第四十二話 武器の良し悪し
「はっはっは! こんなことでいいならいつでも協力してやるからな!」
私の背中をバンバンっと叩きながら、得意げにハザンが言った。むぅ、しかし力の強い男であるなこのハザンは。
私の着ている服は攻撃に対する防御力は高いが、日常的な行動にまで作用するようには出来ていない。この男は悪意なしにこいつなりの親しみをこめてやっていることだから弾けないのだ。
「結果的には助かったが、もう少し威厳は持てないものか。あれではお前と一緒にいた連中と変わらんぞ」
「えぇ? いやいやそんなことないだろう。俺はあれだちゃんと貴族的なあれなつもりでやったつもりだぞ?」
嘘だろ……あれで貴族ってこいつの中の貴族の基準どうなってるんだ。大体貴族というのは……いや下品なのもそういえば結構いるなうん。
「ところで兄弟。魔獣の中で話したけど、あの素材で魔導具をつくるのか?」
「だから兄弟では、はぁもういい。この素材でマジックバッグを作るのだ」
「凄いんですよ。なんと1000kgも入るマジックバッグなんです!」
「なんと、やっぱりそうか。そんなマジックバッグがフレンズ商会で売られていたって聞いてはいたんだけどな」
ふむ、ハザンの耳にも届いていたのか。あまり数は卸してなかったのだがな。
「フレンズ商会は町では名が知れているようですね」
「あぁ、あそこの旦那は気前もいいし、客の要望もしっかり聞いてくれるからな。最近はドイル商会の勢いに押され気味だが、俺はフレンズ商会の方が好きだぜ」
その話を聞いて、うぅ、とアレクトがたじろいだ。そういえばこの女、ドイル商会に狙われていたんだったな。
「ドイル商会とは一体どんな商会なんだ?」
「あぁ、ドイル商会はここ数年で急に勢いづいてきた商会でな。今の領主にも随分と贔屓にされているようでもあるんだが、正直あまり評判はよくなかったりもするんだがな」
「ふむ、領主か。う~ん領主?」
「ご主人様。この町に向かう途中、助けたお方が……」
メイの言葉で思い出した。ブラックドッグに襲われていたのは、確か伯爵家でこのあたりの領主という話だったな。
「ところで兄弟。それだけの魔導具が作れるなら、魔導の武器にも詳しかったりするのか?」
「ふん、愚問だな。古今東西魔導具に関する知識ならどんな些細なことでも頭に叩き込んでおるわ」
「お~すげーな。まだこんな小さいのによ」
「小さい言うな!」
「ご主人様は見た目に少々コンプレックスが……」
「そ、そういうことはわざわざ言わんでいい!」
「失礼致しました」
「おいおい、そんなことでメイちゃんを怒るなって。まだまだ子どもなんだし色々と世話になってるんだろう?」
「そうですよ~メッ! だよぉ」
くっ、なんで私が悪いみたいな流れになっとるんだ。
「はっは、メイちゃんも言うときは言った方がいいぜ?」
「貴方にメイちゃん呼ばわりされる筋合いではないのですが?」
「あ、はい、すみません……」
恐ろしく温度の下がった冷たい瞳でメイが言った。ハザンが完全に萎縮してしまっているぞ。わりと容赦ないからなメイは。
「それで、見てほしいというのはなんなのだ?」
「あぁそうだった。これだよ俺の愛剣ゼーツンゲ」
ハザンが背中に掛けていた大剣をテーブルに置いたので手にとって見てみることにする。
「ど、どうだ?」
「どうだも何も、なんでこんなわけのわからん剣を使ってるんだ?」
「わ、わけのわからない……」
「え~? でも強そうですよ幅広ですし、何か魔法の力もあるんですよね?」
「あ、あぁ見ててくれ」
ハザンに剣を戻すと、手に持って魔力を込め始めた。効果などみただけで判っていたが、奴の幅広の剣が更に広がり全身を覆う盾のような形状に変化した。
「わお! 凄いじゃないですか! どこかで購入されたのですか?」
「いや、これはダンジョンを探索した時の戦利品でな」
「どうりでな。しかしますます判らんな。そんな骨董品を後生大事に使って何かいいことがあるのか?」
「ちょ、し、失礼だよぉ、エドソンくん!」
「何が失礼なものか。大体わざわざ見てくれと言っているぐらいだ。本人も不満があるのだろう」
するとハザンが後頭部をさすり頬を掻いた。
「図星のようですね」
メイが言う。当然だな。何も問題がなければこんな言い方はしないだろう。
「いや、最初は俺も喜んでたんだぜ? 手に馴染むし悪くないとな。だけど、何か使っていくうちにしっくりこなくなってしまってな」
「そんなことは当然だろう。むしろそんな残念な顔をせずもっと喜ぶべきだな。それに気づくだけまだ見込みがあるのだから」
「え~と見込み、お、俺一応Bランク冒険者なんだけど……」
「だから何だ。いくらランクがあっても自分が使ってる武器の良し悪しもわからない愚鈍な男なら何の価値もないというものだ」
「エドソンくんっておこちゃまなのに、妙に大人ぶって偉そうなところあるよねぇ」
「黙れ」
全く一言多い女だ。大体私は当たり前のことしか言っとらん。
「でも、一体何が悪いのぉ?」
「俺も何がどうとは言えないんだけどな」
「やれやれそこまで察しているというのに仕方のないやつだ。メイには判るだろう?」
「はい。すぐに理解しました」
「ほ、本当かよ……」
「せっかくだから外に出てちょっと手合わせしてみるといい。それではっきりするだろう」
私達は一旦魔導ギルドの外へ出た。そこでハザンとメイが対峙する。
「女と戦うのは気がすすまないんだが……」
「別に本気で戦えとは言ってない。それと断言するがメイの方が貴様より遥かに強い。ハザンが一万人いても秒で捻り潰すだろうさ」
「そこまでかよ! いや、だってこんな綺麗でエロいメイドがなぁ……」
全くBランクの冒険者ともあろうものが見た目に惑わされるとは情けない。
「とにかく貴様の武器の欠点はメイとやってみればすぐわかるさ。早速始めてみろ」
「はい――」
「おっと!」
メイが動き、距離を詰めて拳や蹴りを繰り出していく。それをハザンは剣を盾代わりにして受け止めていった。
「中々の速さだが、俺の武器は攻防一体の武器だ。ましてや素手の相手なんかに、そう簡単にはやられんさ」
「なるほどぉ! 幅の広さを利用して守りにも使えるんですねぇ。まさに攻防一体ですぅ」
攻防一体? 馬鹿いえ。だがこれで理解した。あの武器をそんな風に捉えているから履き違えるんだ。
「メイ、速度をあげていいぞ」
「はい」
「な、こ、こいつは、くっ!」
スピードが上がり、更に行動範囲も広がった。正面への集中攻撃からステップも組み合わせ、その攻撃範囲が扇状に広がる。飛び技も絡めているため、ハザンは左右だけではなく上や足下への攻撃にも対処せねばならず。
「くっ、発動だゼーツンゲ!」
魔力を込めて、魔導剣の魔法を開放。途端に剣が変化し、全身を覆うほととなる。まるで壁のようだが、それはあくまで正面を守るだけであり。
「ぐぇっ!」
形状が変化したその瞬間、メイが後ろに回り込みハザンの首に腕を回して絞めた。バタバタともがき苦しむ。
「そこまでだもう十分だろう」
「はい、ご主人様」
メイが腕を解くと、ハザンがゲホゲホっと咳き込み地面に膝を付けた。
「ま、マジかよ。俺が、後ろに回り込まれたのに全く気が付かなかった……」
「当たり前だろう。お前まだ気が付かんのか? 貴様の武器は魔力を込めると形状が変化する。その状態は確かに正面からの攻撃には耐えられるが同時に視界を塞いでしまっている」
「……あ、あぁああぁああぁああ!」
ハザンが目を見開き、今気がついたように声を張り上げた。全く気づくのが遅いだろう。
「え~とぉ、それの何が問題がぁ?」
「大問題だろう。ハザンは見ての通り脳筋だ」
「ちょっとひどくない?」
別に酷くはないだろう。そのまんまなのだから。
「とにかく、お前は見た目通りの戦士タイプだ。攻めに特化した戦い方が資本の貴様がそんな武器を持ってどうする。さっき攻防一体と言っていたがとんでもない。その剣はあきらかに防御特化型の魔導武器なのだからな。完全にお前の良さを消している武器ということだ」
「な、なんだってぇえええぇえ!」
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