六章 決戦のイペアンスロポス
六章 決戦のイペアンスロポス 1
巨体のアルコーンが撤退し、後始末を研究員に任せて、相人は研究所に戻ってきた。
相人の乗っていた車に続いて、凛と遥を乗せた車も到着する。そこから意識を取り戻した凛と、凛に肩を貸した遥が降りる。凛は意識を失っていたが、深刻な負傷ではなかった。巨体のアルコーンに殴られる直前に砲撃で距離を取っていたらしい。
「……先輩。あれは一体どういうことなんですか」
「すぐに説明してくれると思うよ。ほら」
遥の追及に、相人は研究所の入り口の指差す。そこには、ハーミーズが立っていた。
「よく帰ってきたね。みんな無事、とは言えないか。まあ、でも重傷ではないのは何よりだ」
「聞きたいことがあるんですけど」
「遠浪クンが聞きたいであろうことも含めて、色々と話さなければならないことがある。立ち話するには長くなるし、仲間外れにするのも悪いから、会議室で話そうか」
ハーミーズは研究所の方に向いてそのまま歩いて中に入った。相人達もそれに続く。遥は二度も梯子を外されて、不満そうな顔をしていた。
遥の刺すような目と、凛の疑問の目に晒されながら歩くと、会議室の前に着く。
先頭にいるハーミーズが扉を開けると、そこには――、
「え――伊、織……?」
目を疑う。ずっと望んでいたのに、目の前の現実をそのまま受け入れるのを躊躇している。
諦めないと決めていた。それでも心のどこかで叶わないのではないかという思いがあった。
だが、そこには相人の望んだ景色がある。
会議室には由羽ともう一人、伊織が待っていた。
「よう、何か久しぶりだな」
待ち望んでいた友人はどこか呑気に机に肘を付いて座っていた。
「伊織っ――ぐぇ」
駆け出した相人を、伊織は足を鳩尾に伸ばすことで出迎えた。相人はうずくまる。
「ひ、酷い……。いきなり何するんだ」
「お前が全然俺の忠告聞かないで無茶ばっかするからむかついてな。つい足が出た」
「いや、何ていうか、それは」
「ま、お前が俺の言うこと聞かないなんて、今更気にしても仕方ねえってのは分かってるよ。……それより、話を進めようぜ」
伊織は相人に向けていた視線をハーミーズに向ける。
「いいのかい? 感動の再会だと思っていたんだが」
「こいつの相手は後でしてやりますよ。俺は倒れてる間も周りのことは分かってたし」
ハーミーズは小さく頷く。
「ワタシから話すことは大別して二つ。涯島クンと桶孔クンのことだ。それなりに長くなるから、みんな座ってくれ給え」
真っ先にハーミーズが椅子に座り、それに続く形で促された相人と凛、遥が着席する。
「今涯島クンの体は緊急の治療の為に、刃のアルコーン――ハルパーというらしいが――と融合したというのは分かっているだろう。その結果、一命を取り止めると同時に幾つか副作用が発生した。その一つが桶孔クンの覚醒だ」
「僕の体と伊織が目を覚ましたことに関係があるってことですか?」
「あくまで結果からの推測だがね。今までのことを考えればそれが最も自然な解だ」
ハーミーズは自明の理であるかのように話すが、相人には因果関係がまるで見えない。
「簡単な話さ。涯島クンの中のアルコーンが原因で今まで三人がイペアンスロポスに覚醒した。ならば、涯島クンの中のアルコーンが増えたことで、近くにいた桶孔クンもイペアンスロポスになっても不思議ではない。能力を発現していない未覚醒の状態だろうがね」
言われてみれば当たり前だ。相人の頭の中には反応現象を受けた人間は戻らない、という事実があったので、その可能性に思い至らなかった。復活した前例がなくとも、相人も前例のない存在だ。絶望を覆す可能性は十分以上にあったのだ。
相人がこれまで伊織の傍に寄り添い続けたことは無駄ではなかった。
