そして、新たな風に吹かれて…

権田 Q三郎

第1話 目玉焼きののった肉野菜炒め定食

 私は、ホームの電光掲示板を見た…


 この大阪駅の電光掲示板には、当駅止という文字が並んでいた。

 私は、何が起こったのか分からなかった…

 だが、電光掲示板の1番下の行にスクロールで文章が流れていた…

 どうやら、人身事故があり神戸線の西宮駅から甲子園口駅の間が不通になっているらしい。


 やがて、電光掲示板に15分後発の尼崎行き快速の案内表示が出た。尼崎駅は、この大阪駅から2駅先の駅であるが、快速電車なので次の塚本駅は通過して止まらない…私が行きたいのは、その塚本駅であった。

 私は、尼崎行き快速に乗るか考えていた…尼崎駅からだと各駅停車が出ているかもしれないし、最悪は東西線で御幣島駅に出てもいいかな⁉︎と考えていた。


 しばらくすると電光掲示板に20分後の新三田行き各駅停車の表示が出た…

「そうか…宝塚線は、問題ないんだ…」と私は呟いた。

 宝塚線は、尼崎駅までは神戸線と同じコースで行くが、その後は北上するので、事故のあった区間は通らないのである。


 20分後、私は新三田行き各駅停車に乗り込んだ…車内は、意外に空いていた…

 約4分ほどで電車は、塚本駅に着いた。


 改札を出た私は、携帯の時計を見た。11時35分であった。

「今から事務所に戻ったら、すぐ昼だな…」と私は思った。

 そこで、私は少し早めにランチを食べることにして、駅の東側に出た。


 駅の外は、夏を思わせる日差しであった…その時、突然突風が私に吹き付けて来た。

 強い風であったが、それがやけに気持ちよかった…


 駅の近くには、ラーメン屋がいっぱいあったが、私はラーメンではなく普通の定食が食べたい気分であった…


 駅のロータリーを抜けた道沿いに私は、定食チェーン店を見つけた。

 看板には、「めしや 宮本むなし」と書いてあった。


 私は、店頭のショーケースを見て何を食べようかと考えたが、すぐに決まった。


 そして、店内に入ると50才前後のスラッとした体型の女性店員が言った。

「いらっしゃいませ。そちらの券売機で食券をお願いします。」

 滑舌のよい気持ちのいい声であった…


 私は、券売機で食券を購入し、1番奥の2人掛けのテーブル席に座った。

 すぐに先程の女性店員が、お茶の入ったコップを持ってやって来た。

 私がテーブルの上に置いた食券をちぎりながら、

「肉野菜炒め定食ですね。少々お待ちください…」と言って、女性店員はニッコリ笑った。とても、綺麗な笑顔であった…若い頃は、かなりの美人であった事は容易に想像出来た。

 そして、私はフライドポテトのサービス券も持っていたので渡した。


 店内は、全てテーブル席で10テーブルほどあった…客は、私より先には1人しかいなかった。


 数分後、背はそれ程高くないが、体重は軽く100キロオーバーと思われる20代の男性店員が、私の注文した肉野菜炒め定食を持って来た。

「お待たせしました〜。ご飯のおかわりは、あちらのおかわりコーナーで〜ご自由にどう〜ぞ〜」

 彼は、甲高い奇妙な話し方で説明した。


 私は、トレーにのった肉野菜炒め定食を見た。トレーには小鉢の冷奴、味噌汁、ごはん、サービス券で付けてもらったポテトフライ。そして、メインの肉野菜炒め…その上には、何故か目玉焼きがのっていた。

 私は、この目玉焼きが気に入って肉野菜炒め定食を注文したのだ…


 私は、まず味噌汁を一口飲んだ…なんの変哲も無い普通の味噌汁であった。

 次に肉野菜炒めを一口食べて、すぐにご飯をかき込んだ…味は至って普通であるが、白ご飯には合っていて、普通に旨い。

 そして、私はご飯のどんぶりの上に目玉焼きをのせてから、黄身を箸で潰して、ご飯と混ぜて食べた…黄身と白ごはんが融合した幸せな味がした。

「旨い!」と私は心で叫んだ…


 この肉野菜炒め定食は、至って普通の味であるが、目玉焼きがのっている事により、旨い定食に変身している…ちょっとした事だが、大変重要な事である…と私は思った。


 私は、一気に肉野菜炒め定食を食べてから、お茶をゆっくり飲んだ…


 そして、私は立ち上がると側にいた20代の男性店員に言った。

「ごちそうさん。」

 出口に向かった私の後ろで、

「ありがとう〜ござい〜ました〜」

 という男性店員の甲高い奇妙な声が響いた…


 店の外に出ると、外は相変わらずの夏の日差しであった。

 私は、「暑そう…」と思ったが、身体の中からパワーが漲ってくるのを感じた…

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