vs『力』
「戻ったぜ」
すっかり拠点と化した、フーダニットの座す拠点にて。
龍野達黒龍騎士団は、二手に分かれていた。
一つ、次の“リブート”の品定めをしているグループ。
「ここまでで、既に大型の標的はほとんど狩った。
後は『星』辺りだろうが……」
「どの“リブート”も、他の参加者にとっては、脅威もいいところでしょう。
もちろん、格上の相手に圧勝した方も、我々“ハンター”の中にいらっしゃいますが……」
「正直、近いところから潰してもいいんじゃねぇか?」
彼らの議論は、行き詰っていた。
そして、もう一つのグループがある。
「叔母様、つんつん❤」
「大叔母様のふともも、つつきがいがありますわぁ~❤」
「んむっ……ぷはぁ。
やっぱり、ララ殿下とのキスは、何度でもしたくなりますわね❤」
「……(マユ姉様ぁ、助けてください……)」
ララと、ララをめちゃくちゃにするメンバーで構成されたグループであった。
当然、“ララをめちゃくちゃにするメンバー”とはブランシュ、グレイス、シュシュである。
真逆の雰囲気を持つ黒龍騎士団メンバーは、しばしの間、どの“リブート”を狩るかに関して紛糾していた。
*
さらに三十分後。
思わぬ解決策が、ハルトムートの口から出たのである。
「そう言えば、我々はまだ……。
10から13番のエリアには、行った事がありませんね?」
全員が、ハルトムートを注視する。
と、足音が響いた。
「その内、12番エリアでは、“ハンター”の中でも比較的実力のある者が、次々と消滅しているという噂を聞きます」
割って入ったのは、フーダニットである。
「決まりだな。
総員、ただちに鋼鉄人形に乗り込め……っと」
龍野が即座に決断するが、ブランシュ、グレイス、シュシュ、そしてララを見て、げんなりした。
「ヴァイス、ブレイバ、ハルト。
頼む」
「ええ」
「「はい!」」
かくして、ララに首ったけな巨乳娘三人を強制的に引き剥がし、各自の機体へ向かう。
「待て、須王龍野」
と、ララが呼び止めた。
龍野だけが、その場に残る。
「噂を聞く限り、私が適任だと思うが……。
貴様、どうやって潰すつもりだ?」
「俺が一対一で対決します」
「本気か……?」
一瞬、龍野の正気を疑うララ。
だが、今の龍野の実力と、自信を見て取り、すぐに撤回する。
「わかった。
だが、見届けさせてもらうぞ」
「安心して下さい。
俺は必ず、勝ちますから」
龍野は力強く言い切ると、ランフォ・ルーザ(ドライ)へ向かった。
*
機体に搭乗した黒龍騎士団とララは、テレポートで“セキロー”に向かう。
到着直後、全長3mほどの大男が出迎えた。
「貴様達が黒龍騎士団だな?」
これまでとは違い、先回りして聞いてきた男。
龍野が応じる。
「ああ、その通りだ。
お前は?」
「吾輩は“リブート”の一角、ガラク=モーディン。
貴様達“リブート殺し”、改め黒龍騎士団の噂は聞いている」
そう言うと、ガラクは龍野達を指差した。
「単刀直入に言おう。貴様達の中から、代表を選んで、俺と死合え」
その挑戦に、龍野が応じる。
「俺が戦おう。
待っていろ」
龍野はランフォ・ルーザ(ドライ)から飛び降り、大地の上でガラクに向き合う。
「来たか、黒騎士」
「ああ」
ガラクは龍野の二つ名を言い当てながら、拳を構える。
龍野もまた、鎧騎士と化し、大剣を構えた。
「なかなかの肉体ではあるが、吾輩に比べれば貧弱であるな」
「抜かしてな」
「ふむ、動じぬか……。
よかろう。吾輩が貴様を打ち砕く」
「やってみな」
次の瞬間、二人が激突した。
「はぁッ……!」
龍野は大剣を振り下ろしつつ、迫る拳を見切る。
直撃するもののみ避け、掠める程度なら障壁で弾いた。
「ッ!
ほう、やるな」
意外な事に、ガラクが僅かに驚愕する。
護拳部分を拳で抑え、龍野の斬撃は防いだ。
だが、大剣を振り下ろす衝撃までは、抑えきれない。
(今だ……!)
