嵐のあとでも

@araki

第1話

 窓の外では嵐が吹きすさんでいる。横殴りの雨の中、木の葉が舞っている。木々は今も追い剥ぎにあっているのだろう。

 ――これは望み薄かなぁ……。

 まさか今日に限ってこんな天気になるとは。私は雨女ではないはずだ。となると、現況は後ろの人間かもしれない。

「何しょぼくれてんの、裕太」

「……だって」

 ふて腐れた表情で膝を抱えている私の弟。それも仕方ない。裕太はずっと前からこの日を楽しみにしていた。一年で一度だけ、父さんと会える日を。

「せっかく父さんと出かける予定だったのに……」

 裕太は父さんにとてもよくなついていた。アウトドア志向で活発。フィーリングがあっていたのかもしれない。

 だから友達との遊びを全て断り、珍しく早寝早起きもして今日に備えていた。なのに、外は大荒れで。ひどい仕打ちだった。

 携帯にメールの着信があった。差し出し人は父さん。確認すると案の定、お出掛け延期のお知らせだった。

「父さんから。紅葉狩りはまた今度にしようって」

「……そう」

 裕太はそのまま顔を膝に埋めてしまった。

 正直に言って、私は父さんによい印象を持っていない。よく家を空ける人で、たまに帰ってきてもすぐに飛行機でどこかへ旅立ってしまう。名の知れた写真家らしい。けれど、私にとっては私たちをほったらかしにする人。ただそれだけだった。

 だから、このイベントが延期になろうが中止になろうが私にはどちらでもいい。けれど、

「………」

 裕太が悲しむなら話は別。弟がいてくれたから私はあの時を乗り越えられた。家族の空気が荒んでいく中、裕太だけは笑顔を絶やさず、ずっと私のそばにいてくれた。

 だから、これからはずっと私の番。私は裕太の傍に寄り、肩に手を置いた。

「大丈夫だって。延期になっただけで中止じゃない。次はきっと晴れるよ」

「でもこの天気じゃ葉っぱ全部落ちちゃってるよ、絶対」

 確かに、この天気だと厳しい。ほとんどの葉は地面に落ちてしまっているだろう。裸 同然の木々を見てもむなしくなるだけ……。

 ――あっ。

 ふと、テレビで見たある光景を思い出した。逆転の一手。私はにやりと笑った。

「諦めるにはまだ早いかもよ?」

「え、どういうこと?」


「父さん見て見て! すごいよ!」

「ああ、とてもきれいだな」

 裕太は目の前の景色を必死で指差し、父さんと笑いあっていた。

 周りを木に囲まれた大きな川。その水面一面に鮮やかな赤色の絨毯が敷かれていた。

「姉ちゃんは見なくていいの?」

「うん、私は大丈夫」

 私の前で裕太が笑顔を見せている。それだけで幸せだから。

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