青春曇り空ダイアリー
恋するメンチカツ
第1話 須藤 真帆(スドウ マホ)①
これが……ビッチというものなのか?
鏡に映る自分には似つかわしく無い自分を見て、キョトンとする。
金髪、巻き髪、派手な化粧、胸元がざっくりと開いた黒のミニワンピース。
これは最早、服ではなく下着だ。
加奈子に聞いた通りにはしたものの、なんともしっくりきていない。
うーん……。
なんとなく、鏡の前でパットの入った胸をワシワシと揉みしだく。
(うんうん、セクシー)
(セクシーだよ真帆ちゃん)
(ビッチビッチ)
私は、自分を奮い立たせる為、自分で自分にそう言い聞かせた。
しかし、牧瀬先輩は本当にこんなので落ちるのだろうか……。
不安が募るまま、合コン会場の近くで加奈子と合流した。
「おまたせー」
慣れないピンヒールに足元がおぼつかない。
「ちょっ、待って! 本当に真帆?」
口をあんぐりと開けた加奈子が、私に訊ねた。
「えっ? 私だけど……やっぱり、なんか変?」
「いい! めっちゃいい! ザ・ビッチ!」
「それ、褒めてんの?」
笑いを堪えながら、親指を立てる加奈子をキッと睨みつける。
「ごめんごめん、冗談だって。でも真帆が、突然ビッチになりたいとか意味わかんない事言うから、最初はビックリしたけど、まぁ様になってるじゃん」
「いい感じ?」
私は、パットの入った胸をワシワシと揉みしだきながら加奈子に言い寄った。
「ねぇ、いい感じ?」
「ちょっ、バカ! やめてよ、周りに見られてるって!」
周りを見渡すと繁華街の真ん中にもかかわらず、歩みを止め、私を見やる男の人がチラホラと見えた。
「ふーん、男の人ってやっぱりこういうの好きなんだ」
「もう、何やってんのよ、恥ずかしい! 牧瀬先輩たち待たせてるから、早く行くよ!」
加奈子は私の手を引っ張ると、勢いそのまま居酒屋へと入っていった。
「いらっしゃいませー」
小上がりのある居酒屋にホッとする。
慣れないピンヒールの角度に足首が悲鳴をあげていたのだ。
「あれ、そういえば美南は?」
「もう来るってさ」
私の問いに、加奈子はスマホをいじりながら答えた。
「おっ、きたきた」
「おまたせー」
美南は今日も白を基調としたガーリーな服装に猫なで声で現れた。
麦わら帽子を被せれば、まるで海沿い青春ドラマに出てくるヒロインの様な出で立ちだ。
まぁ、シャクレていなければの話だが。
「って、えっ? 真帆?」
美南は変貌した私を見て、加奈子と全く同じリアクションを取った。
「驚くのは分かるけど、早く行くよ!」
加奈子は美南にそう言うと、店内の奥の方へと歩いて行った。
加奈子を見失わぬ様に美南と私もその後を追う。
「301……301……ここか!」
加奈子は、ぶつぶつと呟きながら個室の襖をカラカラと開けた。
「すいません! 遅れましたー」
「おお、いいよ、いいよ、早く入りな!」
加奈子と美南の後ろから私も顔を覗かす。
牧瀬先輩とその友達二人……。
「えっ? 真帆ちゃん? どうしたの?」
驚きながら私にそう訊ねる牧瀬先輩の表情は、少し引きつっている様にも見える。
「どうも、やっぱり変ですか?」
「いやいや……いいじゃん」
そう言いながら私に見せた、牧瀬先輩の含み笑いは、馬鹿にしているのか、はたまた喜んでいるのか、何とも言えない複雑な表情だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます