第九十五話 対悪魔
悪魔狩りの時間がやってきた。私からすれば何年ぶり、いやいつの間にか300年も時が過ぎ去っていた私からすれば300と何年前になるかといったところか。しかし悪魔化した人間の醜悪さはいつになっても変わらないものだ。
『ウォオオオオ、メシ、モット、モッド、食イモノォオオォオオ、ソレニ女、女ヲ寄越ゼエエエェエエエェエエエ!』
元部下だった物の残滓が散らばっている中、こちらに目を向けていたガイアクが大口を開けて叫んだ。
アンジェリークの顔が歪むがこらえたか。ハザンも歯を食いしばって耐えている。装備を変えハザンの腕も大分上がったが、それでも悪魔相手に大丈夫か? と少しは心配したが杞憂だったな。
アンジェリークもなかなかのタフさだ。雰囲気から読めるものも会ったが精神力が相当強いな。
あの叫びは精神的に相当タフでなければ耐えられない。まぁ私のように特殊な服でも着ていればまた違うが、そうでなければあれを耳にするだけで気を失うだろう。
悪魔の叫びには相手に圧倒的な恐怖を植え付ける効果があるからだ。前もって兵士たちを逃して正解だったとも言えるか。
膨張し、巨大な脂肪の塊のようになった悪魔がやたらギョロギョロとした瞳を動かした。その視線はアンジェリークとメイに向けられ、双眸がぐにゃりと三日月のように変化した。
好色な瞳だ。何を考えているのか手に取るようにわかる。
『女ァァアアアァア、旨ソウナァアアア、女ダァアアアアァア!』
二人を見た途端、涎を撒き散らして凄く興奮しだした。本当に欲望に忠実な悪魔だな。
「おい兄弟、何か全身に口が出来てきて、体中からウネウネと触手が伸びてきたぞ!」
「あぁ、悪魔は本人の欲望を再現した姿に変化する事も多々ある。口は食欲の現れだろう。触手は……ま、まぁそういうことだ」
「そういうこととは?」
アンジェリークが目をパチクリさせて聞いてきた。え? そこ言わなきゃ駄目?
「……御主人様、今エッチな想像しましたね?」
「し、してない! 何を言ってるんだメイ!」
「ジーーーーーー」
「疑うような目でジーッと見るな!」
細めた目で見つめられると何かゾクゾクする! 怖いぞメイ!
「はっは、何だ兄弟、子どものくせにマセてるな」
黙れ、そもそも私はお前より歳上なのだから。
「しかし、触手――」
ハザンの目がアンジェリークに向き、ニヤケ顔になってるぞ。おい、ちょっと気持ち悪いぞ。
「破廉恥です」
「ぐぼぉ!」
「お、おいメイ!」
メイが拳を振り下ろしてハザンの頭が地面に埋もれたぞ!
「戦う前からダメージを与えたら駄目だろメイ!」
「大丈夫です手加減してますので」
「いや、手加減ってお前……」
頭が地面に埋もれてるよね?
「プハァ! くそぉ、相変わらずメイさんはキツいぜ」
だが、ハザンは地面から頭を引っこ抜いて後頭部をさすり笑って済ませた。あぁそうだな、ハザンだもんな。
「お前たち、フザケ合ってていいのか?」
あ、アンジェリークが呆れ顔だ。まぁ確かにそんな場合ではないな。
「御主人様も気をつけてくださいね」
「いや、私がそんな不埒な真似するものか」
「本当ですか? 私にもエッチな妄想しませんか御主人様?」
「いや、しないけど……」
「…………」
いや、何故沈黙! そしてなぜ少しガッカリしたみたいに!
