箱庭の管理者になりました
西桜
【人の管理者】オルタル
第0話 管理者になりました
気がつくとそこは洞窟の中だった。
「ここは…?」
辺りを見渡すとどうやら少しひらけた所にいるようだ。壁には松明がつけられていて何者かに管理されている所なのなのだろうか。
そんなことよりも気になるのが自分のことだ。
なぜ俺はこんなところにいるのだろうか?そもそも俺は誰だ?
知識はあるのになぜか自分のことだけはまるで思い出せない。
「とりあえずここから出よう」
そう思って立ち上がった時、目の前の空間が歪み、捻れる。
「グガァ…アァ」
捻れた空間が元に戻ったとともに唸り声をあげ現れたのは人型の狼ウォーウルフ。
…いや待て。何故見たこともない奴のことがわかるんだ?
「グルガァッ!」
「な!?…ッ!」
ウォーウルフは鋭い爪を勢いよく振り下ろすが後ろに飛びそれを回避。
なんで急に…と一人内心で悪態をつく。
どうすればいい?何か戦える武器は?なんでこんなことになっている?
そんなことを考えてるうちにウォーウルフはまた鋭い爪を振りかざそうとしている。
不味い、このままじゃなにもできずにジリ貧だ。…最悪死ぬ。
「…ゥラァ!」
死にたくない一心で無我夢中で払った手からは黒い球が飛び出し、ウォーウルフの体に当たった瞬間、それは爆ぜた。辺りに土煙が舞い、それと一緒のウォーウルフのと思われる鮮血が飛び散る。
「ガァアァァァ…」
土煙の中でそんな断末魔が聞こえ、土煙が晴れると血だまりの中心にウォーウルフは倒れていてその死骸と血は塵になりまるで何もなかったかのように無くなった。
「これは…?」
「お見事」
パチパチと乾いた音が背後から聞こえ、振り返るとそこには女性が立っていた。
背中まで伸びて輝いて見える銀色の髪、その髪からはこれまた黒く輝いているように見える短い角。鋭く妖美とも言える瞳は俺をまっすぐ射抜く。
反射的に警戒し身構えるが、ああ待ったと彼女は手をこちらに向け、待ってくれとジェスチャーしてくる。
「私はノルディス。【魔の管理者】ノルディスだ。気軽にノルディスって呼ぶといい。一応、お前の師匠になる」
よろしく頼む。と微笑む彼女はとても美しくクールといった言葉がよく似合う。
「俺は…俺は誰なんだ?なんで記憶はないのに知識はある?あの魔弾はなんなんだ?
ッ…なんで俺あれが魔弾って…」
まただ。また知らないことがわかる。もうわけがわからないと彼女を見ると彼女の顔は驚愕半分喜びといった顔をしていた。
「ほぅ…もうそこまでいってるのか…面白いな」
「なにがだ…?」
「ああいや、今はその時じゃない」
ノルディスは何か知っているようだがうまくはぐらかされる。
「さて、お前の質問に答えよう。まずお前の名前はオルタル。そしてお前は新しい管理者になる為に生まれた存在だ」
「…管理者?」
管理者?そんなもの聞き覚えもない。だがオルタルという名前はとてもしっくりくる。
困惑している俺を無視しノルディスは説明を続ける。
「そう。管理者。ここアルティラにたくさん存在する箱庭のうちの1つを治め、モンスターを率いて他の管理者と競い合い、潰し合う。それが私たち管理者が統治神から与えられたい命題だ」
箱庭?統治神?命題?わけがわからない。モンスターを率いて競い合い潰し合う?
そもそも生まれてきた?知識も知能もあるのに?体だって18は確実に上回っている。
「まあ困惑するのも無理はない。でもここで管理者としての自覚とノウハウを叩き込まないと近いうちにお前は死ぬだろう」
「…は?」
「さっきも言った通り管理者は潰し合う。もちろん負けた方は死ぬ。今のお前じゃ保護期間が終わればお前より経験豊富な先駆者達の餌にしかならん。だからそうならない為に私がいる。さて君はどうする?このまま餌になるか?」
やらなきゃ死ぬし、餌になんてなってたまるか。死にたくないにきまってる。
なら、答えは1つだろ。
そう決めた時、頭の中でピースがカチリと合うような感覚がした。
…うん、しっくりくる。きっと俺はそうなんだろう。
「やるよ。俺は【人の管理者】オルタルだ。よろしく頼む」
ノルディスは口角をあげ、ついてこいと言って踵を返して、歩き出した。
ここから俺の管理者としての日々が始まった。
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