第45話「キマイラ」⑥

 聖ヨハネ騎士団とは、初めは聖地における病院経営を行なっていた組織でしたが、次第に聖地防衛のための軍事力を持つに至った騎士修道会であり、組織の大きさではテンプル騎士団と並び立つ存在です。現在でも病院経営は引き続き行なっており、全ての修道士に病院での奉仕が義務付けられているそうですが、そのためか女性の修道士も珍しくなく、そこが女人禁制のテンプル騎士団とは大きな違いとなっています。


「命を救ってくれたのはありがたいが、その女修道騎士も怪物を狙っているとなると、のんびりはしていられないな。俺も怪物の首を持ち帰らなくてはまた総長に怒られちまう」


「なるほど。その方もここを出てそんなには経ってはいないので、そう遠くには行ってないかと。今晩はこの城で休み、明朝その襲撃現場に向かってはいかがかな」


「そうさせて頂こう。凶暴な怪物だ、こちらも万端で当たりたい」


 かくして、私達はジェラルド様のご好意により今晩はバグラス城で一夜を明かすことになりました。久し振りの藁葺きベッドでぐっすりです。


 そして翌る日、食料やワインの補充に馬具の修理もしてもらい、ジェラルド様らに見送られ出発となりました。


「この先の渓谷は、アンカと現地の人は呼んでいる貪欲で凶暴な人面鳥の群れが住処としている。通られる時、もし見つかった場合は一度引き返す事をお勧めする」


「了解した……が、そんな時間は恐らく無いだろう。生きて帰れたら、怪物の首と共にまたお会いしよう」


 ジェラルド様と別れ、襲撃現場に向けて馬を進めるご主人様と手綱を取って付いていく私ですが、周囲の景色も徐々に荒涼とした地肌となってきました。アンカと言う怪物の住処に近づいて来ているのでしょうか。


「ご主人様、例の怪物と言いアンカと言い、この地は怪物だらけですね」


「全くだな。戦が怪物を呼び寄せたのか……何にしても用心が必要だな」


 さらに進むと、道は荒々しい山肌の中に入って行き、周囲には岩がゴロゴロし枯れ木が立つ、寂しい景色の"いかにも"な場所へと来ました。そこに突然……


「キャァァァア!」


 耳をつんざくような、女の悲鳴にも似た叫び声が辺りに響き渡りました。


「おいでなすったか。コーディス、油断して攫われるなよ!」


「はっはいご主人様!」


 下馬し、剣を抜くご主人様。見ると上空には、顔と上半身は人間のそれに似ているものの腕と下半身は鳥の怪物が、まるで獲物を狙う猛禽類のように旋回しているのでした。それも一匹や二匹ではありません。十数匹という数で。

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