第41話、グノーム

 ほのかな赤色に照らされるのは、手に巨大なつち、ツルハシを持った屈強な戦士の一団――それらが慧太とセラの行く手を阻むように待ち構えていた。 

 慧太はそれらを見やり、ため息をつく。


「思い出した。……グノームの民だ」


 険悪な空気だ。セラはアルガ・ソラスを抜き、慧太もしぶしぶ手にダガーを握った。

 マクバフルドを撃退して一難去ったと思えばまた一難。現れたのは地底の民、グノーム人の男たち。

 身長は一ミータメートル五十テグルセンチ程度とやや低身長だが、がっちりした筋肉質の肉体を持った彼らは、例えるならドワーフのような見た目をしている。ただし髭は生やしていない。

 武器やツルハシをもった彼らの物騒な歓迎に身構える慧太とセラ。だがそれは、すぐに友好的歓迎に変わった。


「マクバフルドはどうしたンダ?」


 リーダーと思しきグノーム人に問われる。西方語のようだが、訛っていた。目的はマクバフルドか――慧太は通路の奥を指し示した。


「倒した。証拠というなら、やつの角が奥に残ってる」

「マクバフルドがくたばった!」


 グノームの男たちは野太い歓声をあげた。爆発するような喜びよう。彼らは慧太の肩を荒々しく叩き、その逞しい腕で抱きつかれた。


 ――臭い……。


 慧太はうんざりしながらも、力いっぱい抱きしめられる。難を逃れているセラは微苦笑して見守っている。


「あのマクバフルドには、散々悩まされてきたンダ」


 ハグから解放された慧太の肩に手を置きつつ、グノームのリーダーが説明してくれた。

 グノームの坑道に棲みついた墓場モグラによって、彼らは上の階層に避難を余儀なくされた。何度か退治を試みたが失敗。今回も寝ているマクバフルドを爆破しようと試みたが……結果は奴を起こした程度で終わった。


「それで、あんたらは何故ここにいるンダ?」

「少し前に地震があって、地上から落ちたんだ。それで地下をさまよっている」

「ああ、朝の大地震。あれは酷かった」


 グノームのリーダーはその髭一つない角ばった顎に手を当てた。


「あれのおかげで、爆破作業を中止せざるを得なかったンダ。でなけりゃ、あんたらもあいつとやりあわなくて済んだかもなぁ! ガッハッハッ!」


 豪快に笑う。


「何にせよ、退治してくれて感謝ダ! これも何かの縁ダ。ぜひオレタチの集落へ来てくれ。ご馳走しよう」

「それは……ありがたい」

 のかな? 慧太は視線をセラに向ける。彼女も肩をすくめた。よくよく考えれば、マクバフルドを平らげた慧太はともかく、セラにとってはありがたい申し出のはずだ。携帯食ではないご馳走は食べられる時に食べたほうがいい。 


「お言葉に甘えて」


 グノームのリーダーに従い、慧太とセラは彼らの集落へと行くことになった。正直、自分たちが地下のどこにいるのかわからない。ここを住処にしている彼らの協力を得られれば、地上へ戻る道などを教えてもらえるかもしれない。


 マクバフルドと遭遇した広い空間を抜け、慧太とセラが落盤からここに達するまで歩いた通路へと向かう。ひょっとして逆戻りになるかと思うと、慧太は憂鬱だった。何故ならここは一本道だから。長い時間をかけて歩いた道を戻るなど、疲労感だけが募る。


 だが、それほど歩かないうちにグノームのリーダーは立ち止ると、上を指さした。


「ここに上層への穴がある」


 一定のリズムで壁を叩くと、不意に天井が開いた。そこからがっちりした金属製の梯子が降ろされる。


「なるほどね。上か……」


 慧太がセラを見やれば、彼女も小さく溜息をついた。

 リーダーに続き、梯子を登ると三方向へと分かれている空間に出た。壁には照明が埋め込まれ、それまでの薄暗さからすれば相当明るく見えた。他には武装したグノーム人が他に三人ほどいて、梯子を降ろしたのは彼らだった。


魔石灯ませきとうは知っているかな?」


 グノーム人のリーダーは、照明――魔石灯――が埋め込まれた通路を歩く。


「魔石同士を特殊な合わせ方をすると発光するという特性を利用した照明器具なンダ。地下で魔石灯見かけたら、それを辿ってればグノームの集落に辿り着けるかもしれないな! ガッハッハッ」


 今度からそうするよ、と応えれば、グノーム人のリーダーはさらに笑うのだった。

 やがて、慧太とセラは、地下亜人の集落へとたどり着いた。


 地下とは思えない大きな空間。地面や壁、天井にはクリスタル状の魔石灯が無数に設えられ、赤、黄、緑、青、白など様々な色が淡い光を放っていた。地下にあった宇宙――というのは大げさだが、暗闇に包まれた空間の中で輝く照明は、まるで無数の星空を浮かべる夜空のようでもあった。神秘的にして幻想的なグノームの集落。その光景に慧太は感嘆し、セラも心を奪われた。


 見とれることしばし、集落へを足を踏み入れる。岩をくり貫いて作られた住居。金属製の扉がなければ洞穴にしか見えないそれらが、いくつも見える。何だか集合住宅みたい、というのは慧太の率直な感想だった。

 リーダーに導かれ、集落のおさの家へと案内される。すっかり白くなったあごひげをたっぷりと蓄えた小柄――グノーム人から見れば平均的身長――の長は、マクバフルドを倒した顛末を聞くと、そのごつい両手を叩いて喜んだ。


「それはよくやってくれましたな地上の人! 何せ、あやつには何人ものグノームが犠牲になった。あやつがいなくなって喜ばないグノームはこの集落にはいない」


 歓迎ダ、宴ダ――とグノームの長が言えば、リーダーが部屋から出て行き、集落中に響く大声で『宴の準備ダー!』と吠え、その声に共鳴するように、似たような大声が立て続けに上がった。

 木霊こだまではないな――慧太はもちろん、セラもグノームたちの声の大きさに呆れ顔になった。


 かくて、集落の中央で宴の準備が始まった。

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