第五十話 素材の集め方
「フォレストモンキーだ! 数も多い。気をつけろよ!」
「ふむ、この魔物は目的のものではないな。あまり興味はないが、魔核はなにかに使えるかもしれん」
「ご主人様、あの魔物は毛皮もそこそこ丈夫ですし、今後の役に立つかもしれませんよ」
「そうか、なら頑張って狩ってくれ」
「呑気か!」
ハザンが叫んだ。鬱蒼と茂る森の中、キーキーと耳障りな鳴き声が響き渡る。木の上には多くの猿の姿があるな。毛は周囲の緑に溶け込みそうな色合いをしている。大きさは猿としては大きいが枝の上に乗れる程度ではあるか。
しかし数だけは多いな。30匹ぐらいいるか。
「すっかり囲まれちゃってますよぉ」
「そうだな。まぁ頑張れ」
「他人事!?」
アレクトがやたらビクビクしつつ、私の発言には驚いていた。
「基本私とメイは動かない。必要にかられれば戦うが、ハザンとお前で対処しろよ」
「む、無理無理無理無理! そもそも私は戦えるタイプじゃないんですよぉ」
「だからリボルバーを貸してやってるだろう。使い方はもう判るだろ」
「この中6発、猿30匹、数足りない!」
「なぜ片言なのでしょう?」
リボルバーを手にしながら慌てふためくアレクト。全く、何のための
「弾丸の特徴は教えておいただろ? それに変えの弾丸だってあるんだ。しっかりやれ」
「で、でもぉ」
「嬢ちゃん、覚悟を決めな! 来るぞ!」
「「「「「「ウキキキキィイイィ!」」」」」」
一斉にフォレストモンキーが動き出した。木から木へ警戒に飛び移りながら、猿同士が入れ替わるように飛び交い、その上で石やイワヤシの実なんかを投げつけてくる。イワヤシは外皮がやたら固い。まさに岩だ。
私とメイは少し離れた位置から高みの見物を決め込んだ。時折こちらにも猿の投擲物が飛んでくるがそれは全てメイの手で叩き落とされた。
「この!」
ハザンはあの剣の魔法を開放し盾として飛んできた物を回避する。だがあれば私が以前指摘したように視界が塞がる欠点があり、案の定何匹かの猿が飛び降り背後についた。
飛びかかり、伸ばした爪を振り下ろす。
「甘いぜ!」
だが、ハザンはそれを読んでいたように魔法を解除し、戻した剣で振り向きざまに一閃。
もともとパワーだけは人一倍どころか人十倍はあるような男だ。それだけで猿は纏めて切り裂かれてしまう。
ふむ、欠点を逆に誘いに利用したか。脳筋だが、あの戦闘センスは中々に馬鹿にできない。
「……毛皮、駄目になりましたね」
「……そうだな」
だが、後先考えてないのはやはりマイナスだな……。
「ひぃ、ひぃ、ひぃ!」
アレクトは逃げ回ってばかりだ。あれで良く避けてる、と言いたいところでもあるが、ウキウキと猿が手を叩いたりして騒いでいる辺り、あれは多分遊ばれてるな。
「アレクト、逃げてばかりじゃ話にならないぞ」
「そ、そう言われても数も多くてぇ」
「アレクト様、私と勉強した術式を思い出してください」
「術式? あ! そうだ、え~と、地に目塗る緑の目、守護せしは――」
アレクトが詠唱を始めた。そして地面に片手を置き。
「――植物魔法グリーンガーディアン!」
詠唱が完成し、地面がボコッと盛り上がり、触手のようにウネウネした蔦がアレクトを囲むように伸びてきた。
すると飛んできた岩などを植物がキャッチしアレクトに当たるのを防ぐ。これがこの魔法の効果だ。生えてきた植物は使用者をその蔦で守ってくれる。
「あれはメイが教えたのか」
「はい、何かの役に立てばと思って」
その考えは正しかったな。おかげで防御はあの植物に任せてアレクトは攻撃に専念出来る。
「エイ! エイ!」
なんとも力の抜ける掛け声ではあるが、命中率は悪くはない。リボルバーで撃った弾丸は猿どもに当たることで爆発したり、電撃が放射状に伸びたり、凍てついたりし、当たった猿だけではなく効果範囲にいた猿ごと巻き込んだ。
リボルバーは携帯に特化した魔導銃で私が普段扱っている
