第21話

 しばらくして目の前に注文のラーメンが置かれた。仙造の胸が心なしか躍った。 急いで味を確かめるべく、湯気の立ち昇るスープを口に搬んだ。目を瞑り、空気と一緒に深く味わう。前とまったく同じだ。自分が拵えたものとは細かい部分は違うものの、大筋では間違いない。ますます自信が湧いてきた。あとは材料が何であるかを突き止めれば、ほぼ同じものができあがるはずである。しかし、その材料が何であるか、それが問題だった。


 そんなことを考えながらラーメンに集中しようとしたとき、カウンターの中の会話を小耳に挟んだ。上目遣いに見ると、確かに見覚えのある顔だった。店長らしき男は、下働きの若い衆に「材料の仕入れがあるから、あとを頼む」といい残して厨房を出て行った。

 それを聞いた仙造は、この機会を逃したら今度いつチャンスが訪れるか知れないと思い、急いで店を出た。

 車に乗り込み、いつでもスタートできる状態にして、偉龍如の店長が出てくるのを待ち構える。


 五分ほどすると、店の裏口から男が姿を現した。黒のダウンジャケットにジーンズという出で立ちで、頭には黒い色のキャップを被っていた。男はワゴン車のエンジンをかけると、忙しなく車を動かして国道に乗り入れた。

 車は右に折れて、北に向かって走り出す。仙造はすぐあとを追ったが、間に一台入られてしまった。しかしあとから思えばそのほうが都合がよかった。直後の尾行は余計な神経を遣うからだ。――


 男の車は二十分ほど国道を走り、ある信号で左折をする。偶然なのか、間の車もあとを追うように曲がる。仙造も躊躇なくあとに蹤いた。国道から離れると途端に闇が深くなった。


 真っ直ぐ伸びる田舎道の正面にはこんもりとした山とも森ともつかない黝いシルエットが冬空に泛び上がる。三台の車のヘッドライトは、迫る黒塊の麓を縫うように走った。

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