第六十五話 依頼人にたじたじ
この日は色々新しい術式に挑んでもらう必要があったから、アレクトのことはメイに任せ、私が1人で依頼主の下を訪れた。
「きゃーこんなにかわいい子が来るなんて思わなかったわ~ねぇ、お菓子食べる?」
「いや、その……」
ちなみに今回の依頼人は20代半ばぐらいの人妻だ。しかもかなり美人でもある。ただ、私はやはり子どもとしか見られていないようだ。もう慣れたがな!
「ふふ、私も早く坊やみたいな子どもが欲しいんだけど、うちの人淡白で――」
仕方ないからとりあえずお茶を御馳走になっていたが、いやいや何を言っている! そんな頭を撫でながら語られても困るぞ。なまじ顔を知っているだけに反応に困る!
「その、本題に入っても?」
「あ、そうだった。う~ん、でも坊やで本当に大丈夫かな? その、恥ずかしいんだけど……」
ふむ、それはもう部屋に入ってから気づいてはいた。ちなみにこの依頼人の悩みは掃除が下手だということだ。
屋敷もかなりの広さだし、立場的にそれこそメイドなどの使用人を雇っていてもおかしくなさそうだが、旦那が倹約家らしく、掃除など妻がやればいいことと聞き入れてくれないらしい。
だが、実際は上手くいかず、仕方がないから旦那に黙って暫く掃除専用の使用人を雇っていたがそれがバレてしまい、使えなくなったと。
仕方ないのでなんとか挑戦してみるも、今に至ると。ふむ、確かにメイがいたらすぐにでも掃除を始めそうな状況だ。
「こんなことを頼むのは恥ずかしいんだけど……」
「何を言う。人には誰しも得手不得手がある。貴方の作られたお菓子は美味しかったし紅茶を淹れるのも美味かった。そういう得意なことで頑張ればいいのだ。そして不得手で難しいことならこういったものを頼るといい」
そして私は腕輪から1台の魔導具を取り出した。依頼人が珍しいものを見るような目で私に尋ねる。
「え~とこれは?」
「これは魔導式自動掃除機のマンバだ。掃除はなんとこれ1台で片がつく」
「え! これ1台で!」
驚く依頼人だが、論より証拠とマンバを起動させた。ちなみにマンバは厚みのある円形の魔導具だ。
浮遊する魔物を利用した魔石を使っているため、起動すると軽く浮上し移動を始める。床のゴミは底面が開き次々と吸引していく。吸引したゴミは別で設置したゴミ箱に転送される仕組みだ。
更にこのマンバには伸縮自在な腕も収納されており、ゴミ以外のものはその腕を使って回収し指定された場所に置いたり戻したりしてくれる。このへんは使用者が教えることで学習する機能もついている。
「どうかな? これがあれば随分と掃除が楽になるだろう?」
「す、すっご~い! やだマンバちゃんてば、かしこ~い!」
ま、マンバちゃん? 何かペット気分で頭(?)を撫でたりもしているが気に入っては貰えたようだ。
「凄いな~う~んこの調子で洗濯もやってくれるといいのに~」
「それならばいい魔導具があるぞ」
「え? 本当に?」
「あぁ、これが魔導洗濯機だ!」
「きゃ~~すご~~い!」
魔導洗濯機は箱型の魔導具で、中に洗濯物を放り込み、あとは魔力を流すだけで自動で洗濯をしてくれる。汚れを洗濯機自身が見極め適切な方法で洗濯してくれるのだ。
「凄い! でも、やっぱりお高いのよねぇ?」
「ふむ、確かに本来ならマンバで金貨15枚、魔導洗濯機で金貨30枚は頂きたいところだが……」
「安い! それなら5台ずつ買うわ!」
「……は? いやこれはあくまで通常価格で条件次第ではもっと安く……」
「あら何を言ってるのよ。こんないいものをそんな安く見ちゃ駄目。いいものは高いの。それが世間の常識よ」
……何か逆に諭されてしまった。このあたりは階級の違いというものか……やはり商売は難しい。
とは言え、大事なことだから現在の立場を説明した。
「あら、そんなことになっていたの? うん、判った! 私も協力するわね。ちゃんとうちの人にも言っておかないと」
「そう言ってもらえると助かる」
そして今回の分もしっかり契約してもらい私は次の家に向かったのだが。
「あらあら、また随分と可愛らしい商人さんね」
「はは、商人というよりは魔導具師なのだが――」
次の依頼人は30代後半の女性であった。30年などわれわれエルフからすればまだまだ子どもだが、人間からすれば熟女といった年齢のようだ。
しかし、妙にムチッとしていてなんとも言えない色気のある女性だな。
そんな彼女の悩みだが――
「最近うちの人のお腹が出てきて……頭はもう仕方ないの思うだけど、せめてそこは、運動でもしてくれればいいのだけど、そういうのが苦手な人で……」
そう、どうやら夫の体型が気になって仕方ないようだ。なんでも彼女より歳上なようだしな。人は年齢を重ねると腹が出やすいようなのだ。後はまぁ髪の毛が抜けやすくなるといったところか。
ちなみにエルフにはこういった心配がない。髪の毛にしてもある年齢から伸びることもハゲることもなくなるし体型もある程度維持されるからだ。
「どうにかできるかしら?」
「大丈夫だ。魔導具師に不可能はない」
そして私は腕輪から魔導具を取り出し彼女に見せる。
「え~と、これは一体何かしら? ベルト?」
「これは自動減量魔導具の『魔導で無駄なくすっきりベルト』略してMMSベルトだ!」
「な、なんですって~~~~~~!」
う~ん、かなりのオーバーリアクションで驚いてくれた。ノリがいいなこの人。
「でも、本当にこんなものでダイエットが?」
「可能だ。このベルトから特殊な魔力の波動で細胞を刺激することで消費熱量を増加させる。このベルトを1日10分巻けば、その後の約1日、正確に言えば25時間の間の消費熱量が何倍にもなるのだ。運動はしたくないが痩せたいという相手にはもってこいだな」
「本当だとしたら凄いわね……」
「試しに巻いてみるか? そうすれば効果がすぐにでも実感できると思うぞ」
「……そうね、なら少しだけ」
そして依頼人の彼女は腰にベルトを巻き、起動させた。ちなみにこのベルトだが、細胞に刺激を与える時に振動が生じる。
そう振動が生じる。ついでに言えば、この依頼者はなんというかムチッとしていてなんとも大きい。どこがとは敢えて言わないし、私も別に狙ったわけではないのだが。
――ブルンブルンブルン。
――バインバインバイン。
「はぁああん、何かすっご~い、これ凄いの! はぁあああぁああん!」
「…………」
ち、ちがう! 私は別にこんなことは想定してないからな! これは完全に想定外のことだ!
「はぁ、はぁ……これは本当に、効きそうね」
「あ、あぁ。そうだろう」
ただ、これの効果を実感するのはむしろここからだ。試しにちょっと動いてもらうが。
「す、凄いわこれ……少し動いただけで汗びっしょりよ」
うむ、これもうっかりしてたが、何故か今彼女は白い薄手のシャツ姿だ。そこに汗をびっしょりかいたものだから色々と見えてはいけないものが見えてしまってる。
「……その、なんだ。着替えてきた方が良くないか?」
「え? ……ふふ、嫌だ、おませさんね」
自分が今どんな状態にあるか気がついたみたいだが、それなのになんで微笑を浮かべてそんなセリフを!
と、とにかく値段について告げるが。
「あら、これで金貨2枚は安すぎよ。5枚ね。それぐらい取らないと」
何か安くする以前に価格にダメ出しされてしまった……くっ! やりにくい!
とにかく、彼女に今の状況を説明する。
「なるほどね。事情はわかったわ。全くあの人ったら何してるのかしらね。任せておいてしっかり話しておくから」
「あ、あぁ助かる。ありがとう」
そしてここでもまた契約は成功した。だが、何か妙に疲れたな……。
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