この世界で僕は変わらないといけないらしい。

かぐや

序章

異世界への転生

 3月上旬。

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 僕は走って家へ向かう。やっとだ、やっと…!あまりの嬉しさに思わず笑みを浮かべる。

 ついに、ついに―

 仕事が決まったのだ!

 進学校と言われる高校を卒業し、名門といわれる大学へ進学した。

 童貞は卒業できてないけどな!(笑)

 このままいけば、有名な企業へ就職し、何不自由ない暮らしができる。

 ―そう思っていた。

 だが、僕は大学を中退した。理由はなんでだろう。もう忘れてしまった。どうせしょうもない事でやめてしまったのだろう。

 大学を中退して、5年が経っていた。その間は実家で暮らしていた、いわゆるニートってやつだ…。我ながら何をしていたんだろう。その間も世話をしてくれた両親には本当に感謝している。

 まぁ、居心地は良いものではなかったが…。

 でも、そんな生活とももうサヨナラだ!

 これからは、一人の社会人として働き、親孝行をたくさんしようー

 そんな事を考えている内に、僕は家の前に着いた。荒れた呼吸を整える。

 早く報告したい気持ちを抑え、玄関のドアノブに手を掛けた。


「ただいま!父さん、母さん、聞いてくれよ!やっと仕事がーー」


 ピカッ‼︎

 玄関を開けると、眩い光が差し込んできた。その光は僕を包み込む。

 あまりの眩しさに僕は目を瞑った。

 どのくらいだろうか、しばらくして僕は目を開ける。


「なっ…!」


 目を開けると、僕は家にいなかった。だが、ここがどこだかわからない。なにしろ、真っ暗で何も見えない。

 少し歩いてみる。

 進んでいるのは分かるが、暗すぎて進んでいる感じがしない。物も何もないようだ。


「本当にここはどこなんだ…。」


 僕は少しばかり不機嫌になる。

 当然だろう。

 ようやく仕事が決まり、両親に報告しようとしたのに、訳の分からない光に包まれて?暗闇の中に連れ込まれて?なんなんだよ、もう!


『聞こえますか。山田健斗よ。』


 どこからか女性の声が聞こえる。

 お?誰だ?僕の名前を呼んでいるのは。

 あたりを見回してみるが、姿はどこにもない。

 すると、目の前から光が放たれた。

 ピカッ!


「うわっ!」


 僕は思わず目を閉じた。

 ゆっくりと目を開けると、目の前には女性が立っていた。しかも、とびきり美人だ。まるで、そう、女神のように。


『お待ちしておりました。私は女神のセリヤと申します。』


 …女神だったよ、本当に女神だったよこの人。

 え、なに?ここはあの世なの?俺は死んだんですか?

 この状況に困惑して、うまく思考が回らない。

 そんな僕を置いて、女神は続ける。


『私の仕事は人を公正させること。

 山田健斗。

 あなたを別の世界へ転生させましょう。その世界であなたは変わるのです。』


 公正?

 僕は何か犯罪を犯したのでしょうか?

 あぁ、もう、ついていけない!


「えーっと、女神さま?僕はなにかしたのでしょうか。」


 ひとまず丁寧に聞いてみる。本当はこの状況はなんだとか怒りたいけど、我慢する。

 なにせ、社会人だからな!


『あなたは大学を中退し、働きもせず、20を超えても親のスネをかじり続けてきました。』


 グサグサッ!


 言葉の槍が刺さる。

 痛い痛い。もうやめて下さい。

 女神様に言われるとダメージが違うな。


『そんな社会に貢献しない人は、更生する必要があり、あなたはここに呼ばれたのです。』


 社会に貢献しない人って…。言いたいことは分かるが、なんかムカつくなー。そんなに社会に貢献しないといけないのか?

 まぁ、もうすぐ働く訳だけどさ。


「で、僕はなにをすればいいのですか?女神様。」


 少し怒ったような言い方をした。

 …怒ってるからね。


『ですから、あなたを別の世界へ転生させます。

 そこで、あなたは変わるのです。』

「え、転生?」

『えぇ、転生です。』

「それって、元の世界に戻れないってことですか?」

『そうです』

「じゃあ、元の世界の僕は…。」

『死んでることになりました。』


 は?女神の口から何か聞こえたんだが…。

 死んだ?僕が?


「死んだんですか?」

『はい。死んでもらいました。』


 そう言って、女神の上にモニターみたいなものが出てきた。そこに映ってたのはー


「これって…僕?」


 そこに映し出されたのは、玄関の床に倒れている僕。そして、周りには両親がいた。

 本当に死んだんだな…。


 ん?ちょっと待て。さっきなんか女神言ってなかった?

 死んでもらいました?女神に命取られたの?


「あの….、女神さん?死んでもらいましたとは一体…。」

『言葉どうりの意味です。』

「どうやって死なされたんですか?」

『玄関で滑って、床に頭を打ち付けて死にました。』

「………。」

『……………。』

「…いや、雑っ‼︎」


 え、驚いたんですけど。床に頭打って死にますか?

 ちょっと待って。モニターに映ってる父さん笑ってない?あまりの死に方に笑ってない⁉︎

 すごく恥ずかしい…。


「でも、なんでそこまでして…。」

『私の仕事は人を更生させることです。あの世界ではあなたは更生できないと判断し、異世界に転生させる事にしました。』

「あの世界で更生出来ないって…。できましたよ?更生。」

『なにを…。仕事もしてないじゃないですか』

「いや、仕事なら決まりましたよ。ついさっき。」

『………え?』

「やっと仕事が決まって、両親に報告しようとしてたんです。そしたらここに連れてこられて。」

『………。』


 女神の、それまで威厳を保っていたような顔は変わり、焦っているよう顔である。

 おっと?これは女神が失敗した感じかな。

 まぁ、そんなことはもうよくてー


「僕はもう更生したんです。なのでもう戻してください。」

『………それは出来ないのです。』

「…え?」

『一度死んだ人は元の世界にはもどれないのです。』


 いやいやいや!死んだって、あなたに死なされたんですけど!

 もう戻れなくて、強制的に転生?


「もう転生するしかないのですか?」

『…申し訳ないのですが、そうです。お詫びに、転生した時、私の力をすこし与えますので…。』

「いやいや、そちらのミスでしょ?ちゃんと元の世界に戻してくださいよ。仕事もろくに出来てないじゃないか。」


 ー仕事もろくに出来てないじゃないか。

 この言葉に女神が反応した。

 先程、焦って涙目になってた女神は一転し、怒ったような顔になった。

 

『あ、あなたに言われたくありませんっ!仕事なんてしてないじゃないですかっ!』


 いや、それはこれからやる予定だったんだけど。

 ツッコミたい気持ちを抑えた。


『そうです!仕事をしてないのであれば更生なんてしてません!なので、異世界へ転生します!』


 女神はそう言うと、僕の足元に魔法陣が描かれた。

 明らかにこの流れから、異世界への扉的なやつだろう。


『山田健斗!あなたは異世界で更生するのです!』


 僕の身体が光に包まれる。

 えー、無理やりすぎない?

 せっかく変われたと思ったのに、なんで異世界で変わらないといけないんだよぉぉ!


 そうして、僕は異世界に転生した。

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