第百十七話 レオの町に到着

 森を抜け街道を走り、といっても私は飛んでいるが。


 そうこうしている内に目的地のレオの町にやってきた。周囲を山に囲まれた盆地であり、周りに存在する山々に魔石鉱山や宝石鉱山が存在しているとのことだった。

 

 しかし町はやはり壁で囲まれているな。全くどこもかしこも古い体質のまま代わり映えしないものだ。


 とりあえず冒険者達の言うとおりに進むと町の入口となる門が見えてきた。


「ヒッ! 何だあれは!」

「まさか、魔獣か?」」

「今すぐ応援を!」


 魔導車が門の前まで近づくと衛兵たちが警戒態勢に入った。全くここでもか。


「待った待った。そんなビビらなくていいってば!」


 慌ただしく動き出す衛兵に向けて、私の後ろに乗っていた女が叫んだ。衛兵たちの視線が私達に向けられ、一様にその目を丸くさせる。


「そ、そ、空を飛んでる……」

「高位の魔法使いか?」

「しかし、妙な板に乗ってるぞ?」


 槍を構えたまま、口々に語り合う。ふむ、この立体飛導操機オープンスカイボードでさえこの反応か。全く技術としてはそこまで高度なものではないんだがな。


「彼女の言うとおりですよ。彼らとは途中で出会ったのですが、ここまで戻るのに親切にも魔獣に乗せてもらったし悪い人間ではない」


 魔導車から冒険者の1人が下りてきて説明する。


「なんと【情熱の紅玉】のメンバーでしたか」

「そう言われてみるとあの板に乗っている彼女もpそうだな」


 衛兵たちの態度が随分と軟化したな。どうやら【情熱の紅玉】という冒険者パーティーは衛兵が一目置くぐらいには有名なようだ。


 その後、魔導車から下りた冒険者達の口で衛兵に説明される。そこにフレンズも加わっていた。


「なるほど、つまり魔導具の力で魔獣を従えさせているのですね」

「はい。私はフレンズという商人ですが、魔獣の大人しさは保証しますよ。フォード領からやってきましたが極めて大人しかったですし」


 大人しいのは当たり前なんだがなぁ。そもそも魔獣ではないし。


「え? フォード領からこられたのですか?」

「はい。御主人様と私達で魔獣を操りここまで来ました」


 メイはすっかり魔獣という体で話していた。余計なことを説明するよりその方が話が早いと思ったのだろう。


「これは驚いたな。我々もまさか貴方達がフォードから来たとは思わなかった」

「でも途中の橋が落ちていたはずだよね?」


 冒険者も驚いているな。1人が橋のことに振れてきたから一応説明する。


「それなら……こいつで飛んできた」

「何と魔獣で!」


 正直私はメイと違って割り切れないからな。魔獣だなんていいたくないから別な言葉で置き換えた。


「しかし、何故またフォード領の人間、しかも商人がここに?」


 うん? 魔導車の話が落ち着いたと思ったら今度は衛兵が訝しそうな顔を向けてきたな。


「実は私達はどうしてもこの領の魔石を仕入れたくて、それでここまで来たのですが」


 フレンズが衛兵に説明した。この辺りは商人の領分だから余計な口出しはしないほうがいいかもな。


「魔石……」

「う~ん……」


 すると衛兵達が顔を見合わせ、困ったような表情を見せてきた。


「悪いがそういう目的なら諦めたほうがいい」

「そうだな。あんたらがフォード領から来ている以上、この街での取り引きは絶望的だと思う」


 これはまた穏やかな話ではないな。


「一体どういうことだ? 我々がフォード領だと何か問題あるのか?」

「きっと橋のことだろう」


 すると一緒に乗せてきた【情熱の紅玉】のリーダーらしき男が話に加わってきた。


「確かに橋が落ちていましたがそれが何か関係あるのですか?」


 怪訝そうにフレンズが問う。


「大アリさ。そのおかげでこの町の商人はフォードにいけなくなったのだからな」

「ふむ……たしかにそれはそのとおりですが、それでは少々一方的すぎるのでは? 橋が壊れて薦めなかったのは我らも一緒ですし」

 

 フレンズが眉を寄せつつ反論する。確かに橋が壊れていたという点だけでみるならそうだな。


 ただ、あの橋が壊れていたのはフレンズも知らなかったわけだが。


「一緒? とんでもない。あの橋が壊れた時、真っ先に領主様からシドの町に一報を送り、すぐにでも共同で出資して橋を直さないか? と提案をされたのだ」

「しかし、フォード領の伯爵はそれを一方的に断り、それどころかうちの管理が悪かった責任はこちらにあると取り引きの中止を求められたんだ」

「それもあってブジョー男爵もご立腹でね。商業ギルドとも話し合って二度とフォード領とは取引しないという話で纏まったんだ」


 やれやれ、橋が壊れていた時からそんな予感はしていたが、やはりあの領主の仕業だったか。


 しかし、だとしても何故そんな真似をしたのか。天然の魔石などそう採掘できる場所はないのだがな。


「そんな話があったとは……」

「なんだい知らなかったのかい?」

「正直言うと橋が壊れたことも知らなかったぐらいです」

「何だいそれは? 一体そっちの領地はどうなってるんだ?」


 フレンズが答えると呆れたように衛兵が言葉を返してきた。確かに普通に考えればいい加減な対応に思えることだろう。


「なに、実は今我々も少々もめているところでな。だが、それなら却って都合がいい。確かに我々はフォード領から来たが魔石の話は領地とは全く関係のない理由だ。寧ろ我々と取引することはブジョー男爵にとっても有利に働くと思うが」


 私がそこまで話すと衛兵たちが再び顔を見合わせ。


「ふむ、どちらにせよ領主様のことは我々では判断出来ないな」

「町に入ることは出来ますか?」

「それは構わないが、入ったからといってすぐに領主様に会えるわけではないぞ」

「それは勿論わかっています。それで構いませんので」


 フレンズがそこまで話すと、わかったと衛兵たちは快く迎えてくれた。

 

 さて、レオの町に入った我々だったが。


「いや、珍しいものを見せてもらった。我々は冒険者として色々動いているから何か困ったことがあったら頼ってくれよ」


 こうして【情熱の紅玉】とは門の前でわかれた。冒険者に頼ることがあるかはわからないが、パーティー名と顔は覚えておくとしよう。


「さて、これからどうするフレンズ?」

「はい。先ずは商業ギルドに向いましょう」

「商業ギルドですか?」


 私へのフレンズの回答にメイが小首をかしげる。衛兵の話を聞く限り、現状商業ギルドはフォード領にあまりいい感情を抱いていない可能性が高い。何せ一方的に取り引きを打ち切ったわけだからな。


 それなのに話を聞いてもらえるのか――メイも疑問に思ったのかも知れない。


「現状、互いの関係は決していいとは言えませんが、フレーム氏から手紙を預かっているのですよ。商業ギルドも結局のところ商売を優先する組織ですからね。この手紙を読んでもらえれば興味を持ってもらえるかもしれません」


 なるほどな。そして商業ギルドと話がまとまればギルドを通して領主へ紹介してもらえるかもしれない、そう考えているわけだな。


「よし、そういうことなら先ずは商業ギルドへ向かうか」

「はい御主人様」

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