第四十九話 子どもたち
「いや、なんでもとは言ったが、あまり変なのは駄目だぞ?」
「頬を染めるな気持ち悪い!」
ハザンが困ったような顔で答えたが、何を考えてるんだ全く。
「……ご主人様とハザンさんですか」
「いや、何を想像しているんだメイ?」
確かに学習機能はつけてるが、そんなことまで学習しなくていいのだからな!
「別におかしなことを頼みたいわけじゃない。必要な素材の採取を手伝ってもらいたいだけだ」
「なんだ、そんなことなら任せておけ! Bランク冒険者の本領発揮だ!」
それはまた随分と頼りになることだ。
「うぅ、私はまだ術式の構築ですかぁ~」
フラフラとした足取りでやってきたアレクトが泣き言を口にした。出来た術式を見てみたが、まだところどころ甘いな。それでも最初に比べればだいぶマシになったが。
「マイフはロウとカオスのバランスが大事だと言っただろ? この術式だとカオスにより過ぎてる。他にもこの空間拡張式にも無駄が多い。術式に無駄が多いとそれだけ出来上がった魔導具の負担が増え持ちが悪くなるんだ」
「うぅううぅ、またダメ出しですかぁ~」
シクシクと眼鏡の奥で涙があふれる。この程度で情けないな全く。とは言え。
「判った、判った。どちらにしても明日はアレクトも連れて行く気だったからな。素材集めに付き合え」
「え! じゃあ明日は術式は……」
「あぁ、戻ってきてから夜にやればいい」
「……お前、本当見た目に似合わず鬼だな」
アレクトが両手両膝を床に付けて項垂れた。ハザンも気の毒そうな目でアレクトを見つつそんなことを言っている。
失礼な。中にこもりすぎるのも良くないと思って外に連れて行ってやろうというのに。
「まぁ、どちらにしても明日だな。今日は私達も宿に戻る」
「あ、はい! お疲れ様でした!」
「あぁ、アレクトはこれとこれとこれを明日までに終わらせておけよ」
「ひいぃぃいい! こんなに~~~~!」
「……兄弟、もしかしてドSなのか?」
「……失礼なご主人様は超ドSです」
「いやメイ、それフォローになっていなくはないか?」
何かいつの間にかメイにまでSだと思われてるようで中々に心外ではあるが、とにかく今日のところはメイと2人で宿に戻った。
「……なんだオーナーかい」
戻ったそうそう死んだ魚のような目の使用人に出会った。前は受付をやっていた女である。しかし、そんなに働くのが嫌なのか。やらされていることはこの女がキャロルにやってきたことに比べれば至極常識的なことなんだが、体を動かすことが死ぬほど嫌なのかとにかく苦痛そうだ。
尤もその方が罰になるからちょうどいいと言えば丁度いいか。
「コラッ! お客様にそんな態度、メッ! だよぉ~」
「ん?」
「……あらあら」
明らかに不機嫌そうな態度を示す女に、注意する声が飛んできたのだが、その正体は随分と小さな女の子だった。
メイも興味深そうに見ているが、ふむ、しかしなんでここに子どもが?
「くっ、うっさいんだよ! お前はただ手伝いに来ているだけだろ――」
「でも、言っていることは正しいですよね?」
少女に対して目を剥く女だったが、そこにウレルがやってきて諭すように言う。ゲッ! といった顔を見せると更にウレルは続けた。
「むしろ先輩の貴方が見本を見せないと。それにエドソン様はオーナーですよ。それなのに失礼な態度は駄目です。勿論お客様にもです。反省してください」
「う、ぐぅ」
「反省、してくださいね?」
「わ、わか、判りました!」
そしてそそくさと仕事に戻っていく。首輪の効果が発動するのが流石に嫌と見れるな。
「すみません。いまだ気が緩むとあんな感じで」
「それはいいが、この子は? それに他にも子どもが多いみたいだが」
「オーナーさんも子どもだよね?」
「む、むぅ……」
子どもに小首をかしげられてしまった。これでも頭一個分ほどは私のほうが背が高いのだぞ!
「あれ? キャロルから許可は貰ったと聞いていたのですが……」
「許可……? あ、もしかして、手のことか?」
「はい、そうです」
ウレルがニコッと答える。しかし確かに好きにして構わないと言ったが……。
「みたところ、子どもが多いようですが?」
「はい。実はこの子たちは孤児院の子たちなのですよ」
「ふむ、孤児院?」
「はい。実はちょっとした縁で孤児院の院長と親しくなったのですが、何か色々と今大変みたいで……なのでここも忙しくなってきたので……」
なるほど。宿を手伝ってもらい、その分を賃金で支払うということか。話によると賄いも出してるようだ。勿論それもただ作って出すのではなく子どもたちが交代で作ったりしているとか。
「あの、何か問題あったでしょうか? 子どもたちも一生懸命ですし、宿泊客もみていて癒やされると言ってくれているのですが」
「うん? あぁ、別に問題ない。キャロルにも言ったが経営は任せたのだしな」
「あ、ありがとうございます!」
どうやらキャロルにしても突然私にお願いしてきたのは、この子たちありきのことだったからなのかもな。
それはそれで、悪いことでもないし問題はない。
「メイドさん、綺麗~」
「この子のお母さんなの?」
「それはしつれい。きっとお姉さんよ」
そんな話をしていたらいつの間にか子どもたちが集まってきていた。メイド姿のメイに興味津々なようだが、私はもう年下で子どもとしか見られてない。
「はは、あ、夕食はどうしますか?」
「あぁ、頂くよ」
「じゃあ、迷わないようにお席にお連れしますなの!」
「は? いや、別に手を引いてもらわなくても、お、おいメイなんとかしてくれ!」
「……ご主人様、私には子どもの純粋な気持ちを無下には――」
くっ、結局何故か私は席で幼女にあ~ん、などとされる羽目になってしまった……。
◇◆◇
昨晩はいろいろと騒がしがったが、明朝からハザンとアレクトを連れて目的の素材を探しに山まで来た。
「ひぃ、ひぃ、まだ、歩くんですかぁ?」
「お前は体力がないな。情けないことを言うな」
「いや、まぁここまで結構距離があるしな」
ハザンが苦笑いだ。やれやれ結構と言っても精々20km程度だろうに。
「これこそあの魔導車を使えばよかったんじゃないですかぁ?」
「私だけならそうするが、この素材集めは後々アレクトに出来るようになってもらう必要あるからな」
「えぇ! そうなんですかぁ?」
「あのなぁ元々魔導ギルド再建の目的もあってやってることだ。それなのに、お前が動かないでどうする」
「う、うぅ、何か色々と大変ですぅ」
当たり前だ。ただでさえ色々な権利を奪われている上、所属している魔術師も誰一人いなく資本もほぼゼロからのスタートなのだからな。
「それにしても兄弟は結構体力あるんだな。メイさんはともかく」
「あぁ、私は疲れを軽減する魔導の靴を履いてるからな」
「ず、ずるいです! そんなの使ってるなんてぇ!」
「なら自分で作って見るんだな」
「え? でもどう作るのですかぁ?」
「そんなのは自分で考えろ」
「あぅ、やっぱりドSですぅ」
やれやれ、とにかく、素材を見つけるため、更に奥へと向かうのだった。
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