アレクトは魔物の数と弾丸数が合わないと心配していたが、あの調子なら弾を込め直さなくてもこの戦闘は終わりそうだな。
「うぉおおらぁあああぁあ!」
「「「「「キキィ!?」」」」」
何せハザンにしても、大剣で木ごと切り倒すというなんとも力任せな行動に出てるからな。倒れた木に押しつぶされたり、落ちてきたところをハザンの剣の錆になったりと、まぁあいつもやりたい放題だな。そしてしばらくして戦闘が終わったが。
「ふむ、15分か。結構掛かったな」
「いや、結構早いほうじゃ、はぁはぁ、ないのか?」
「うぅ、倒せてよかったですぅ」
ハザンは肩で息してたりそれなりに疲れたようだ。まぁこいつは常に全力で動いているからな。
アレクトは体力的にはそうでもないだろうが精神的に疲れてる感じか。
「おいおい、倒しただけで終わりではないぞ。素材を回収するまでが戦闘だ」
「鬼ぃいぃい!」
「少しは休ませてくれよ……」
仕方ないので30秒休ませた。するとハザンがふっかーーつ! などと叫んで素材の剥ぎ取りを開始した。回復力の高い奴だな。
「アレクトもしっかりな」
「ぅぅ、でも私、解体とかしたことないのですがぁ」
「だったら魔法を利用しろ。植物魔法は上手く使えば解体にも役立つのだからな」
「え? そうなのですかぁ?」
「やれやれ、そんなことも知らないのか。メイ、教えてやってくれ」
「はいご主人様」
その場でメイが術式を教えるとわりとあっさりと理解し物にしてしまった。私からすればまだまだだが、それでも術式に関してメイにかなりしごかれたからな。元々得意だという植物魔法なら覚えるのにそう手間はかからないだろう。
「わ、可愛い!」
「これがリトルグリーンの魔法です」
人形のような人型の植物が生まれ、解体を開始した。頭に咲いた花がチャームポイントだったりする。
せっせこせっせこ一生懸命作業する姿は確かに中々愛らしいとも言えるか。
「便利な魔法があるもんなんだな。しかし、可愛いな! 一つ貰っていいか?」
「貰っても魔法の効果が切れれば消えるぞ」
しかしこの男でもこういうのを可愛いと思うのだな。消えると聞いて残念そうにしているし。
さて、どうやら素材回収も終わったようだが。
「魔核が10ぐらい駄目になっていたか。毛皮は10しか採れていない。倒し方はもう少し考えた方がいいな」
素材を集めに来たのに、それを駄目にしていたのでは仕方ない。特にハザンはBランク冒険者にしては大雑把すぎだ。
「中々手厳しいな。しかし、俺もまだまだ反省点が多いな! 目標が生まれたぞ!」
「あの、冷静に考えたらハザンさんみたいな冒険者を沢山雇って素材を集めたらいいのではないですか?」
「その費用はどこから出るんだ?」
「……あ」
全くやはり抜けてるな。それに例え予算があったとしても、そもそも今の冒険者ギルドは信用出来ないから仕事だって断っているし、冒険者ギルドから魔導ギルドの仕事を取り戻そうともしているんだ。
ハザンはこういう性格だから頼んでいるわけで、他の冒険者に依頼するなんて考えは毛頭ない。
「次はエドソンくんも戦ってくれるぅ?」
「私もメイも基本戦うことはしないぞ」
「うぅ、でも、やっぱりエドソンくんもこんなに一杯魔物が出るところは怖いのですねぇ」
「馬鹿言うな。言っておくが今のフォレストモンキーも私とメイなら10秒掛からず倒せるぞ」
「ええええぇええええぇええ!」
「おいおい、マジかよ……」
随分と驚いているがあの程度なら数がいたところでそんなものだろう。しかし私たちの力を頼りにするようでは今後も私たちがいなければ何もできなくなってしまう。
魔導ギルドには自立してもらう必要があるからな。だからこそ素材集めは全て任せているわけだ。
「さて終わったら行くぞ。まだ目的の獲物が見つかってないのだからな」
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