『土魔法Lv2』

『闇魔法Lv3』『魔力操作Lv4』

『短剣術Lv3』『礼儀作法Lv2』

『ステータス強化Lv20(0)』


 特殊スキル


 スキルポイント : 116

 ―――――――――――――――――――――


 ―――――――――――――――――――――


 名前 : シルク 種族 : 獣人


 レベル : 67

 魔力 : 9999/9999 (21048)

 筋力 : 9999 (165792)

 耐久 : 9999 (83112)

 敏捷 : 9999 (113256)

 技巧 : 9999 (124320)

 魔技 : 9999 (47928)

 精神 : 9999 (91224)


 スキル


『経験値倍化』『成長率倍化』

『スキルポイント倍化』『長剣術Lv5』

『ステータス強化Lv20(10)』『魔力操作Lv3』

『回復魔法Lv5』『魔力回復速度上昇Lv10』


 特殊スキル


『創造 : 武器』『第六感』『限界突破』


 スキルポイント : 128

 ―――――――――――――――――――――


「僕のスキルポイントはどうなってるんだろ……えっと、16レベル上がってて、三倍……35かな……おかしい、元々は平均18くらいだったんだけど」


「わたしの、ステータス、この前は400とかだったのに……きゅうせんきゅうひゃくきゅうじゅうきゅう? しし、シグレさま……」


「()が見えるいがい変わってない……」


 前言撤回。今の魔王相手でも勝てるよ!

 僕のステータスはどうしちゃったのかな? 上がり幅がおかしいとは思わないのかな?


 というか、シルクは普通に強いんだけど。前の僕よりは明らかに強いね。本来ならシルクが魔王を倒すはずだったんじゃ?


 レベルも……高いな。


「よしよし、よく頑張ったね」


「……くぅん……ご主人さま……」


 撫で撫でして褒める。

 村のために頑張ってたんだろう。前の僕より強いってことは、必要経験値も相当なはず。

 報われなかったのには腹が立つけど、今は僕の仲間だし、これから報いてあげればいいや。


「……リアも魔族? って出てるけど、僕達は何の種族になってるんだろうね」


「わたしは特に変わってないですけど、シグレさまは……見た目から違いますもんね」


「違うの? ご主人様は元々どんな感じだった?」


「黒髪黒目だったよ」


 この見た目で召喚した国に行っても、僕だとはバレないんじゃないか? 数ヶ月前に数時間会っただけだし、そこまで細かく覚えてないと思う。


「――ふぇ?」


「リア、どうしたの?」


「え、えと、『ステータス強化』を取ろうとしたんですけど……スキルポイント1でよくなってて……」


 ……これも、ソウルリンクの影響かな。シルクの方は変わってないみたいだから、リアと僕が繋がってるせいなんだろう。


「まあ、便利だしいいんじゃない? 僕達が強くなる分には、誰も困らないからね」


「そうですよねっ! ……お待たせしてごめんなさい、行きましょう!」


「「おー!」」


 魔王城、地下迷宮……攻略開始!

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