第七十七話 魔導機装

「その辺にしておくんだな。男が女性1人によってたかってみっともないぞ」


 周囲になんとかしようとする通行人の姿はなかった。元々それほど歩いていないが、いても見て見ぬ振りをして通り過ぎていったからだ。


 多くの人は自分から厄介事に首を突っ込もうとはしない。そんなものだ。

 この連中も肩にタトゥーを入れていたりして強面のもいるからな。ガラが悪いってことでもあるが。


 だから仕方ないから私が声を掛けた。出来るだけ穏便に済ませるつもりがあったから、それとなく、今やってることが恥ずかしいことで頭の悪そうな行為だと教えてやったつもりだったのだがな。


「あん? なんだ? 俺らの邪魔する馬鹿は、て、チッ、なんだ餓鬼かよ」


 チンピラの1人が私を振り返り、吐き捨てるように言った。髪を肩まで伸ばした男だ。


「おらガキッ! 見世もんじゃねぇんだよ!」

「は、とっととうちに帰ってママのおっぱいでも吸ってるんだな」


 うむ、もう慣れたが、やはりここでも子ども扱いか。わかってはいたけどな!


「ふん、私は子どもじゃないが、お前たちのやってることは子どもから見ても見苦しいものだ。いい大人が恥ずかしくないのか? 一体どんな教育を受けて来たんだ? 親が泣いてるぞ。両親だってわざわざ脳みその足りなさそうな見た目だけ粋がってるそんなくだらない子どもに育てたかったわけじゃ、ん?」


 ふむ、いつのまにか3人組に囲まれてしまったな。おかげであの女からは離れたようだが。


「おい餓鬼。子どもだからって下手にでてやってりゃつけあがりやがった」

「そんなに喧嘩を売りたいなら買ってやるよ」

「あの女も楽しむだけ楽しんだら闇で売り払おうと思ったから丁度いいな。お前みたいな小生意気な餓鬼でもそれなりに金になるだろうよ」


 なんだこいつら? 正真正銘の屑だったのか。この様子だとこれまでも似たようなことをやってきたといったところか。それなら遠慮の必要はないな。


「丁度いい。ならこれを試してみるか――換装!」

「「「あん?」」」


 3人組が不可解そうな顔をしている中、私の腕輪から鎧が現出し、それがパーツごとに分かれ、私の体に次々と装着されていった。


「な! なんだなんだ!?」

「餓鬼が鎧まみれになったぞ!」

「意味わかんねぇ、何がどうなってんだ!?」

「ふっふっふ、説明しよう。これは私が開発した魔導マイフ強化機装パワードスーツだ!」


 ちなみにこれの下位の魔導具と言えるのが筋骨建団に納品した搭乗型建築用ゴーレムだ。尤もこの魔導強化機装は私の動きと完全に連動するように出来ているわけだが。


「くっ、不気味な人形用意しやがって!」


 不気味な? この洗練された流線型のデザインの良さがわからんのかこいつらは。まぁ趣味の悪いタトゥーを入れてるような連中だ。センスの欠片もないのだろう。


「お、おい大丈夫か?」

「ふん、こんなのただの虚仮威しだ!」

「そ、そうだな。大体こんなもん着て動けるわけがない」


 ふむ、随分となめられたものだな。だが、丁度いいか。


「そうだな。耐久テストも兼ねて、これから30秒は黙って立っていてやる」

「「「は?」」」

「なんだその年でもう耳が遠いのか? 30秒間は好きにさせてやると言ってるんだ。あぁそうか秒がわからないのか。なら言い換えよう、私が30数えるまで好きにしていいぞ。それまで反撃はしないからな」

「な、な、な、ふ、ふざけてんのかテメェ!」

「そうだ! 秒ぐらいわかんだこっちは!」

「違うそっちじゃない。こいつが俺らを舐めてるってことだよ!」


 ギャーギャーうるさい連中だ。


「いいから早くやってみろ。ほら、1、2、3――」

「クソガキが! だったら望み通りぶっ壊してやるよ!」


 そして3人は腰に吊るしていた剣やらナイフや斧を取り出し私に向けて振り下ろしてきた。


――キンッ! キンッ! キンッ! ガキィイイン!


