第34話「彷徨える亡霊」①
ご主人様には正確には睡眠時間と言うものがありません。何故なら常に悪夢にうなされ続け、まともに寝れる事など無いからです。
「逃げろギルバート……!にげ……ろ、うぐぐ」
どうやら、ご主人様は夢の中であの赤い騎士との遭遇と、その後の結末を何度も繰り返し見ているようです。私がギルバート様の死は、騎士が生まれ持った運命であると何度も言っているのにも関わらず……
「ギルバート!!」
ベッドからガバッと起き上がるご主人様。息を切らし、身体は汗でベットリです。
「お目覚めですかご主人様。また酷くうなされていましたが……とにかく、まずは汗を拭きましょう」
「コーディス……あぁそうだな。お前が側にいると一気に現実に引き戻される」
「それは褒め言葉ですよね?」
「もちろんだとも」
リネンのシャツを脱ぎ、汗を拭くご主人様。夢の中とはさぞ恐ろしい世界のようです。
この日の朝課にてご主人様に与えられた任務、それは最近エルサレム付近の砂漠に出没すると言う亡霊の調査でした。
「前の怪し火と言い、俺はすっかり街道警備から外されて怪物調査に回されてしまったようだな」
「仕方ありませんご主人様。こうも長い間、ペアを組む相棒が決まらないのですから」
「ふん、誰も変人レードとは組みたく無いと言う事か」
「変人もそうですが、レード様の無茶な戦い振りには誰も付いていけないともっぱらの噂になっているようですし」
独り言多く、何でも自分でやって修道騎士らしく無い、奇行の多い変人。それが騎士団内でのご主人様の評価です。大方事実と言わざるを得ません。
ご主人様の文句を宥めつつ、亡霊が出没すると言うエルサレム南方の砂漠までやってきました。何でも総長のお話によると、日暮れから明け方にかけて、ここを亡霊がまるで何かを探しているかのように彷徨うそうです。
「とりあえず斬ってしまえば一件落着だろう。剣を聖別すれば、亡霊と言えども斬れない事もあるまい」
「ご主人様!まずは亡霊の正体を見極める事が先決ですよ!」
「はいはい、分かってますよ」
全く、本当に分かっているのでしょうか。陽も落ち、そろそろ亡霊が出没する時間帯だと言うのに。と思っていると、出ました。ボロボロの白いマントとチェインメイル、その上には血が染み付いたこれまたボロボロの白いサーコート、そして存在感の無い身体、生気の感じられない顔。と言うかあの顔は……!
「ギルバート!!」
亡霊の正体、それほまさかのお方でした。
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