ず・ず・ず
zizi
第1話 ラーメン街道
あの刺し貫くような陽射しがなりを潜め、気がつくと周囲の景色が色褪せていた。
排気ガスの混ざった冷ややかな風が、店の前に立った黄色な
いつものように昼の時間が過ぎるととたんに交通量が少なくなり、それに連れて人影も疎らになる。
「あんた、またこの並びに新しい店ができるんだってよ」
とみ子は、「満天軒」と赤地に白い文字で染められた暖簾を仕舞いながら、不満を込めた言い方をした。
「ああ」
仙造は邪魔臭そうに返事をし、つと背中を向けて寸胴鍋を覗き込み、沸々と沸き立つスープの様子を気にした。
昼の営業が済み、すでにこれから夜に向かっての仕込みにかかっている。
仙造の店は、都心から東西に伸びる片側三車線の環状線に沿ってあった。
その国道は通称ラーメン街道と呼ばれていた。
店をオープンした二十年前、ラーメン屋というものは仙造の店くらいしかなく、他にあるといえばトラックやタクシーの運転手が好んで利用する定食屋くらいだった。
それがいつの頃からか同業のラーメン屋が一軒、また一軒と増えはじめ、あっと言う間に百メートルのほどの間に五件のラーメン屋が肩を並べるようになってしまった。
それだけならまだしも、道路の反対側にも同じように四軒のラーメン屋が軒を並べるようにして出店している。まさにラーメン街道そのものだった。
これまで近所に新しい店がオープンするたびに、間違いなく満天軒の売上は落ち込んだ。その度にとみ子は愚痴をこぼすのだが、やり繰りを任されている本人にしてみればそうなるのも無理ない。
しかし、ラーメン街道と名前がつけられるようになってから確実に人の出は増えている。
仙造の頭の中には、他所にないオリジナルなものを工夫すれば、店の前にうんざりするほど客を並ばせられることができるという想いがこびりついて離れない。
少し遅めの昼食である仙造の拵えたチャーハンを口に搬びながら、
「どうすんの、あんた? さっきその店の前を通ったら、近日オープンと貼り紙がしてあったわ。困ったことよねェ、これ以上同業店ができたらうちは店を畳まなきゃなんないわよ」
と、口に出さないと気がすまない性分のとみ子は、仙造の胸の内を忖度することもなく、まるで他人のような無神経さで洩らした。
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