“さとり”の婚約破棄劇

空のかけら

第1話 王太子アーサー

そうだ、真実の愛に目覚めた俺にふさわしい女性は、男爵令嬢アリアだ。

公爵令嬢ローザな…


2

…?

なにかおかしいぞ。

なぜ私が隣にいる?

しかも、「このままいけば、私は王妃。なかったことをあったかのように言って思った通りになるなんて、やっぱりヒロインね。将来のことを吹いたら、みんなにも協力してくれたし」と聞こえてくるのは、なんだ。

アリアの声か?

まさか、こんなことを考えていようとは、一考の余地ありだな。


3

ん、また視点が変わった。

今度は誰だ。

アリアの後ろにいた、ルクサ(宰相の息子)か。

「王太子でなければ、謀殺したのにいまいましい」

ほほう、こいつこんな事を考えていたとは、今後の付き合いは考えなければならないな。

「それに対して、アリアはいつも綺麗でかわいらしい。その笑顔をいつも通り私だけに向けて欲しい。私も、君が言う通り、いつも格好良くありたいから」

いつも通りとは、なんだ。

俺の方にもアリアは、「いつも格好良い」と言っているぞ。

…八方美人か?


4

また、誰かになった。

今度は、壇上に立っている、俺と男爵令嬢アリア、公爵令嬢ローザ、ルクサなどの取り巻きと学園長などが見える。

「せっかくの卒業式なのに、思い出を台無しにするつもりかしら」

どうやら、女性のだれかの中らしいな。

結構怒っているようだが、だれだろうか。

「真実の愛に目覚めた王太子の婚約者になるから、将来は王妃。その時は、高い身分を約束するからなんて、空手形もいいところ。平民主席を奪ったからって言っても、平民には変わりないし。でも、アリアの言う通りの証言をしたら、王太子が本当に信じるとは思わなかった。どこまで、頭が悪いの」

やっぱりそうなのか、ウソなのか?あれがウソなのか?


5

またか。

段々慣れてきたぞ。

「兄が婚約破棄をすれば、ローザと婚約できる」

多分これは、弟だな。

第二王子だ。

王位継承順位は、第2位だ。

俺が失脚すれば、こいつが王位に就く。

「昔から、憧れていたし、彼女と釣り合いが取れるように何にでも頑張ってきたんだ」

そう言えば、こいつの成績、俺よりも優秀だったな。

もう、父と一緒に政務もしていたか。

学園にも所属していたはずだが、なぜ来ないのだろうか。


6

「「バカが。何をしておる」

これは、父だな。

「まさか、あの不埒な者の言を真に受けて、よからぬことを考えていまいな。ローザの言っていたことは真であったな」

アリアとの真実の愛の話か。

あれは、もうない。

ルクサにくれてやるさ。


7

「全く。こんなに愚かだとは思いませんでした。あらかじめ、王さまと父に婚約破棄を申し出でて、了承。婚約を白紙にしておいて、よかったですわ」

…なんだって?

もう、婚約破棄されていたとは、聞いていないぞ。



はっ

気がつくと、自分の身体に心が戻ってきた感覚があった。

さっきのことは、いったい?

それよりも、今の状況だ。

「…真実の愛に目覚めた私は、公爵令嬢ローザとの婚約を破棄し、ここにいる男爵令嬢アリアとの婚約を…」

ちょっとまて、何を叫んでいる。

アリアは、打算で王妃になりたいと言っていたじゃないか。

このまま行けば、こいつと心中することになってしまう。


周囲がざわついている。


「ここにいる男爵令嬢アリアと宰相令息ルクサとの婚約を認める!」


「「…はぁあああ?」」


この言葉に、アリアとルクサは息の合った困惑の声を上げた。


ローザとの婚約は、さっきの発言よりも前に白紙にされている。

アリアなどとの心の声から考えても、アリアとの婚約などあり得ない。

これが最善だ。

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