と、龍野が接触した事を確かめつつ、あるものを発動する。
(
「むぅ!?」
ガラクの体から、紫の煙が立ち昇る。
素早く龍野は飛び退り、体勢を立て直した。
「フフ、フハハハハハ……!
なるほどなるほど、流石は黒騎士。
吾輩の拳も見切るか」
笑いながら、足を開く。
(何かあるな……)
龍野は構えの変化に警戒しつつ、ガラクを注視した。
「では、これならどうかなッ!?
(む……!? 何やら、妙だ……!)」
直後、ガラクが飛翔した。
変幻自在の軌道を描き、龍野の意識の隙を伺う。
(こりゃ、ちょっと速いな……!)
龍野の意識にも、限界はある。
そしてそれを上回る速度で、ガラクは龍野の隙を突いた。
「遅いッ!」
拳が龍野に迫る。
彼の圧倒的な体格と重量、受ければ障壁も無事では済まない――はず、だった。
「何ッ!?
貴様、吾輩の拳をまともに……!」
だが、拳は薄絹一枚の所で届かない。
よく見ると、龍野の障壁が展開していた。
「残念だったな。
てめえの体重は、ほとんど奪った」
そう。
まさか飛行能力があるとは思わず、それゆえ“移動速度の強化”という恩恵をもたらす結果となってしまったが、本来の目論見通り、拳の威力が落ちていたのだ。
「フフ、フハハッ……!
そうか、そういう事か。
だが、その程度……貴様の勝利に繋がる訳ではない!」
再びガラクが、龍野の隙を突く。
と、龍野が想定外の行動に出た。
大剣を消失させたのだ。
「どういう、事だ……!?
貴様、決闘を侮辱し……」
「俺なりに勝算を考えた結果だ。
……ほら、捕まえたぞ」
「しまッ……!?」
動揺し、龍野に手首を掴まれる。
「
「ぐあッ!?」
今度は、ガラクの体が地に沈んだ。
「もう、てめえは飛べねえ」
「その、ようだな……!」
正確には、飛べないだけではない。
ガラクは腕を振るうのも、ままならなかったのだ。
「だが、動けないならば……!
(結合強化、発動……!)」
「それが何だ?」
龍野が大剣を再び実体化し、魔力を纏わせて切り裂く。
が、弾かれこそしなかったものの、付いた傷は浅いものであった。
(ッ!?
魔力があるのに、すんなり斬れねえ、だと……!?)
内心で動揺しつつ、それでも手を休めはしない。
既に動けないガラクは、回避などしないからだ。
「終わりだ……!」
そしてトドメを刺す為に、大剣を振りかぶった時――
「フッ」
「!?」
ガラクがわずかに笑う。
(こりゃ、まずい……!)
大剣から手を放しつつ、魔力を噴射して飛び退った龍野。
これが、彼の命運を分けた。
ガラクに触れた大剣が、粉々に砕け散ったのだ。
「な――――」
だが、龍野は無事である。
その事実が、ガラクの心をへし折った。
「ハァ、ハァ、ハァ……!
(くっ……! 吾輩の計略に、気付きおったとは……!
何という、幸運と直感……!)」
飛び退った龍野は、これ以上何も起こらない事を確かめると、三度大剣を実体化させた。
その切っ先を、ガラクに向ける。
「なあ、悔いはねえか?」
と、龍野は無意識に、そう発していた。
「悔い……。
悔い、だと? そうか、悔いか……」
ガラクはしばしば考えるが、やがて、こう返した。
「ある、な。
まだまだ、強い奴らと戦い、倒したかった」
「そうかよ」
「ああ、貴様はそういう事だったか……。
『この門をくぐる者』……」
「『一切の希望を捨てよ』、だろ?」
龍野が何気なく返すその一文は、ダンテの『神曲』の一部であった。
「フフ、フハハハハハハ……。
そうか、貴様は地獄の、使いだったか……」
「かもな。
あの世や来世で、戦えよ。
「ああ、そうしよう……」
龍野はガラクが微笑んだのを見届け、極大の
その熱量は、全長3mの巨体をも、軽く焼き払ったのであった。
*
「出会いが違っていれば、また……。
いや、最早言っちゃなんねえな」
龍野はガラクがいた地に背を向けると、ランフォ・ルーザ(ドライ)に戻る。
そしていつもの調子で、作戦終了を宣言した。
かくして、黒龍騎士団は“リブート”の一つ、『力』を撃破せしめたのである。
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