そのことは喜ばしいことの筈だった。だが、どこか喜べていない自分がいることに相人は気付いた。伊織が目覚めたことは嬉しい。たまらなく嬉しい。けれど、それが自分の尽力によるものだということをいまいち喜べない。
理由の分からない無感動に違和感を覚える相人を差し置き、ハーミーズは話を進める。
「さて、副作用は幾つかあると言ったね。次は涯島クンの体の話だ」
相人は意識を自分自身からハーミーズの言葉に戻し、密かに拳を固く握る。
自分の体のことだ。既に説明は受けているが、それがなくとも相人が一番理解している。今、自分がどれだけ危険な状態なのか。
「今、涯島クンの体はアルコーンに近い状態にある。その為、まず身体機能が異常に発達している。それこそアルコーンに匹敵する程――いや、通常のアルコーン以上の機能を持つハルパーと融合した為か、通常のアルコーンよりも優れた能力を獲得している」
先程の戦闘でアルコーン達を相手にできたのは、その副作用故だった。
この異常な身体能力に違和感はない。まるで以前からそうであったかのように、十全に体を動かすことができる。その違和感がないという事実こそが不気味ではあった。
「……重要なのはここからだ」
ハーミーズはトーンを一段落として、そう前置いた。
「涯島クンの体がアルコーンに近いと言ったが、これによって、彼はワタシ達にとっての切り札にも、最悪の敵にもなり得るようになった。まずは順を追って、切り札の方を話そう」
ハーミーズの面持ちは暗い。これから朗報を話すというのに暗い表情をしているのは、それが悲報に繋がっているからだろうか。
「融合の影響によって涯島クンはアルコーンの力を使える。これは、融合したアルコーン固有の能力も例外ではないようなんだ」
「ハルパーのように刃を出せるってことですか?」
凛の質問に対してハーミーズは答えず、相人に目配せをした。
「ハルパーと同じようにはいかないけどね。一度に出せる刃物も一本か二本が限界だと思うし、距離も二、三メートルが精々ってところかな」
「それだけなら戦力にはなるが、切り札と言う程ではない。重要なのは、涯島クンと融合しているもう一体のアルコーンの能力だ」
三年前から相人の心臓に巣食うアルコーン。ハルパー曰く、キュエネーという名だったか。
「そのアルコーンの特性は融合。今、涯島クンは他の生物と融合することができる。さて、人間とアルコーンが融合したら一体どうなるかな?」
ハーミーズはまるで授業を進める教師のように質問を投げかける。
「それは、先輩みたいに……」
「強くなる? それは違うね。普通なら、拒絶反応で即死する」
遥が答えたが、ハーミーズは回答の全てを待たず、自らの言葉を続ける。こういったところは教師とはまるで違っていた。
「涯島クンが死んでいないのは、三年間極小のアルコーンと融合して慣れがあったからだ。そして、拒絶反応で人が死ぬのなら、その逆も然り。人間と融合したアルコーンも死に至る」
会議室にざわめきが起きる。
「まあ、これはワタシの推測でしかなかったが、今回、涯島クンが証明してくれたらしいね。人間の叡智が通用しないアルコーンに対して、人間そのものが害となるとは因果なものだよ」
とはいえ、完全に相手だけを滅ぼすものではない。耐性があるとはいえ、このまま無制限に融合していけば拒絶反応で相人自身、命を落としかねない。故に、敵に触れて融合した部位をハルパーの刃で切り離す必要がある。
「涯島クンが切り札になるというのはこれで分かっただろう。何せ、触れただけでアルコーンを絶命せしめるのだからね」
「それじゃあ、最悪の敵っていうのは、人間とも融合できるから、ですか?」
確かに凛の言う通り、今の相人は人間との融合も可能だ。そうした場合、融合した人間の命は拒絶反応によって失われる。
しかし、ハーミーズは首を横に振った。
「その程度では最悪とは言えないよ。人間にとって最悪の敵は、言うまでもなくアルコーンだ。アルコーンは存在するだけで、人類の天敵となり得る」
