『13、王子襲撃事件、解決?』
「復讐のためだ。ハッキリ言って得は無いな。俺の気が晴れるくらいか」
恨みを買うことをしていたとしても0歳から3歳前半だろ?
常識がまだ身についていない時期の話で狙われちゃあねぇ・・・。
「僕は何にもしてないよ?君に復讐される筋合いは全く無いんだけど」
誤魔化しておくと謎の声が早くも沈黙する。俺の指摘に答えあぐねているのだろうか。
だとしたら妙だな。こんなに早くギブアップしそうな感じはしなかったはずだ。
「・・・お前が何かしたから狙っているのではないか」
「ならその出来事を話してくれる?場合によっては謝罪するよ?」
やはりギブアップしたわけではないらしい。
それにしても、王族が謝罪するなんて相当な譲歩だと思うけどな。
果たして相手が乗ってくれるかどうか・・・。
「フン、お前が謝罪してくれるとは思っておらぬわ。俺が捕まってしまうだけだろう」
「それはどうかな?僕が信用できないというのならしょうがないけどね」
そう簡単には乗ってきてくれないか。相手も交渉については相当上手だ。
厄介だな・・・。ここまで警戒心が強い相手は今までで初めてかもしれない。
王都散策中に狙われたりでもしたら大惨事になるから、交渉したかったんだけど。
ならば希望だけは伝えておいた方がいいか。
「ここに出てくるのがイヤならパーティーで決着つけない?もちろんその前に襲うのは無し」
声を飛ばすために吹いている風を感じながら俺は静かに言った。
すると、怒気を孕んだ声が聞こえてくる。
「ごちゃごちゃと小うるさい奴だ。お前にも闇魔法を掛けてやろうか?」
「いいよ?魔法を3つも4つも維持できるなら。しかも闇の魔力を感じられるイグルの前で」
そう言うと謎の声は完全に沈黙した。ちょいとつついてみるか。
「おーい!悔しいならここに出てきてもいいんだよ!僕の命を奪いたいんでしょ?」
大きく両手を広げて言う。武器も持っていないため、完全に丸腰だ。
しかし声は聞こえてこない。まさかの交渉拒否?
再び沈黙が場を支配する。あれ?これ、本気で逃げられたんじゃ?
そんな事を考えていると、ややあってもう一度声が聞こえてくる。
「分かった、提案を呑もう。お披露目パーティーで決着をつけるし、それまで襲わないことも約束しよう。代わりとして、魔法は掛けたままにさせてもらうぞ。まだ捕まりたくないのでな」
よっし!交渉成功。相手の外堀を埋めてく作戦はクリーンヒットしたようだ。
こうなってしまえば後は俺のターンだ!フッ・・・間抜けにも術中に嵌まったな。
「言質は取ったよ?最も、信用はしてないけど」
希望が通ったことでにやつく顔を必死に抑えながら再び口撃を始める。
対照的にイグルの顔は青ざめていく。
忘れてた・・・。本当にすまない。相手の交渉材料にされた。
「勝手にほざいていろ。バレたら面倒なのでな。これで失礼する」
風が段々と弱くなるにつれて声も小さくなっていき、完全に風が止んだ。
「おい、待て!――チッ、魔力の気配が完全に無くなった。逃げられたか」
イグルが悔しそうに歯噛みしている。
「本当にごめん。お披露目パーティーの時には必ず解除するから」
両手を合わせて必死に謝ると、イグルは不承不承といった感じで頷いた。
「・・・分かった。友達が常時、死の危険に晒されるよりは、余計な事を話さなければ死の危険がないこっちの方がいいもんな。我慢してやるぜ」
いい奴だ・・・。異世界に来て初めての友達がイグルで本当に良かったよ。
俺が感動に打ち震えている脇では、ロープを持ったブルート副騎士団長の指揮の下、ブラウンドの捕縛作業が行われていた。
「リレン様、国王様、ブラウンド元宮廷魔術師の捕縛が完了しました」
父上は鷹揚に頷き、パンパンと両手を2回叩く。
