『113、閑話 バカだな (ボーラン視点)』

こちら側での戦が終わった後にリレンが地に伏した。

顔は青ざめており、呼吸は驚くほど荒いから今にも死んでしまいそうだ。


「リレン・・・まさか死んでないよな?」


せっかく出来た友達を亡くしたくないという思いだけで近づく。

もちろん敵は水の檻で閉じ込めているが。

恐る恐る近づいていくと、お腹が荒い呼吸に合わせて上下しているのが目に入る。


「良かった。死んでなかった」


ひとまず安心だな。

強化魔法を3つも自分にかけるなんて、常人であれば普通に死んでいるはずだ。

それでも命に別状はなさそうだから、王族っていうのはやっぱり凄い。


「そっちは大丈夫だった?ってリレンはどうしたの?」

「強化魔法の使い過ぎだ。自分に3つもかけて戦いが楽になるように仕向けたんだな」

「まさか・・・フェブアーさんのために?」


フローリーが信じられないといった表情でリレンを見下ろしている。

魔力の枯渇は治癒魔法では治せないため、このまま拠点まで運ぶしかない。


「よっと・・・って軽い!」


持ち上げてみると、リレンの体は思った以上に軽かった。

ちゃんとご飯を食べているのだろうか。


「魔力が無くなったせいかしら?リレンがご飯を食べてないとも思えないし」

「確かにな。俺たちの体調まで気遣ってくれるもん」


領地巡りの旅でも今回の旅でも、リレンは俺たちのことを気にかけてくれた。

ご飯もしっかり食べていたように思える。


「エーリル将軍たちの方は大丈夫だったのか?10000はいたんだろ?」

「でも適度に魔法の砲撃が来て魔術師を倒してくれたから。あれはリレンがやったのね」


フローリーが金の髪を撫でる。

いつもは風に吹かれて輝く金髪も今では湿り、碧い目は閉じられていて見えない。


「リレン様!?まさか・・・」

「カルスさん。気持ちは分かりますけど焦り過ぎです。魔力が切れただけですよ」

「そうですか。本当に良かったです」


せっかく見つけた主を失いたくない気持ちは痛いほど分かる。

俺も友達である彼を大切に思っているのだから、カルスさんはなおさらであろう。


「リレン様!?・・・見たところ大丈夫そうですね」

「呼吸はしてますし、魔力が枯渇してしまったのでしょう。あんな魔法弾を放つから・・・」


フェブアーとエーリル将軍も安堵の表情を見せた。

リレン・・・お前はバカだな、と心の中で悪態をついてから、彼をカルスさんに預ける。

こんなに心配してくれる人がいるのに。


「早く目覚めて安心させてくれよって言いたいな。無茶しやがって・・・」

「本当ね。とりあえず見えた傷は治したけど。隠れているお姉ちゃんの反応が見ものだわ」


おいおい・・・心配している姉の反応で楽しむなよ。

俺は呆れながら、意地の悪い笑みを浮かべるフローリーに続いて拠点に入る。

春の風が頬を撫でる。


少しは魔剣士としてリレンの役に立ててればいいな。

俺はそんなことを思った。

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