「それって、まさか……」
遥が動揺の声を上げる。会議室全体に緊張が走る。
「涯島クンがアルコーンとしての力を使えば使う程に融合は進行し――最終的にはアルコーンそのものになる」
騒然とした雰囲気は一転し、一同は沈黙する。それでも、ハーミーズは言葉を止めない。
「可能性としてはその前に拒絶反応に耐え切れなくなり、死亡する確率の方が高いがね。……どちらにせよ、涯島クンが戦い続ければ人間としての命は終わる」
分かっていたことだ。覚悟はもうできている。
それでも、それができているのは、相人だけだ。遥も、凛も、由羽も、伊織も、語っていたハーミーズですら何かを堪えるかのように俯いている。
「――大丈夫だよ」
相人の口からそんな言葉が出たのは、安心させたかったからだ。
「僕は、みんなが戦っている姿を見ているだけだった。それがずっと辛かった。僕は全然役に立ててなかった。それがずっと辛くて――ずっと、戦う力が欲しかった」
今まで苦悩し続けてきたのは、仲間と共に戦えなかったからだ。一人安全な場所に留まり、傷付く仲間を見ていることしかできなかった。凛が、遥が、由羽が、己の力で敵に立ち向かう間、相人にできたのは精々自分の体を差し出すだけだった。
「だから、今はむしろ嬉しいんだ。これからは僕も戦える。僕もみんなと一緒に――」
「――ふざけないで!」
相人の言葉を、悲痛な叫びが遮った。
「遠、浪……?」
「何も変わってないじゃない! 自分のことなんて考えてない! あたしが幾ら先輩のことを思っても、先輩はいつもいつも……! ああ、もうっ! どうすれば治るのよこの馬鹿は!」
喚き散らすように相人を糾弾する遥の目元には涙が滲んでいた。
その泣き顔に、怒りながらも縋っているような声に、相人は衝撃を感じずにはいられない。
以前とは違う。前に声を荒げた時は、相人を諭すようなところもあった。だが、今は完全に、ただ抑えきれない感情をぶつけているだけだ。
遥がどんな時でも、弱い自分を見せないように振る舞ってきたことを知っている。辛くても不敵に笑って、強がりを言って……、そんな遥が涙を見せている。
この時、漸く相人は理解した。自分の行いは、遥をここまで追い詰めていたのか、と。
「馬鹿馬鹿! ばかぁっ! ばかばかばかばかば――っ」
「はい、落ち着きなさい」
呆然とする相人を罵倒し続ける遥を、ハーミーズが手拍子を打って押し留めた。
「これじゃあ話ができない。少し部屋に戻って頭を冷やすんだ」
「そんなこと……っ」
遥がハーミーズに反論しようとすると、研究員数名が会議室に入り、遥の体を掴み、そのまま外に連れ出そうとする。どうやらハーミーズがメールで研究員を呼んだらしい。
「離せ! 離しなさいって! まだ言い足りないんだから! 離してよ! ぶっ飛ばすわよ!」
遥は全力で研究員に抵抗する。腕を振り、足を振り、噛み付きさえしている。
「……天王寺クン。あのままだと能力を使いかねない。落ち着くまで付いていてあげてくれ」
「は、はい」
淡々と処理していたハーミーズだったが、流石に参ったのか頭を抱えながら凛を指名した。
指名された凛は研究員に協力し、どうにか遥を会議室の外に連れ出した。
そして、会議室に残ったのは、相人と伊織、由羽、ハーミーズの四人だけになった。
「まだ話はあったんだが、中断せざるを得ないな。一まず休憩としよう」
ハーミーズがその場をそう締め括り、ハーミーズも会議室を去った。
会議室には、伊織、相人、由羽の三人が残される。
「あの、涯島先輩」
その声に、びくり、と怯えたように反応する。
相人に声をかけたのは由羽だった。相人は由羽との間にあったことを考える。由羽は遥のことを大切に思っていた。そして、相人に対する感情は決して正の側面のものではない。
何を言われてもおかしくない。再び攻撃されることすら覚悟した。
