プレゼント、フォーユー
@araki
第1話
一摘まみの餌を振り撒けば、魚たちが我先にと上へ昇っていく。やがて水面から顔を出すと、彼らは必死にその口をぱくつかせ始めた。
飼い始めた頃は生き汚いとあまり良い印象を持てなかったが、今では必死なその姿を愛らしいと思うようになった。
『ごめん、しばらく手が離せなくなるからさ、代わりにこの子たちの世話をお願い』
両手を合わせて頼み込んできた眞田。いつもは決定事項を一方的に伝えてくるだけだったあいつの珍しい姿に気を良くして、あの時の僕は二つ返事で引き受けてしまった。
正直なところ、後悔している。もっと考えるべきだったのだ。魚の世話の大変さ、電気代や水道代といった諸々のコスト。
そしてなぜ、あの眞田が頭を下げたのか。なぜ、あいつがずっと大切にしていた彼らを僕に預けることにしたのか。
「……馬鹿だよなぁ」
思わず苦笑してしまう。きっと、初めて頼られた事実に舞い上がっていたのだろう。 それで頭がいっぱいで、他のことが考えられなかった。
ポンコツな僕は全てを後回しにしてしまい、結果、今日も魚たちの世話をしている。
目の前の彼らは相変わらず、脇目もふらずに餌にありつこうとしている。生を渇望するその姿が眩しく見えた。
――少しは見習ってほしかったもんだ。
ひどい置き土産があったものだ。これではいつまで経っても忘れられない。
とりあえず、彼らが残らず彼女の下へ向かうまで、あいつのことを考え続けようと思う。
プレゼント、フォーユー @araki
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