vs『正義』

「次の目撃情報は……おや?」

「助けてくれ!」


 龍野達がエリア“モンスターファーム”に足を踏み入れた途端、現地民と思しき人々が機体の足元に殺到した。


「どうしたんだ? 話してくれ」


 これ幸いと、情報取得を試みる龍野達。

 しかし罠の可能性もある為、鋼鉄人形には乗ったままである。


「突然、ピンク色の物体が現れたと思ったら……!」

「一帯の木々とか動物とかを、食い始めたんだ……!」

「今でも、あいつは……!」


 必死になって、窮状を訴える。

 そんな中、龍野は冷静に、全天周モニターの光景を見ていた。


「あー、あんたら……。

 ひょっとして、アレの事か?」


 ランフォ・ルーザ(ドライ)が指さした方角には、次々と倒れる大木があった。


「ああ、アレだ!

 アレを始末してくれ!」

「わかった、引き受けよう。

 念の為、遠くに離れていてくれ!」


 人々を足元から引き離すと、龍野は黒龍騎士団を引き連れ、急行した。


     *


「あー……。

 話には聞いていたが、近くで見ると、キモいわ、アレ」


 距離200m程度まで接近した龍野は、スッと“ランフォ・ルーザ(ドライ)”に剣を構えさせる。

 宣戦布告も何もない、純然たる不意打ちだ。


「とにかく、黙らせるとするか」


 剣の先端に光が収束し、光条レーザーとなって放たれる。


「ぽぺ!」


 が、ピンク色の物体は、、跳躍して回避した。


「失敗か……。

 おい、一つだけ聞かせろ!」

「ぽぺ?」


 ピンク色の両脚は、形状を保ったままランフォ・ルーザ(ドライ)に向き直る。


「お前、“リブート”か?」

「ぽぺ! ぽぽぺぴぱぽぽ、ぱぽ!」

「何を言ってんだ?」


 龍野が問い直すが、ヴァイスがそれを止める。


「龍野君。

 あの物体、どうやら肯定しているらしいわ。

 “リブート”みたいね」

「どうして言い切れるんだ、ヴァイス?」

じゃない、あの子」


 ヴァイスの言葉通り、いまだに体を縦に前後させている。


「だったら、なおさら見逃せないな」


 龍野はランフォ・ルーザ(ドライ)を前進させると、剣の切っ先を空に向け、眼前に持って行かせた。


「お前に恨みは無いが、お前の行動を止めたい連中がいる。

 覚悟しろ」


 改めて、宣戦布告する。


「射撃開始!」


 号令と同時に、ランフォ・ルーザ(ドライ)の胸部装甲を展開。

 25mm砲弾をばら撒いた。


「ぽぽ!?」


 驚愕する様子が見て取れたが、全弾回避されている。


(やっぱ、射撃は当たらねえか……!)


 と、ピンク色の物体が、1機に接近した。


「受けて立とう……!」


 ハルトムートが操る、ジニア・ノイモーントが標的だ。

 物体は跳躍すると、瞬時に体を拳骨に変えた。


「ふっ……!」


 だが、ジニア・ノイモーントの盾に阻まれる。

 直後、霊力弾の嵐が、ジニア・ノイモーントのすぐ脇を通り抜けた。


「大丈夫、ハルト!?」


 リナリア・ゼスティアーゼが近づいてくる。

 援護射撃の主は、グレイスだった、


「姫様……。大丈夫です、ありがとうございます。

 それよりも、次を……ッ、お下がりください!」


 今度はジニア・ノイモーントが、リナリア・ゼスティアーゼを庇う。

 自らを拳と化して殴りかかる物体を、ひたすら盾で弾き、隙あらば剣を振るう。


「まずいな……。

 ハルトに攻撃を集中してるぜ」


 ランフォ・ルーザ(ドライ)が、援護の為に急行する。


 だがその前に、ジニア・ノイモーントの振るう剣が、物体の一部をそぎ落とす。


「ぱぽぽ!?」


 動揺を明らかにする物体。


「覚悟!」


 ハルトがトドメを刺そうとするが、逃げられる。


「ねえ、あの方角はまずいのではなくて!?」


 そう叫んだのは、シュシュである。


「先ほど話した皆様がいらした、“ワイルドアームズ”との境界付近ですわよ!」

「そりゃまずいな!」


 龍野がランフォ・ルーザ(ドライ)に、盾から光条レーザーを連射させつつ、素早く回り込む。


「逃がすワケねえだろうが!」

「ぱぱ……ぱぽ!」


 最早逃げられないと悟った物体は、一段と高く跳躍する。

 黒龍騎士団は一斉射撃をしていた――ランフォ・ルーザ(ドライ)を除いて。


「ぱぽぉっ!」


 と、物体が巨大な口を作り上げる。

 ランフォ・ルーザ(ドライ)を、文字通り“食べる”気だ。


「だったら、腹いっぱい食わせてやる」


 そんな状況であっても、龍野、ヴァイス、ディノは冷静だった。


「持って行け!」


 物体の口がランフォ・ルーザ(ドライ)を捉えんとする直前、口内に剣が差し込まれる。

 遅れて盾をも、つっかえる状態にしてねじ込まれ、物体は剣を嚙み砕く事を封じられた。


「じゃあな」


 龍野の一言に続き、剣と盾から、光条レーザーが何度も放たれる。

 分厚い舌も瞬く間に蒸発し、奥にあった内臓や脳が蹂躙される。


 やがて熱量に耐えかねた物体が爆発、四散した。


     *


「こいつもこいつなりに、必死に生きていたんだろうな」


 返り血で染まったランフォ・ルーザ(ドライ)から、龍野がぽつりと漏らした一言が響く。


「何だろうな……。

 敵なんだけど、何か、憎めねえ」


 合流しつつも、独り言は止まらない。


「やっぱ、“カンパニー”が元凶か。

 それとも、別の存在が元凶か」


 龍野は6機の合流を確かめると、次の敵を目指し、機体を歩ませた。


「いずれにせよ、タダでは済まさない」


 そう、呟いたのである。


     *


 戦場には、返り血だけが残っていた。


 かくして、黒龍騎士団は“リブート”の一つ、『正義』を撃破せしめたのである。

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