「――すみませんでした」
「……え?」
由羽は相人に向けて目一杯に首を垂れた。
「謝っても許されないことをしでかしたのは分かってます。それでも、すみませんでした」
「ちょ、ちょっと待って。頭上げてよ白蝋君」
唐突な展開に相人は落ち着きをなくしてしまう。罵られることを想定していたというのに、謝られてしまっては固めた覚悟をどうすればいいのか分からない。
「俺はあなたに嫉妬していた。俺よりも遥に思われたあなたに。……だけど、その感情は間違いだった。是か非か、ということじゃなく、それは俺が本当に抱いていた感情じゃなかった」
相人は戸惑いながら、由羽の言葉に耳を傾ける。
「俺はあなたに憧れていました。遥を助けられるあなたを。俺も、あなたのようになりたいと思った。なのに、俺は自分の最初の思いを忘れて、一時の感情に任せてあなたを傷付けた。本当に、すみませんでした」
その言葉が偽りでないことは、次第に震え始めた声を聞いて分かった。由羽は本当に悔やみ、己を恥じている。
今まで、ずっと由羽に嫌われていると思っていた。だが、由羽の本当の気持ちは違っていた。そのことが、嬉し――――――――――――――――――――――――――――――。
相人、の、中、で、何か、が、蠢く。
「僕の方こそごめん、白蝋君」
相人が返したのは、謝罪だった。
「君が本当の気持ちと違う感情に飲まれたのなら、それはきっと僕のせいだ。つまりさ、お互い様というか、僕の自業自得みたいな部分もあるんだ。だから、白蝋君が気に病む必要なんてないんだよ」
ずっと由羽のことは気になっていた。自分のせいで暴走させてしまったのなら、それはきっと由羽にとってとても辛いことだから。
《これが、相人の正直な気持ちだ》。
「……先輩は結局、自分を責めるんですね」
由羽は、どこか寂し気に目を細める。
「俺は先輩のそういうところに憧れましたけど、どうか遥のことも考えてやってくださいね」
遥は相人の自らを犠牲にする姿勢に対して、怒り、涙した。
相人のやり方では遥を悲しませる。では、どうすればいいのか。
「……うん。分かってる」
答える相人の声には力が込められていなかった。答えは、まるで出そうにない。
視界の隅で、伊織が痛ましいもの見る目でこちらを見ていた。
……暫くすると、会議室にハーミーズが戻り、その数分後に凛と遥も戻ってきた。
遥が目を泣き腫らしていることに気付いたが、相人は何も言えなかった。まだ、遥に対して何か言える程相人の中で答えが出ていない。
「どうやら落ち着いたようだね。それじゃあ、話を再開しようか」
遥は軽く頷いて着席する。
その様子を見届けたハーミーズは、視線を伊織に向けた。
「頼んだよ、桶孔クン」
ハーミーズに続く形で、会議室内の視線が伊織に集まる。
「俺が話すのは西園愛のことだ。俺はアルコーンとかいう奴らが現れるよりも前から、あいつのことを知っていた」
「え……?」
伊織が口にした言葉に対する驚愕が、思わず漏れた。
相人と伊織とは小学校に入る前からの付き合いだ。伊織のことはよく知っている。そんな相人にとって、伊織と西園愛の名前はまるで繋がらないものだった。
「涯島。お前驚いてるみたいだけどさ、お前だって知っている筈なんだ」
その言葉に、再度意表を突かれる。しかし、先程に比べれば、衝撃は小さかった。
三年前に西園愛は相人の前に現れている。そして、ついこの間も相人に並々ならぬ執着を見せた。ハルパーも、西園愛の目的は相人以外の人類を滅ぼすことだと告げていた。
それは、西園愛が相人を知っていなければあり得ない。
「伊織は、僕と西園愛の関係を知ってるのか……?」
相人は、西園愛の名前をハーミーズの口から初めて聞いた時、その名を以前にも聞いたことがあるような錯覚を抱いた。しかし、相人の発した疑問に対する伊織の答えが是だった場合、それは錯覚ではないと証明されることになる。
