第七十四話 ドイル商会と冒険者ギルド
side ドイル
くそ! 一体何がどうなっている! 私は確かにあのギルドがブランド化しないよう商業ギルドに言っておいたはずだ。
冒険者ギルドも含めて、魔導ギルドがあまり調子に乗らないよう手を回しておいた筈なのだ。
にもかかわらず、最近になって魔導ギルドが作成する魔導具がブランド化したと聞いた。
そのおかげで本来なら冒険者ギルドに審査を受けなければ作成も販売も出来ない魔導具が、あの連中だけで可能になってしまった。おまけにこれにはあのフレンズ商会も一枚噛んでると言う。
全く忌々しいやつだ。商売なんてものは適当に大量につくったものをどれだけ高く売りさばけるかかが大事だってのに、あいつは信頼とか品質第一とかわけのわからんことばかり言って、私の誘いも断った腹立たしい男だ。
そのフレンズが魔導ギルドと関わっていると知ったときはこれであの商会も纏めて片付くと踏んでいたのに、どういうわけかブランド化してからの売上が好調と聞く。
こんなもの納得出来るか! だから私は早速商業ギルドにクレームを言いに来たのだがな。
「そう申されても決まったことですので」
「ふ、ふざけるな! 何が決まっただ! しかも、預り金制を白紙に戻すだと? 冗談じゃない!」
商業ギルドに来た時、私はてっきりどうにかしてあの連中が預り金を用意したのかと思った。だがだとして普通に考えてそれだけの大金をまともなやり方で用意できるわけがない。だから私はそこを責めてブランド化を取り消すよう求めるつもりだったが、改めて話を聞いて驚いた。
なんとこの連中、決まりかけていた預り金制度そのものを見直すというのだ。頭がおかしいのか!
「お前たちには言っておいただろ! ふざけたブランド化などろくなことにならない。だからブランド化するなら大量の預り金を取るようにし担保にすべきだと!」
「確かにお聞きしました。特に魔導具関係は以前起きた事故のこともあります。それにブランド化そのものも形骸化した制度でしたし、丁度いい機会かもしれないと思っておりました」
「そうだろうそうだろう。ならば」
「しかし、そのおかげで私たちは大事なことを見逃すところでした。確かに冒険者ギルドが手を広げた結果、ブランド化を望むものは少なくなっていましたが、だからこそそんな中でも手を上げて敢えてブランド化を希望するものが現れるとしたら。そこには大きな可能性があるのではないか、とね」
「は? 可能性だと? 馬鹿な! そんなものどこに!」
「ですが、現にエドソン殿が起こされたALVAというブランドは好調で評判もすごぶるよい。うちとしても今回は預り金制を白紙に戻してよかったと考えております」
く、このフレームとかいう眼鏡じゃ話にならん!
「貴様じゃ話にならん! ギルドマスターを呼べ!」
「ギルドマスターは多忙に付き対応できません。それにこの件に関しては私に一任されております。ですので何を言われても結果は変わりません」
「き、貴様! 私が誰かわかって言っているのか? ドイル商会の会長だぞ!」
「勿論存じ上げております。ですからこのようにしっかりとご説明申し上げております」
「そんなことを言っているのではない! 私を敵に回してただで済むと思っているのか? この私は冒険者ギルドのマスターにも顔が利くのだ! やろうと思えば商業ギルドから手を引いて冒険者ギルドと独占契約を結んでも良いのだぞ!」
「……なるほど。ですが貴方こそお忘れですか?」
「何?」
「私たち商業ギルドは何もこの町にだけ存在する組織ではありません。国中、いや大陸中に広がる大きな組織なのです。冒険者ギルドと手を結び商業ギルドをないがしろにすると言うならそれも結構ですが、それ相応のリスクは覚悟して頂きますよ」
眼鏡の弦を押し上げて、堂々とした態度を見せてきやがった。こいつ、全く動じていない! 大抵のやつはこう言えば怯むというのに、なんて腹の立つ男だ!
だが、確かにそのとおりだ。冒険者ギルドと商業ギルドは似ているようで大きく異る。確かに魔物や迷宮関係の素材や資源、お宝は冒険者ギルドが一手に引き受ける場合が多いが、それ以外の品については商業ギルドが絡むことが多く、何より商人同士の繋がりは当然商業ギルドの方が強い。
それを敵に回せばこの街ではともかく、交易などで不利になる可能性がある。
くそ、それを考えたらここであまりごねるのも得策ではないか。ドイル商会は一つの街だけで終わる商会ではない。大陸中にその名を知らしめるべき大商会なのだ。
「……わかった。今回は仕方ない諦めよう。だが忘れないことだな。ブランド化にはそれ相応のリスクがあると」
「……心に留めておきます」
それだけ言い残して私は商業ギルドを離れた。だが、勿論簡単に納得したわけじゃないがな。
◇◆◇
sideドルベル
ドイルの奴がやってきた。全く相変わらず人の話も聞かず好き勝手なことばかり言う男だ。
だがこの男との関係は軽視出来ない。色々と批判の多い商会だが今勢いのある商人と手を結ぶのはギルドとしては利も大きい。それに冒険者ギルドとこの男の考えでは共通する部分も大きい。
そして同時に魔導ギルドが厄介な存在になりつつあるという認識もだ。ドイルからしてみたらあのアレクトという女が手に入ればそれで良かった程度の話だったのだが、なぜこうなったのかと憤っている様子でもある。
それは俺も同じ考えだ。あんな潰れかけのギルド何の問題もないと思っていたのだが、ブランド化を始めた途端、うちを通さず魔導具を作成しそれが相当数売れているという話だ。
その影響は冒険者ギルドにも出てきている。あのエドソンとかいう奴、ただの子どもかと思えばなかなかの食わせ者だったな。
魔導具の作成はアレクトが中心になって作成しているようだが、開発に協力しているのはエドソンだという話だ。ブランド化もあいつが中心になって始めたようだしな。
厄介なのはその魔導具によってこれまでうちに来ていた仕事が減っているという点だ。大工の仕事にしてもリースなどという妙な仕組みを作り建築に役立つ魔導具とやらでギルドの助けはいらないとされ、畑の護衛も魔導具によって魔物が近づかなくなったので必要ないとされ伐採の仕事も魔導具で、くそ、一体何がどうなっている。
そにかくこのままではうちとしても芳しくないそれは確かだが。
「とにかく商業ギルドと話していても埒が明かないのだ。こうなったらお前の方で商業ギルドに圧力をかけてだな……」
ふぅ、全く単純な男だ。確かにここ最近はこのドイルを中心に商業ギルドとも手を結ぶ体を取っていたが、実際のところは協力もしかたなくといった側面も強い。
商業ギルドからすれば俺たちが扱う魔物の素材などはなくてはならない代物。ダンジョンに眠るお宝や資源もだ。だからうちとは波風を立てたくないのが本音だろう。
だが、同時にうちとしても商業ギルドを蔑ろに出来ない理由がある。冒険者たるもの装備品や薬など商人に頼っている部分も大きいからだ。
それに護衛の依頼はなんだかんだで商会絡みが多い。ドイル商会だけの為に、その関係を悪化させるわけにはいかない。互いに牽制しあうような存在だが、争いに発展していいことなどなにもない。
だが、それにしてもあの商業ギルドがあんな弱小ギルドに手を貸すとは。商業ギルドである以上よほど利益に繋がるとようなことでもなければドイル商会の提案は受け入れると思ったが、あいつがそれほどの存在と踏んだわけか。
「おい! 聞いているのか!」
「あ、あぁすみませんね。しかし、正直今うちから商業ギルドに口出しするのは得策とは言えませんね」
「なんだと? ならこのままあの魔導ギルドをのさばらせておいていいとお前はいうのか!」
「そうは言っておりません。ただ、何をするにも冷静さを欠いてはいけません。とにかくその件はこちらでも手を考えておきます」
「そんな悠長なことで!」
「ところでドイル様、以前お話していた受付嬢がもうまもなく入ってくるのだが、色々と腹の立つことも多いのだろうが、どうだろう? ここは1つ別なものへ頭を切り替えてみるのも一興かと思えるのだが?」
俺がそう持ちかけると、途端に締まりのない顔を見せ始めた。
「む、そうか。前に聞いていた生娘の女か。なるほど……ふふ、確かに私も少々頭に血が上りすぎていたかもな」
ふぅ、単純な男で良かった。さて、あの連中、どうしてくれるか――
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