第4話 優しい紳士Ⅱ

こんな役立たずの「あたし」だったが


独りでも、生活が心許無い、優しい病気がちのじいさんに


全て、生活の糧を、頼り切る訳には行かなかった。


身元も名前も分からないけれど


でも、そこは、この町のいい所で


適当に、身元も、名前も誤魔化して


「あたし」は、小さな雑貨品屋で、働き始めた。


でも、やっぱり、例の厄介な発作は、どうにもならずに


すぐに、お払い箱、だった。


因みに、この星のこの国では、


皆、名前は長ったらしい、文字と数字の列で、呼ばれる。


国に登録される。産れてからすぐに。


記憶の無い「あたし」は、暫くそんな番号の様な名前も無かった。


呼ばれるのは、あんた、か、じいさんの、おまえさん、か、おい。


店を何度も解雇させられて、じいさんに合わす顔が無くなった「あたし」は


裏通りの、少し凹んでる、ちっちゃい空き地に寝転んで、ぼ~っとしていた。


♪~今日も私達は、明日を謳うの~どんなに打ちのめされても何度でも立ち上がるの~♪そしたら素敵な明日が待ってるわ~♪


遠くから、でも大きな音で、いつも通りの歌が流れてきた。


この国では、朝と昼と夜の決まった時間に


こういう感じの、明るく幸せなメロディーと


明るく良く伸びる、女性の歌声が、流れてくる。


「あたし」には、何故かそれが、ちょっと、不自然に、聴こえた。


その歌は、「HAPPY」と言う名の、色とりどりの愛らしい花で作られた、服を着た


アンドロイドが歌っていた。


「あたし」は、よっこらせ、と気の重い体を、持ち上げて、大通りに出た。


もう陽は沈んでいた。


そこへ急に後ろから声が聞こえた。


「おじょうちゃん。こんな時間にどうしたの?こんな所で。家出?髪も綺麗じゃない。栗色で長くて。もったいないよ。ん?」

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