第百四十六話 情報集めの協力者
フレンズの人となりがよくわかる。息子のブルートは心配していたが、こういった対応が出来るならこの先も心配はいらないだろう。
「さて、話を本題に戻そう」
「はい。そうでしたね。何か必要なことがありましたか?」
フレンズは察しがいいな。私がここに何もなく訪れたわけじゃないと考えたようだ。勿論ちょっと様子見がてら茶を飲みに来たこともあるが、そのあたりの違いは雰囲気で掴めるのだろう。
「実は一つ関わってる話があってな」
だから私は孤児院のこととこれまでの経緯をフレンズに話して聞かせた。
「なるほど……孤児院のことは私もよく知ってます。経営している院長は町でも評判ですからね。美人なのもそうですが、身分に関係なく困ってる人がいれば分け隔てなく接し悩みを聞いてあげたり、親をなくしたり捨てられた子供も引き取りしっかり面倒見てあげていますしシスターの鑑と言える方ですよ」
「なるほどな……ところで院長のマザー・ダリアは教会には属していたりしないのだろうか?」
「私もそこはまだ詳しくありませんが、ただ過去には属していたのですが今は未所属と言う話をちらっと風のうわさで聞いたことがあります」
なるほど……もし教会に属していたなら、教会が何かしら手助けになることもあるのではと思ったりもしたが、今は属していないのか。
教会といえばかつて聖女と呼ばれていた少女のことを思い出す。もう過去のことだが一時期仲間たちと一緒に旅して回ったものだ。
「しかし、コエンザムの息子ですか……コエンザム卿については知ってます。慈善事業にも取り組んでいて貴族の中でもかなり出来た人でした。孤児院にも寄付をしたりまた孤児院の建物も確かにコエンザム卿の厚意で用意されたというのは有名な話です。しかし、それが急に借金を抱えさせられるとは……」
フレンズが顎を押さえ一考し、そして大きく頷いた。
「わかりました。どこかきな臭い気もしますからね。私も情報網を駆使して調べて見ますよ」
「助かる。本当にいつも助けてもらってばかりだな」
「あはは、それは寧ろこちらのセリフですよ。本当にエドソン様のおかげで稼がせてもらってますから」
指でお金を表し、うししと笑ってみせる。私が余計な気を遣わないようにと考えてのことかもな。
「それでは宜しく頼むよ」
「はい。魔導具の件もどうぞ宜しくお願いします」
「はい。そちらもご希望に添えるよう尽力致しますので」
私とメイで挨拶した後、フレンズの店を出た。その足で今度はジャニスの店に向かう。
「これはこれはエドソン様。ご機嫌麗しゅう」
部屋まで通してくれて紅茶を用意してくれた。店では奴隷の首輪から解放された元奴隷の姿も見られる。
「エドソン様のおかげで人材派遣業は好評を頂いておりまして、他の奴隷商とも差別化が図れております。本当に感謝の言葉もありません」
何かお礼を言われてしまった。まぁでも好調なら良かった。
「ところで本日は、人材をご希望ですか?」
「いや、今派遣してもらっている子達でとりあえず足りてはいる。ただこれは念の為というのと将来的な話でね」
「ほう? それは一体……」
私は孤児院の話をジャニスにした。内容は孤児院でも働ける年代の子がいて希望するなら所属させて欲しいということ。また場合によっては孤児院の全員を面倒見て貰うことは可能か? という点だ。
後者はほぼ保険みたいなものだがな。
「なるほど。そういうことでしたらエドソン様の頼みとあればご協力させて頂きましょう」
「ありがとう。ただ、私の頼みだからと贔屓したりはやめて欲しい。それは結果的にどちらの為にもならないからな」
「勿論。寧ろだからこそ厳しい目で見させて頂きます」
はは、なるほど。ジャニスらしい答えだな。
「しかし、気になるのはそのコエンザムの息子であるドラムスですね」
「そうなんだ。今はフレンズにも頼んで情報を集めて貰っているのだがね」
「それでしたら、私も当たってみましょう。特にフレンズ様でも中々集まらないような裏ルートの情報を念入りに――」
ジャニスが微笑を浮かべる。なるほど、ジャニスは奴隷商としては出来た男だが、やはり清濁併せ呑むようなところもあるようだ。まぁ身を守る上でもそういった部分に触れる必要もあるだろうからな。
そして私はジャニスと雑談も交えた後、店を出た。
さて、後は情報待ちだが――
「これはこれは目下素材が集まらなくて苦労中のエドソンではないか」
「くくっ、こんなところで出会うとはな。何だ? 資金集めのために翻弄中なのかな?」
ジャニスの店を出て少し歩いた先でドイルとドルベルに遭遇した。全くよりにもよって二人一緒とはな。
「くくっ、そのメイドもそろそろ覚悟を決めたらどうだ。坊主も奴隷として今なら高く買ってやってもいいぞ?」
「は? 全く寝言は寝てから言え。どうして私がメイをお前なんかに、死んでも御免だ!」
「ご主人さま――」
何かメイが凄く喜んでいる気がする。まぁそれなら私も開発者冥利に尽きるというものだ。
「しかし、お前も馬鹿な男だ。あの時に同盟の話を素直に応じておけば苦労もなかっただろうに、わざわざ領主様の顔に泥を塗るような真似をして断るのだからな」
ドルベルが顎を擦り私を見下している。全く気に入らないな。
「そもそもお前たちがどれだけ他の商人に迷惑をかけているかわかっているのか?」
「迷惑だと?」
「そうだ。お前たちのせいで素材になる鉄や薬草や魔草などが入らなくなるところも増えているのだからな」
「……薬草に魔草だと? どういうことだ?」
鉄のたぐいはわかっていた。だが――
「薬草や魔草も冒険者ギルドの管轄だ。故に今後はギルドと契約を結んだ相手にのみ卸すこととなった。だがどういうわけかお前たちと繋がっている連中に限ってその条件を呑もうとしない。結果的に自分で自分の首を絞めているのだから愚かなことだ」
こいつら、そんなことにまで手を出していたのか。本当にやりたい放題だな。
「ま、せいぜい金策に励むことだ。あぁそうだ。一ついいことを教えてやろうブランド化廃止の件はなくなった」
「何?」
「でしたら、確かに悪い話ではありませんね」
そうだな。商業ギルドが頑張ってくれたのだろうか?
「くくっ、よかったではないか。ま、その代わりブランド税が導入されるがな。ブランド化した場合は売上の80%が租税される制度だ。勿論支払えなければ借金だ。それが嫌ならせいぜい頑張ることだなガハハ!」
そして二人が嘲笑いながら去っていった。しかし、やってくれる売上の80%とは随分と舐めた制度だ――
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