“デッドライジング”殲滅依頼

「騎士様!」


 龍野が部屋で眠っていると、フーダニットが駆け込んできた。

 手にタブレット端末を抱えている。


「“オルガノ・ハナダ”……。

 5番コロニー、“デッドライジング”のコロニーマスターから、救援の依頼です」

「オルガノ・ハナダだと!? 見せろ!」


 一瞬で凄まじい剣幕になる龍野。

 フーダニットからタブレットをひったくると、画面を睨み付けた。


「なっ……!?」


 そこには、以下の文面が記されていた。


---


須王 龍野 様


 5番コロニー“デッドライジング”にて、救援要請したくそうろう


                              オルガノ・ハナダ


---


「黒龍騎士団、全員集合!」


 龍野が大音声で、全ての黒龍騎士団員を招集する。


『聞こえますか?

 団長がお呼びです』


 ヴァイスもまた、念話でフォローを入れた。


     *


「まずはこれを見てほしい」


 龍野が、タブレットを全員に見せる。

 直後、全員が眉をひそめた。


「団長。

 彼は、コロニーマスターでは?」


 ハルトムートからの質問だ。

 オルガノとの関係を知らない彼――正確には龍野とヴァイスを除いた全団員だが――は、当然ながらこの出動に疑問を持つ。そのくらいは黒龍騎士団内で許されている。


「だから?」


 とはいえ、龍野はハルトの質問の意図を掴み切れず、聞き返したが。


「すなわち、“我々の敵”では?」


 龍野とヴァイスを除き、全団員が頷く。

 近くにいた、フーダニットさえも。


 だが龍野は、ゆっくり首を振って否定した。


「現在の彼の状況は掴めねえな。

 だが、現時点では敵だと断定できねえ。

 むしろ、味方の可能性すらある。フーダニットのようにな」


 名指しされたフーダニットが、一層の疑念を浮かべる。


「先に言っておくが、俺は彼を一度助けたって経緯がある」


 その言葉に、全員が驚愕した。

 無理もない。今の話は初耳なのだから。


「だから何だってワケだが……。『完全に疑惑を払拭するには、一度行ってから決める』って事だ。

 もしかしたら、本当に敵かもしれない。あるいは、味方かもしれない。

 だが、もし敵なら潰せば良し。味方なら、助ければ良し。

 違うか?」


 結局のところ、龍野は「議論している暇があるならさっさと動け」と言っているに過ぎない。

 その意図は団員達もよく理解していたが、やはり迷いが残っていた。


「ま、いくら何でも、眉唾すぎるわな。

 俺が全責任を負うっつっても、渋るのはわかる。

 なら、これならどうだ?」


 見かねた龍野は、“奥の手”を出す事に決めた。


「彼は……。

 お前達の親である、ハーゲン・クロイツだ。わかるか?」


 その言葉をきっかけに、全団員の目が、表情が、一変した。


「僕は行きます、団長!

 いや、行かせてください!」

「わたくしもですわ、団長!」

「俺もだ!

 爺ちゃんハーゲンの恩人なら、動かねえワケにはいかねえだろ!」

「その通りですわね、ゼルギアス様」

「まったくだ。

 真偽など、後で確かめれば十分」


 とりわけ激しく反応したのは、ブレイバ、グレイス、ゼルギアス、リーネヴェルデ、ヴェルディオの五人である。


「なら、決まりだな。

 総員騎乗、“デッドライジング”へ急行する!」


 全団員が、格納庫へ向かう。

 龍野も格納庫へ向かおうとし――


「待って、騎士様!」


 フーダニットに呼び止められた。


「どうした、フーダ?」

「行かないで!

 私の故郷を滅ぼした、元凶なんかを助けになんて……!」

(あー、そういえば)


 龍野が半分納得し、同時に思い出す。


(カンパニーが、フーダの故郷を滅ぼしたんだったな。

 だが、あのオルガノが? 俺には信じられねえ。

 ……確かめてやる)


 龍野はしゃがむと、フーダニットの頭に手を乗せた。

 そして、こう呟く。


「悪いな、俺にも退けねえ理由がある。

 それに、。だから」


 一度言葉を区切ると、ゆっくり、しかしハッキリと告げた。


「ここで待っていてくれ。フーダ」


 龍野は心を鬼にすると、フーダニットに背を向けて、ランフォ・ルーザ(ドライ)へと向かった。


「まったく、貴様は罪な男だ。須王龍野」


 その途中、ララに話しかけられた。


「その通りです。

 俺にしては、らしくないやり方でした」

「あの誓い、破るなよ」

「破りませんよ。

 そうだ、これが終わったら、ヴァイスを連れて調べますかね。

 “カンパニー”の歴史でも」

「なら良し」


 ララは山積みの砲弾に手を置いたまま、龍野を見送った。


     *


「すまん、待たせたな」


 龍野はランフォ・ルーザ(ドライ)に搭乗すると、周囲を見回す。

 全員が揃っている事を確かめ、命令した。


「総員、“デッドライジング”に転移テレポートせよ!」


 黒龍騎士団は光に包まれ、向かった。


 かつて助けた男が、戦っている場所へ。

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