モブの僕が転生しました

飛木ロオク

第一話 【転生?】


「全隊位置につけ!」


そう叫ぶ隊長の合図とともに、約五十の軍勢は皆一様に決められた持ち場に着く。


「勇者が来たぞ!」


今いる、石造りの壁で覆われた薄暗く、そして狭い通路を駆ける足音が前方から複数響く。


「全隊、臨戦態勢へ移り各自攻撃を開始せよ!」


隊長の指揮をきくと、皆自分の武器に手を回し抜刀をする。


そして僕も、腰にある剣の鞘を握り敵に備える。


だが、足音は速度を変える事なく次々と自分の目の前の兵を殺しながら近づいてくる。


そしてついに勇者の姿が見えると、僕は何の躊躇もなく勇者めがけて剣を振りかざす


「やああ!」

「…遅い」


勇者は、振り下ろす前に横一線に剣を振り、斬り捨ててすぐに奥へと駆けて行った。

腕や足に力が入らなくなり、その場で倒れ込むと自分の体の中心から真っ赤な血が流れているのが見てわかった。


魔王、様…どうか…ご無事、で…


声も出せなくなり、意識は遠のいて行った。


僕の人生は全てを魔王様に捧げたものだった。

魔王様や、魔王様と親しく会話をしていた幹部の方々は皆、『転生者』と言っており、ゲーム?という世界に良くいたという、兵士を作り出していた。それが僕達。

兵士以外にも、人間ではないが魔王様の命令に従う従者を色々と生み出していた。その方法まではわからないが、きっとそれも転生者の魔王様だからできる事なんだろうと思っていた。

そして、ある日たまたま聞いてしまった、『駒』という単語。これはきっと僕達量産型の兵士や、この魔王城の外壁を見張っている、動く骨のスケルトン達のことを指していたのだろう、と。

それでも、生みの親である魔王様たちには報いたい、その一心で乗り込んできた勇者の足止めとして、魔王様たちの壁として生涯を終えようと、そしてそれは叶った。僕は魔王様のために死ぬことができた。悔いなどなかった。だが何故だろうか、先程から鼻先を刺激するこの香ばしい香りは。とても興味がある。見てみたい。とても…そそられる。


「…んっ」


目を開くと、見たことのない天井が視界に広がり、上機嫌な誰かの鼻歌が聞こえてきた。


「兄さん、ご飯できたよ!今日はね、オムライス……に、兄さん…目が覚めて…」


暖簾をくぐり、幼い顔立ちの少女がお盆を持って歩いてきていたが、眠りから覚めた自分を見るなり驚きに目を見開き、持っていたお盆を落として手で口を塞いでいた。


「すまない、ここはどこだろうか。魔王様はご無事か?」


なによりも、目が覚めたという事は自分は死んでいなかったという事。まだ魔王様の為に動ける、ならば向かわない他ない。


「兄さん、私のこと…わかる?」


少女は問いを無視して、なんなら逆に質問してきた。


「君のことはわからない、それより魔王様は…」


言いかけた途中で、少女は泣き崩れてしまった。


これでは話が進まない、とにかくここがどこか調べないと


眠っていたベッドから体を起こし、そのまま立ち上がると異変に気付いた。


「なんだ…これは…」


視線がいつもの高さとは違うのに加え、体全体に力が入らないし、違和感を感じていなかったが声が全く違う。


「これは、どういうことだ…?」


疑問が頭の中を埋め尽くす中、少女が立ち上がり笑顔を向けてきた。


「兄さん、おはよう。ご飯食べよ?」


今だに状況の把握ができていない中、告げられたその言葉に腹の虫が返事をした。


「待っててね、すぐ作るから!」


少女は、落としたお盆や料理を持って、また暖簾をくぐって姿を消した。

残ったのは立ち尽くす自分だけ、そして辺りを見回し近くにあった鏡へと近づく。


「これは…僕、じゃない…?」


それは今まで魔王城で魔王のために働き、魔王のために勇者に斬りかかった自分の姿とは全く別の者が写っていた。

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