第35話「彷徨える亡霊」②
総長の指示により、エルサレム南方の砂漠に出没するという亡霊の調査に来たご主人様。しかしその亡霊とはなんと、2年前のテコアの戦いで戦死してしまったご主人様の元相棒、ギルバート様だったのです。
ギルバート様の亡霊は俯きふらふらと右に左にと肩を揺らしながら、力無くジグザグによろめきながら歩いており、そしてもはやこの世界の住人では無いことを示すかのように、その身体は透けているのでした。
「ギルバート!俺だ!レードだ!」
思わず叫びだすご主人様。しかしギルバート様の亡霊は、まるで何も聞こえてないかのように何の反応もせず、相変わらず地面を見つめながらよろめき歩いています。
「ギルバート様は何かを探しているのでしょうか?」
「何にせよ取っ捕まえれば分かる!」
「あっ、ご主人様!」
私が止める暇も無く、駆け出すご主人様。手を伸ばし触れようとした次の瞬間、ギルバート様の亡霊はかき消すかのように見えなくなってしまいました。後に残されたのは、握りしめた手をただじっと見つめるご主人様の姿だけです。
それからも夜ごと出没するギルバート様の亡霊を観察しましたが、相変わらずまるで何かを探しているかのように彷徨い歩くだけで、こちらの呼び掛けにも何の反応も示さないのでした。
「どうしましょうご主人様……何故ギルバート様は天の国へ行かれないのでしょうか」
「魂がこの地に縛れてしまっている原因が何かあるはずだ。それを見つけだすのが先決だな」
次の日から私達は、本部内で総長を始め参事会のメンバー、修道騎士、従士、その他テンプル騎士団の修道士らにギルバート様について話を聞いて回ったのです。しかし、そもそもテンプル騎士団とは出身地を捨て、姓を捨て、己を捨てて入会する騎士修道会。入会以前のギルバート様の事について知っている者はなかなかいませんでした。
「こんな事なら生きてる内にもっとあいつと話しておけばな」
「後悔先に立たずですご主人様。原因が分かればきっとギルバート様の心に触れる事ができますよ」
「心か……」
自らは失ってしまっている心。ギルバート様の魂、心の内を探る事はご主人様にとってもきっと有意義な事のはずです。と思っていると、またあの方に呼び止められたのです。
「レード殿、何かお困りのようですな」
テンプル騎士団専属司祭、ハットー様に。
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