「な! 剣が折れやがった!」

「斧もボロボロだ……」

「ナイフもヒビが入って使いもんにならねぇよ」


 当然だろう。こいつらは私の魔導具を甘く見過ぎだ。


「く、くそ! 中からハンマーもってこい! 槍と弩もだ!」

「10、11――」


 ふむ、少しは頭を使ったか。建物に入っていって色々と持ってきた。


「オラオラオラ!」

「ウリャアアアアア!」

「喰らえ!」


 大槌で殴り、槍で突き、弩を打ち込んでくるが全くビクともしない。傷一つ付かんな。わかってはいたがこの程度なら全く問題にならない。


「18、19……」

「ファイヤーボール!」


 火の玉が飛んできて私のスーツが爆発した。小さな爆発だ。


「はっは! どうだ! まさか俺が魔法をつかえるとは思わなかっただろう? これでも俺は仲間の間じゃ知性派で通ってるんだよ?」

「ふむ、今何かやったのか?」

「……は?」


 長い髪の男が意気揚々と言い放ったが、スーツには全く異常が見られない。平常運転だ。


「ば、ばかな! 畜生! 我の手に集え火の――ファイヤーボール!」


 ふぅ、しかし詠唱しての魔法とはな。時間もないのによくやる。そしてまた小爆発が起きたが何事もなかったように私は立っていた。


「そ、そんな! 俺は、全力でやった! それなのに!」


 いや、その台詞はもう少しマシな魔法が使えるようになってから言ったほうがいいと思うぞ? 

 ファイヤーボールは火の魔法の中ではわりと低級の部類だしな。


「――29、30と。サービスタイムは終了だ。さて、これから反撃に出るわけだが覚悟は出来たか?」

「な! く、くそ! こうなったらこの場は引いてやる!」

「はは、そうだ、こんなのまともに動けるわけないからな!」

「俺たちが唯一勝てるのは、逃げ足だ!」


 な、なんて情けない連中だ。大体逃げ足ってそれ勝てるうちに入らんだろう。

 そして踵を返し脱兎のごとく逃げ出した。そもそもお前らの住処はこのビルじゃないのか?


「ま、逃がすわけないわけだが」

「「「なななな、なにぃいいいいぃい!」」」


 3人組は回り込まれた! というわけで、ブーストして横を駆け抜け、あっさり立ち塞いでやった。


 当然だな。瞬間的な速度なら魔導車にも勝てる性能を誇るのだから。


「さて、とりあえずこれを喰らえ」

「「「ゲホッ! な、なんだ? 何を飲ませやがった!」」」


 人差し指を突きつけて液体を高速噴射してやった。3人揃って飲み込んだな。よしよし。


「気にするな。さて、ここからが私のターンだ。ところでお前、さっき私に魔法を使ったな?」

「そ、それがどうしたってんだ!」

「この魔導強化機装は受けた魔法などを即座に解析し再現可能だ。しかもその際に元の魔法を強化して打ち返すなんて芸当も出来る」

「……はい?」

「しかも、これは詠唱も不要だ。というわけで、お前自身が使った魔法を受けて見るんだな。3倍で」

「ちょ、ちょちょ、ちょっとま――」

「ファイヤーボール!」


 右手をかざして髪の長い男が使った魔法を3倍にして返す。さっき見た火の玉より遥かに大きな火球が連中の足元に着弾し、激しく爆発し――


「「「ひ、ひぇええええぇえええええ!?」」」


 3人組は見事にふっ飛ばされた。計算通りだな。ちなみにあの方向に向けて飛んでいけば落ちた先で衛兵と遭遇するはずだ。あとは、まぁこれまでやってきた罪を償うことだな。


「ふぅ……」


 私は魔導強化機装を解除し、腕輪の中に戻した。温度調整も完璧だが、それでも脱ぐと何とも言えない解放感に包まれるものだ。


「え、えっと、あの――」

「うん?」


 声がして振り返るとそこにはあの連中に連れ込まれそうになっていた女がいた。


 ……いや、まだいたのか……とっくに逃げ出したかと思ったぞ――。






◇◆◇


 一方その頃、魔導強化機装の魔法によって飛ばされた3人組は通りの地面に落下し、駆けつけた衛兵に取り囲まれていた。


「何だお前らは、どこから飛んできた!」

「そ、それがよ! 聞いてくれ! 俺たちは被害者なんだ!」

「被害者?」


 髪の長い男が衛兵に向けて声を上げる。他の2人も合わせるようにウンウンと頷いたが――


「そう、俺たちは何も――俺たちは何か天然そうでチョロそうだなと思った女をいつもどおりだまくらかして俺たちの住処のビルに連れ込んで手篭めにして乱暴してから闇で売り飛ばそうとしたんだが……え?」

「お、おい、お前何いってんだ! そのついでに口を挟んできた餓鬼も捕まえて売り飛ばそうとしたなんて――え?」

「ば、ばか! 馬鹿な女子供を騙して弄んだ挙句売り飛ばすだけで金が入るなんてやめられないぜなんて、正直に言ってる場合じゃ、あ!」

「……どうやらお前たちからは詰め所でじっくり話を聞く必要がありそうだな」

「「「ひ、ひいいいいぃいいい!」」」


 こうして何故か正直に悪事を白状してしまった3人はそのまま衛兵たちに連行されることとなったのだった――

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