愛さえあれば

@araki

第1話

 私は人に喜ばれるのが好きだ。

「明日の11時、例の企業との会合を」

「これ、次の会議の資料だからコピーをとってきてちょうだい」

「この事業案について意見をきかせてくれるか?」

 世のため人のため。皆の喜ぶ顔を見られるのはとても嬉しい。

「承知いたしました、アポイントメントをとっておきます」

「前回と同じく120部でよろしいでしょうか?」

「そうですね、去年の当該市場での売り上げを勘案しますと……」

 私は色々な人たちと友達になりたい。だから誰とでも仲良くなれるよう頑張っている。

「よろしくお願いしますね、林さん」

「以前にもお会いしましたよね? ほら、駅前の喫茶店で」

「奇遇ですね、私も同じ趣味があるんですよ」

 人の輪は自分で作る。それが私のモットー。待っているだけでは誰とも仲良くなれない。歩み寄っていかないと。

 友達が多い人はそのうちの誰かを蔑ろにしがち。よく言われることだけれど、そんなことは絶対にしない。一人一人との関係を大事に、心からその人に尽くすようにしている。

 相手のことを一番に考え、例え言葉にしていなくても、その人が望んでいることを理解するのが大事だ。

 例えば、相手がきっと知りたいだろうなと思う情報があれば、私はすぐに教えてあげるようにしている。

「A社がついに上場するそうですよ。事業も拡大するとの話です」

 私のしていることは人が喜ぶこと。ただ、他の人にとってはあまり喜べないことかもしれない。そんな時は、

「B社のCEOが近々変わるそうです。何でも社内で下剋上が行われたようで」

「C社ですが、D社とのM&Aを計画しているようです」

「ここだけの話、E社は現在の市場を撤退、新たな市場の開拓に注力するそうですよ」

 その分、他の人にもたくさん良いことをしてあげる。そうすればきっと許してくれるはずだ。皆、良い人だから。

 私は皆のために行動している。誰かのためならどんなことでも頑張れる。

 ――だからきっと、誰よりも認められているはず。

 それを誇りに、私は毎日を生きている。



「あの子は本当に使い勝手がいい。誠に御しやすい人間だ」

「多分、いつか破滅するでしょうね」

「まあ、自業自得だな。誰も助けちゃくれないだろうよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛さえあれば @araki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る