「俺としちゃあ、本当に憶えてねえのかって聞きたいくらいなんだが……。まあ、知ってるよ。俺とお前にとって西園愛は先輩だったんだから」
「先……輩……?」
「それもただの先輩じゃねえ。西園はいじめの被害者で、お前は西園を助けたんだ」
いじめ……そのことについては憶えている。
今からおよそ五年前、相人が小学五年生の頃だ。一人の女子生徒を対象とした酷いいじめがあった。思い返してみれば、あれは上級生間で起きたものだった。
「お前は、いじめてる奴に文句を言って、新たな標的にされた。その時点じゃ西園に対するいじめがそれで綺麗さっぱりなくなった訳じゃなかったけど、暫くして西園が転校したこともあって、メインのターゲットはお前に切り替わった」
とても辛い日々だったのを憶えている。伊織がさりげなく助けてくれたおかげで徐々にいじめは沈静化したが、伊織がいなかったらと思うと、ぞっとする。壮絶な責め苦だった。、相人の頭から元々いじめられていた子供のことなど抜け落ちる程に。
――小五の時、お前がいじめから助けた奴の名前憶えてるか?
少し前、伊織にそう尋ねられたことを思い出す。
「俺が西園を憶えていたのは、それだけが理由じゃない。あいつの目が恐ろしかったからだ」
相人は、伊織の手が固く握り締められていることに気付いた。
「あいつは頭がよかった。だからなのかずっと他人に興味なさそうな目をしてた。多分、そういうところを目に付けられたんだろうな。いじめられても、いじめ自体を苦にしてはいたが、加害者に対する目は変わらなかった。――だけど、俺が怖いと思ったのはそこじゃない」
伊織の拳は、恐怖から来る震えに蓋をしているかのようだった。
「涯島を見る時だけ、あいつの目は変わった。恋する乙女だとか、そんな可愛いもんじゃなかったよ。あれは、小五の小娘にできる顔じゃない。普段の目と比べると、同じ人間とは思えなかった。別人って意味じゃなく、全く別の種族に見えるくらいだった」
確かに、自分も西園愛には不気味な印象を受けた。しかし、それはむしろ感情の欠落を感じた為のものだ。伊織の言葉が本当ならば、五年間の間、西園愛はそれだけ自らの感情を糧にアルコーンを作り出してきたことになる。
「五年前に西園が自殺したって話も、いじめを苦にしたっていうより、俺は転校して涯島に会えなくなったからって方がしっくり来るくらいだ」
西園愛の自殺。伊織の語った内容によって、陰に隠れていた部分が浮き上がり、話が大方繋がった。しかし、未だに西園愛が既に死んでいるという巨大な矛盾が存在していた。
五年前に西園愛が自ら命を絶ったその時、あるいはそこから三年前に相人の前に現れるまでの空白の二年間。そのどちらかに何かがあったと考えるべきだろう。
そして、何故三年経った今になって動き出したのかという点もまだ明らかになっていない。
膨大だった謎を明らかにした新たな事実は、数える程に残った謎を、更に鮮明にした。
「さて、桶孔クンの話も終わったことだし、次を考えよう。考えても分からないことを考えても仕方がない」
ハーミーズの声は普段と変わらぬ飄々としたものだった。いや、心なしかいつもよりも明るい声で会議の進行を続ける。
「確かに敵を知ることは大切だ。確かに桶孔クンのもたらした情報は驚きだ。――しかし、ワタシ達にはもっと重要なことがあるし、より傾聴すべき情報がある」
心なしかどころか、ハーミーズはあからさまに上機嫌だった。
今まで分からないことだらけだった西園愛の素性が判明した今、それ以上に重視し得る情報があるというのは、にわかには想定できない。
そんな相人の考えを、ハーミーズは一瞬で打ち砕いた。
「――先程、アルコーンの根城を特定した」
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