第6話 初めての村
夜、小さな村に着いた俺たちは、とりあえず食事処に行く。
ここに来る道中は、案外楽だった。いや、歩き疲れたし筋肉痛がすごいし、楽ではなかったのだが、死の危険は感じなかった。
魔物と遭遇すれば、命の危険を感じるかもしれないと思っていた。しかし、枯れ草ども、サウスとロジが強くて、魔物発見・・・討伐完了みたいに、見つけたら間を置かずに魔物を倒しているのだ。ちなみに、俺の視点からすると、という話で、どうやら2人には魔物が視界に入る前から、その存在に気づく能力があるようだ。
「能力ではありませんよ。ただの勘です。」
どのような能力か聞いてみれば、こう返されたが俺は信じていない。
鈴木が言っていた。能力は誰でも秘密にすると。だいたい口外する能力はカモフラージュで、隠している能力は必ずある。俺にはないけどな!
いや、俺にすら隠している能力が、きっとある。あるはずだ!
食事処は、それなりに賑わっていた。仕事終わりの一杯、というやつか?男たちが楽しそうにジョッキを片手に騒いでいる。
「何か、召し上がりたいものはございますか?」
「えーと・・・メニューは?」
机の上にメニューはないし、店員も持ってくる気配がない。
「外では、自分が食べたいものを注文するのじゃよ。」
「あ、はい。それでメニューは?何があるのかわからないと、選べないんですが?」
噛み合わない会話を繰り返すと、この世界にはメニューというものがないことがわかった。大体定番のものがあるので、それを注文するようだ。
「えーと、俺はよくわからないので、お任せします。」
「では、勇者様は私と同じものを。」
店員を呼び、サウスが注文する。
待つと思った食事は、意外にも早く出てきた。ファミレスでもないのに早いと感心すれば、食事の内容にがっかりする。
シチューとパン。
普通にうまそうだと感じて食べれば、シチューは、野菜は入っているが肉は少なく、なぜか必要以上にドロッとしている。なんか臭いし。パンは、めちゃくちゃ固い。
そして、量が多い。食べる前は全然気にしていなかったが、いざ食べてみると、量が多いと気づいた。歩いてきたので、それなりにおなかはすいているが、疲れすぎてあまり食欲はないのにこの量はきつい。まずいし。
城でもおいしくないと感じてはいたが、これほどではなかった。
「お口に合いませんか?」
「い、いいえ。」
サウスが心配げにこちらを見つめてきたので、愛想笑いを浮かべた。
こんな豚の餌が口に合うと思ってんのか!?
そうは思ったが、どうやら彼らには普通の食事らしい。サウスは、普通に食べておかわりまでしているし、ロジはシチューではなくスープ、それも色がかなり薄く具がほぼ入っていないものを、俺らと同じパンを浸して食べている。
いい年なのに、歯が折れても知らないぞ・・・
「なんじゃ、失礼なことでも考えていなかったか?」
「いいえ。スープはどうですか?」
「良くも悪くもない。腹に収まれば同じじゃ。」
「はぁ・・・」
この世界では、おいしいものを食べたいという感情はないのか?それって、俺にとってはかなりきついのだが。だって、まずいものがあふれてるってことだろ?
とりあえず、まずくないもの。普通のものが食いたい。
夜中。雑魚寝というものを体験中の俺は、ふと目を覚ました。
ここは、村長の家。旅人はここで寝泊まりをするらしい。特に歓待とかは受けずに、俺たちは寝床だけを提供してもらった。おそらく朝食とかも自前なんだろうな。
「ぐぉぉぉおおおおぉおおおぉぉ。」
うるさい。俺は、この音のせいで目を覚ましたらしい。
音の発信源であるロジは、俺の左側で寝ている。もちろん、右側はサウスだ。お前ら俺を挟むの好きだな!だが、俺はおっさんに挟まれる趣味はないんだよ!
それに、修学旅行とかでも、端っこがいい派だったんだよな。ま、なれなかったけど。
俺の代わりに、鈴木が端になったんだっけ。懐かしいな。
って、この世界に来てから鈴木との思い出ばっかり思い出すな・・・おっさんに囲まれてただでさえむさくるしいのに、なぜ鈴木なんだ。とりあえず、テキトーな女でも思い浮かべて・・・って、思ったんだけどな。
全然顔が思い出せない。
胸のでかい、バラの香りした女はどんな顔だったか?確か、金髪に染めていた気がする。そういえば、王族って、勝手に金髪蒼目だと思っていたが、この国の王族は髪も目も赤だった。
えーと、何考えてたんだっけ?あ、そうそう女だ、女。
必死で、女を思い浮かべたが、どれも顔を思い出すことは出来なかった。肌がすべすべだったとか、スレンダーだったとか、おなかのお肉が結構ついていたとかしか思い出せない。
最近の女は思い出せないな。もう少し前はどうだ?
高校、中学・・・小学校。
「あはははっ!」
小さな女の、醜い笑い声が聞こえた。
長い黒髪、丸っこい目。笑うとえくぼが可愛い、学年一可愛いと言われた女。
俺は、頭に浮かんだ顔と声をかき消す。
「なんで、こいつのことは覚えてんだよ。バカじゃねぇの?」
布団というにはあまりに薄い布を、頭までかぶった。
「ぐおおおおぉぉぉおおおおぉおお」
女の笑い声は聞こえなくなったが、ロジのいびきはいまだに大声量で響いていた。
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