「これにて、襲撃事件は無事閉幕だな。敵の首謀者は姿を見せなかったが、お披露目パーティーまでは襲わないという言質を取った。イグルくんを苦しめている魔法もその時に解けるだろう。ブラウンドはこの後、議会にかける」
「分かりました。ラオン殿とマリサ夫人は別館へ。キト殿たちが準備を整えているはずだ」
ブルート副騎士団長が言うと、フォルス家の3人は小さく頷く。
ここしかないと直感で感じた俺は手を上げ、皆を順々に見回す。
「皆、本当にお疲れ様。そして・・・ありがとう」
全員に向かって頭を下げた。俺に出来る、精一杯のお礼と謝罪である。
王子が頭を下げたという事実を上手く呑み込めないのか、全員が硬直した。
今回、俺が大分無茶をして、騎士たちに迷惑をかけてしまった。
イグルくんにはそのせいで負った傷を治して貰ったしね。
いくら王族とはいえ、最低限の礼は必要だと思っての行動だ。
「リレン王子、顔をお上げください!その言葉だけで十分ですから!」
ブルート副騎士団長が慌てたように叫ぶ。
俺はゆっくりと顔を上げた。目の前には微笑むラオン公爵がいた。
「王子は優しいのですな。私はむしろ、3歳にしては末恐ろしいと思いましたが」
「確かに。自分の命を狙っている依頼者とまともに対峙するなんて、怖くて出来ない」
今日何度目か分からないイグルの援護射撃。俺から思わず笑みが零れる。
「カルス、皆に水を持ってきてあげて。もちろん、とびっきり冷たい奴を!」
叫ぶと、騎士たちから大きな歓声が上がった。
熱帯夜の中で戦っていたんだもん。冷たい水は至福の1品だよな。
カルスが詰所へ行くのと同時に、父上が俺の肩を叩いた。
「今からブラウンドを議会にかける。イグルくんと一緒に議会まで来てくれ」
「分かりました。イグル、行こう」
振り返って声を掛けると、イグルが躊躇うような素振りを見せた。
しかし、何かを決心したように妙に据わった目で一礼する。
「そうだね。リレンも遅くまで大変だね・・・」
「本当だよ・・・。もう眠いんだけど・・・」
目を擦った俺の背後から軽い殺気を感じて振り向くと、父上がイグルを睨んでいた。
えっ・・・何でイグルを睨んでいるの?
しばらくして理由に思い当たった俺は父上を宥めにかかる。
「父上、気になさらないで下さい。僕がイグルに砕けた口調で話してほしいと頼んだんです」
「なるほど。一瞬迷ったような素振りを見せたのは、私の前では不敬と咎められるのではないかと案じたからか」
父上が試すような視線をイグルに向けると、イグルが勢いよく首を縦に振る。
殺気をまともに受けているからか、その顔は青ざめていた。
「国王様、落ち着いて下さい。ご子息の友人を父が怖がらせてどうするのですか」
俺たちのそばについていたホブラック宰相が呆れたように言うと、父上はハッとしたようにイグルの肩を掴んだ。
「ヒッ」と変な声を上げるイグルをスルーし、父上が悲しそうに目を伏せる。
「イグル殿、すまなかった。これからリレンと仲良くしてやってくれ」
「は・・・はい。リレン王子は僕の唯一無二の友達ですから」
胸をさすりながらキッパリと答えるイグル。
「そうか。リレンも友達は大切にするんだぞ?」
意味深な笑顔を見せながら、頭を撫でてくる父上を正面から見据える。
正直、怪しすぎるが問いを投げかける時間が面倒だ。
俺は無言で優しく微笑む。
「分かっていますよ、父上。イグルは初めて出来た友人ですから」
#この世界では__・__#というフレーズも心の中で付け加えておく。嘘は言っていない。
「じゃあ、襲われた当時の報告だけしたら寝ていいぞ」
父上の言葉に元気を取り戻した俺たちは報告を簡潔に済ませ、眠りについた。
こうして、22鐘半ば。長い1日がついに終わったのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます