第六十四話 魔導具で畑を守ろう

「ど、どうですか?」

「……ふむ、よくやったな」

「え? それじゃあ……」


 アレクトが完成させた魔石と構築した術式の記術、それを確認した私はアレクトを労い。


「これで合格だ。あとは鞄が出来上がればマジックバッグは完成する。良かったなぁ」

「や、やったぁあ! うぅううぅ、長かったですぅ。その間に千の術式を覚えろとか無茶言われてぇ、でも、でも、何か私、新しい自分に出会えた気がしますぅ」


 涙ながらに語るアレクト。うむ、まだ覚える術式は3分の2近くあるが、今は褒めてやるとしよう。


「まぁ、お前は出来が悪いなりによく頑張ったと思うぞ。うむ、感動した!」

「何か一言余計な気もしますが今はもうそんなことはどうでもいいのですぅ! そうこれでやっと!」

「あぁ、そうだなこれでやっと」

「ゆっくり眠れます!」

「次の魔導具にとりかかれるな」

「……はい?」


 うむ、何かアレクトが妙なことを言っていた気がするが、眠れる? はっは何を馬鹿な。48時間に1時間ほど寝てたではないか。


「全く面白い冗談だな。まさかマジックバッグだけで終わるとでも思っていたのか? そんなものだけで足りるわけ無いだろう? ほら、ロートからの紹介で受けた契約分、それにロート本人からも薬研の改良版を頼まれている。あとはフレンズからも紹介を受けてな、これからその材料を手に入れに行くぞ。さっさと準備をしろ」


 あの後もフレンズを通して何件か依頼が来たからな。既に先方から話も聞いて何が必要かもわかっている。それにちょっとした相手とも面通しし話を聞いたしな。


 仕事はおおいに溜まっている、なんとも嬉しい悲鳴ではないか。暇よりは忙しいほうがずっと良いのだから。


「て、アレクトの返事がないぞ?」

「ご主人様、立ったまま気雑しています」


 うん? 気絶だと?


「何だ気絶できる余裕があるならまだ大丈夫だな。そのまま連れて行くぞ」

「承知いたしました」


 そして私は気絶したままのアレクトをメイに担がせて目的地に向かうことにする。その前に依頼したハザンとも広場で落ち合った。


「……なんでメイさんがアレクトを担いでるんだ?」

「ただの気絶だ。気にするな」

「いや、ただの気絶って……はぁ、まぁいいか」


 私が言うのも何だが、まぁいいかで済ますハザンも中々のものだと思うがな。


 まぁとにかく、そのまま山に向かった私たちだが。


「ひぃいぃいい! 蜘蛛の糸が絡みついてきてますぅ~~! なんでどうして!」

「いつまでも気絶しているからだ。ほら喚いていないでそれぐらい自分でなんとかしろ」

「絶対無理ですぅううぅうう!」

「しかしクリアネスパイダーとはまた面倒な魔物を選んだなぁ」


 そう、今日、ハザンとアレクトを連れて山へ狩りへ来たのはこの魔物のことがあったからだ。クリアネスパイダーは自分の体を透明化にする魔法を使うが、何より強靭な透明な糸を放出して相手を縛ったり蜘蛛の巣で罠にはめたりするのが特徴だ。


「ほら、解けたぞ」

「うぅ、ありがとうございますぅ」


 蜘蛛の巣に引っかかった上、糸でがんじがらめにされたアレクトをハザンが救った。横には蜘蛛の死骸が転がっていた。結局ハザンが狩ってしまったな。


「うぅ、さっきまで魔導ギルドにいたはずなのに……」

「アレクト、必要なのはその魔物の魔核と糸だ。ハザンと一緒にさっさと採取するんだ」

「人使い荒すぎますぅ!」

「失敬な事を言うな。使っているのではない。教えているのだ。お前もいい加減ギルドマスターの代理だという自覚を持て」


 全く。大体気絶させたままだったのは少しでも眠れるようにと多少は配慮してのことなのだからな。


 まぁとにかく、その後も2人に何匹か狩ってもらいこれで目的の素材は手に入った。


 ちなみにここからはしっかりハザンにも報酬を支払っている。その分も経費で考えねばいけないからな。


 その内訳もガードの娘のブラがしっかり算出してくれている。


 そして後日、私とメイは試作品を持って依頼人の下へ向かうこととなったのだが。


「では言ってくるぞ、しっかりやれよアレクト」

「うぅうう、わかりましたよぉ~」

「ブラもサボらないようにしっかり見てやってくれ」

「了解で~~~~す」


 私とアレクトが出ている間は経理のブラにもしっかり監視してもらっているからな。


 彼女もギルドが動き始めた当初は若干暇を持て余し気味だったが、ここに来て忙しくなってきている。その分やりがいがあると言ってくれているがな。


「ご主人様。いよいよ雨が降りそうですね。今日は風も強いかと思われます」

「そうだな。こうなるとそろそろ必要な頃だろう」


 なので私はメイと依頼人のいる農場へ急いだ。案の定雨がポツポツと振り始め風も強まってきている。


 畑に着くと何人かの農民が農場の畑を守るための準備に追われていた。見るに動物の皮を利用した布を張るつもりなようだがこんな方法では限界がある。作物への被害を完全に食い止めることは叶わないだろう。


「待たせたな。持ってきたぞ」

「あ、あんたこの間の!」


 以前顔合わせした彼はホワイトマトの生産者だ。ホワイトマトは糖度の高いトマトで名前の通り果実が白い。この農場の主力作物らしいが天候の変化に弱いのが難点との話だった。


 以前も大量の雨と風にやられて80%以上が駄目になったという。このあたりは温暖で大きく天候が崩れることは少ないが何年かに一回は嵐になることもあるという。それにこのトマトは魔物さえも魅了する味だけに、畑を魔物に食い荒らされることも少なくないようだ。


「悪いが今は作業に追われていてな。話を聞いている暇は……」

「なら安心するが良い。今後はそんな苦労はいらないぞ。準備はすぐに終わる」

「な、なんだって? じゃあまさか本当に、畑を守れるような魔導具が出来たっていうのかい?」


 ふむ、以前話したときも半信半疑といった様子だったが、やはり信用していなかったか。


「論より証拠だ」

  

 私とメイは畑の四角に自立する棒状の魔導具を置いていった。それを見て不思議そうにする依頼人だが。


「準備はこれで終わりだ」

「え? これだけ?」

「まぁ見ていろ」


 メイが立てた魔導具の1つに触れた。すると四角に置いた棒の先端から透明な糸が伸びていきそれが高速で半球状に編み上がっていき畑を覆った。


「こ、これはなんだ? 透明な屋根と囲いが出来たってことか? これ、だ、弾力があるな?」


 畑を覆った透明な膜に触れて不思議そうにしているな。なら説明しよう。


「これは蜘蛛の魔物から採れる糸を利用して作った魔導具だ。その名もマモールハウス! その囲いは雨や風にも強い。大嵐が来ても敗れることはなく、魔物や動物の侵入も防ぐ優れものだ」

「な、魔物もだって! 本当かい!?」


 随分と驚いているな。だから試しにメイに石を投擲させた。石が透明な囲いに命中するが弾力によって弾き返されて力なく落ちた。


「凄い! でも、これは一度覆ったらもう中には入れないのかい?」

「それも問題ない。その魔導具に触れてどこか適当に開くイメージを伝えてみるといい」

「え~と、こうかな……あ! 開いた!」


 囲った箇所の一部が口を開けるように開く。これで出入りも自由だ。


「ついでに言えば、イメージどおりの量だけ雨や風を通すことも可能だ。上手く調整すれば必要な分の雨だけ与えることも可能だぞ」

「す、すげー! これならどんな嵐でもへっちゃらではないか! その上魔物よけにもなるし雨を利用することも出来る!」

「うむ、これがあれば嵐や魔物に悩まされることはなく、畑の安心が守られる」

「冒険者の護衛もいらなくなるな! あいつら最近値段が上がっていてうんざりしていたんだ」


 確かにこれがあれば魔物から畑を守れる上、畑作業中に魔物がやってきてもこの中に逃げ込めば農民も助かるからな。


「ちなみにこれは中の糸の成分は定期的に補充する必要がある。まぁ1年交換ってところだな」

「十分だ。むしろ1年も持つなんて凄いしぜひとも欲しいが……お高いんでしょ?」

「ふむ、確かに本来ならこの魔導具本体(4本1組)で金貨20枚。補充用のカートリッジで金貨1枚は欲しいところだな」

「うわぁ~やっぱり高いなぁ~」

「と・こ・ろ・が、ここで朗報です」


 メイがマモールハウスの前に立ち、更に宣伝を続けた。


「なんと、今だけ特別、予約契約頂けると、このマモールハウスに交換用カートリッジ1つをおつけしてなんと――たったの金貨10枚でご提供させて頂きます」

「安いぞおぉおおぉお! 買った!」


 うむ、やはり商品のアピールには気立ての良い美人メイドが最適だな。そんなわけでまた契約が纏まった。ちなみにこのマモールハウスを見ていた人は他にもいて、何だ何だ、と興味津々にやってきて、その多くからも契約を貰えた。


 ふむ、これでまた売りになる品が増えたな。アレクトにもまだまだ頑張ってもらわないといけないようだ――

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