『グオオォオオォオオオォオオ!』
「おい来るぞ!」
アンジェリークが叫ぶ。確かにいい加減ふざけてる場合じゃないな。
「おふざけはここまでだな。先ずは私が先手を打とう」
マイフルを構え、照準をガイアクに向けた。ほぼ同時に触手を伸ばしてくるが、構わず引き金を引く! 放たれた魔弾が触手に命中し激しい爆発が生じた。
「おお! やったか!」
「いや、本体は全くダメージを受けてないように見える」
喜ぶハザンだがアンジェリークは冷静に現状を分析していた。性格の違いが出ているが、流石は真面目そうな女騎士だけあるな。
「ふむ。アンジェリークの言うようにやはり効果が薄いか――」
「アンジェリークというのか。素敵な名前だアンジェと呼んでも?」
「は? いや、まぁ呼びやすい名前で構わんが……」
「あのアグレッシブさは御主人様にも見習って欲しいです」
「は?」
メイが二人に目を向け、ため息交じりにそんなことを言う。見習うって、あぁアンジェと呼ぶことか。確かにその方が呼びやすいかもな。
「しかし御主人様。確かに今の一撃では触手を軽く押し戻したぐらいですね。相手は悪魔化したばかりなので少し驚いているようですが」
メイの言うとおりだ。触手に命中し爆風で押し戻されたが、本体にも触手にも殆どダメージがない。
ガイアクは爆発に驚いたみたいだが、体がなんともないことにはすぐ気がつくだろう。ダメージがないとわかれば、今度は問答無用で触手で突っ込んでくるはずだ。
「悪魔は魔法耐性も高いからな。物理攻撃もあのぶよぶよした体だと通りにくいかもしれない」
「おいおい、それでなんとかなるのか?」
「魔法も物理も通らないとなるとかなり厄介だな……」
ハザンが目を丸くさせ、アンジェも真剣な目で唸っている。確かに一見どうしようもなさそうだが――
「ま、悪魔の特徴は十分心得ている。対悪魔専用魔弾の出番だな」
「対悪魔?」
そう。私は腕輪から魔弾を取り出し、マイフルに装填し直した。再度照準を合わせる。
『ウロオォオォオオオォオオオ!』
触手が再び迫る。だが私は構うこと無く引き金を引いた。銃口から放たれるは帯状の光。途中で拡散し迫る触手を全て貫きながら本体に無数の風穴をあけた。
『グォオオォオオォオオオォオン!』
「おお! 今度は効いているっぽいぞ!」
「当然だ。この魔弾はロウ化したマイフを高圧縮させて放ったものだからな」
「ろ、ロウ?」
「エドソン殿。それは一体?」
ハザンが目を点にさせて、アンジェも詳しく知りたそうだ。
「わかりやすく言えば聖魔法みたいなものだ」
「聖魔法、教会で使われるアレか!」
そう。教会の神官なんかが得意とするのが聖魔法だ。前にハザンに話したようにアンデッド化は塩を混ぜた水、もしくは教会の神父や神官の汗を加えた水、一般的に聖水として販売されているものを掛ければある程度防げる。
だがアンデッド化したものにより効くのは聖魔法だが、この理由は明白だ。アンデッドはカオスに
そして悪魔も単純化して考えればアンデッドみたいなものだ。アンデッドより凶悪だからアンデッドの上位種ともいえる。だがそれはつまりロウの
だからこそ、この対悪魔弾が効果的なわけだ。ちなみにロウによるとマイフは光り輝く。これがより聖なる力っぽく思えるのだろうな。聖魔法と呼ばれるのもそれが原因だ。
ちなみにロウのマイフは癒やしも与える。回復魔法とされるのは、ようはロウ化したマイフの作用だ。
さて、それはそれとして、悪魔は通常魔法が効きにくいから戦うならロウのマイフ主体で行く必要がある。
「ハザン、お前はこれを使え」
「お、これは何だ兄弟?」
「私が使ったのと一緒だ。ソードリボルバー専用の対悪魔弾だ」
「おお! よっしゃ、これで俺も戦えるな!」
早速ハザンが魔弾を装填しロウ、ハザンにわかりやすくいうなら聖属性を剣に付与させるが。
「うぉおおお! な、なんじゃこりゃーーーー!」
これまた盛大に驚いているな。引き金を引いた途端、ソードリボルバーの刃が光り輝き、更に伸びた。剣を振るとフォンブォンッと良い音がする。
「か、かっけぇええええじゃねぇかこれ! 最高だ! 最高だぜ!」
「ふふふ、そうだろうそうだろう」
実は私もこれは結構格好いいと思っていたのだ。何せ光がそのまま刃になっているのだ。なんかこう、凄くロマン溢れる仕様だと思うんだなこれが。
「か、格好いいのかそれは?」
だが、アンジェリークは難しい顔を見せてた。そんな、騎士の彼女に伝わらないなんて。
「……御主人様、あとハザン、はしゃぐのはそのぐらいで、また来ますよ」
「あ、あぁ。しかしメイもだが女性はこの手のタイプの魔導具だと反応が薄いな……」
「俺への対応もだんだん雑になってる気がするぜ。まぁそれが何かいいけどな!」
何でハザンは少し嬉しそうなんだ?
「ところでアンジェは大丈夫か? 必要なら何か貸そうか?」
「いや。寧ろ今のを聞いて私でも役立てそうとホッとしたところだ」
そう言ってアンジェが剣を抜いたが、ほう。
「おお、貴女に相応しい白銀の美しい剣だぜ!」
「ふむ。しかもただの剣ではないな。ロウ、つまり聖なる力が宿っている」
「そこまでわかるとはさすがですね。これは聖剣の一つとされるホワイトソードです」
なるほど聖剣。まぁ過ごそうに聖剣と呼称されているが、ようはロウのマイフが満ちた剣のことだ。
とはいえそれだけに悪魔に対して効果は高い。故にかつての人族は聖剣を称して対悪魔武器として有難がったわけだ。
幸いアンジェのホワイトソードの質は高い。これならあの程度の悪魔相手なら十分戦えるだろう。
よし、これでこっちも準備が整った。そして向こうは向こうで更に触手が増え、私達に襲いかかってきた――
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