第四十一話 依頼の価値
「うぉおおぉお! すっげぇええ! なんだこれすっげぇええええぇえ!」
「もうさっきから凄いしか言ってないじゃないですかぁ。単純ですよねぇ」
「お前も似たようなもんだっただろ」
思わず目が細まる。人は自分のことには鈍感なものだ。
「それにしても本当この魔獣は凄いなぁ。体も鉄みてぇに固いし」
「ふっふっふ、判ってないですねぇハザンさん。これは魔導車なのです!」
「だからマドウシャって魔獣なんだろ?」
「いやいや、だからこれは……」
そんな冗談みたいなやり取りを真面目にしてる2人に頭が痛くなる。ハザンも魔獣だと信じて疑ってない。堂々巡りだぞこれ。
「……でも、あの人、よっぽどお子さんの為にこの魔草がほしかったんですね。だからきっと危険だと判っててもそれを敢えて隠したんですよ。本当の事を言って断られるのを恐れたんですねぇ……」
何か涙を拭う仕草を見せてるが、正直全く危険と思わなかったがそれでもお前の言っていることがずれてるのは判る。
「ん? 子どもの為にエスイッヒをか?」
「はい! 病で苦しむお子さんのためにですよ! まだ小さなお子様らしくて、それで苦しんでたんですぅ」
「そうなのか……でも確かに子どもだと辛いかもな。俺なんてもう慣れたもんだけどよ」
「え? 慣れたんですかぁ?」
「あぁ、俺もその病気もってるしな」
「え、ええええぇえ! た、大変じゃないですかぁ! こんなところにいて大丈夫なんですか?」
「うん? 何がだ?」
「だから! 病気なんですよね? 難病で、放っておくと死んじゃうって!」
「え? 死ぬってマジか!」
「大マジですよ! 知らなかったんですかぁ?」
「あぁ、し、知らなかった。まさか水虫で死ぬとは……」
「そうそう、そうなんですよ。大変なんですよぉ、水虫は、ふぇ?」
「プッ、クククッ」
「ご主人様、笑っては悪いですよ」
そうは言ってもな。全く、水虫でこんな、笑えるだろう。
「ちょちょ! ちょっと待ってください! エスイッヒって水虫の材料だったんですかぁ!」
「いや、水虫の薬の材料だ」
「そ、そういう問題じゃないですぅ! だって難病だって!」
「難病だろ? これでも症状を抑えるだけで治せないからな」
「いや、そうじゃなくてぇ、なら子どもが難病で死にそうだというのはなんだったのですかぁ」
「そんなもの嘘に決まってるだろう!」
「ええええぇええええぇええええ!」
アレクトがばかみたいな顔で驚いている。本当に気づいてないあたり、やはり残念だな。
「しかしよぉ、その商人は一体何がしたかったんだ? 水虫の薬を難病の薬だと騙して」
「さぁな」
「よくわからないですよねぇ。危険じゃないとか言ってたのに危険でしたし」
「危険? 全然そんなことはないだろう。いい狩場だったが?」
「それは貴方だからですぅ」
「お前が出鱈目なだけだぞ」
失敬な。まるで私が常識しらずみたいではないか。
「しかし、そうなると、もしかしてこの依頼、何か仕組まれてないか? 例えば違約金がやたら多いとか」
「いえいえ、それはありません。私も今回はしっかり読みましたし」
「いや、しっかり書いてたぞ。依頼に失敗したら違約金として白金貨500枚とな」
「そうそう白金貨5,えええええぇええぇえ! そんなのありえません! みてないですよぉ!」
「ま、お前は気づかないだろうな。また相も変わらずの隠し文字だったし」
性懲りもなく魔ぶり出しのな。全く、流行ってるのかこれ?
「しかし、だとしたら悪質だな」
「あぁ、そうだな……ところでお前は本当になんでここまで来たんだ?」
「おいおい、だから言っただろう? 助けに来たんだよ。借りを返すためにな!」
「は? 借り?」
「そうだ。約束しただろ? 何かあったら何でも言えってな!」
「いや確かにそれも思い出したが、普通あぁいうのは借りとは言わんだろ……」
一方的に喧嘩を売られたわけで、借り貸しとか関係ないからな。しかも何でも言えといいながら自己判断で勝手にやってきてるし。
「まぁまぁ細かいことはいい子はなしってことよ兄弟!」
「いいっこなしと言いたいのですか?」
「だから誰が兄弟だ誰が!」
背中をバシバシ叩きながら随分となれなれしいなこいつ。メイに突っ込まれてるし。だけど、そうか借りか……確かこの男はB級冒険者だったな。
「なら折角だ。一つ頼まれて貰おうか」
「おう! 俺に出来ることならなんでもやるぜ!」
ならばと、私達はハザンを連れて魔導ギルドまで戻ったわけだが。
◇◆◇
「え? え~と今なんと?」
「だから、採取してきたぞ。ほら、これがエスイッヒだ。全部で5束ある」
魔導ギルドで待っているとあの男がやってきて、ニヤニヤしながら私に成果を聞いてきた。
だからはっきり答えてやる。少ないように思えるが、あそこで生えてるのがそもそもそんなもんだ。
「へ、へぇ、そ、そうなんですか。ところで危険はありませんでしたかな?」
すると男の表情が変わり、額に汗を滲ませながらそんなことを聞いてきた。
「ん? 特に危険なことなんてなかったが、なぜそんなことを聞く?」
「あ、いえ。ははは、そ、そうですね。ですが、良かったこれで子どもの病気が治る」
乾いた笑いをみせつつ、喜んでるようなことを言う。言ってることと態度が全くあってないがな。
「それでは報酬を頂くとするか」
「え、えぇ。そうですな。そうですとも」
「報酬はこの依頼書の通りでよかったんだよな?」
ちなみにこの依頼書は契約書も兼ねてるわけだがな。
「え、えぇ! えぇ! そのとおりですとも。この依頼書通りです」
「ふむ、つまり1束につき金貨50枚ということだな」
私は当初聞いていたとおりの内容で問う。するとニヤリと男が口角を吊り上げ。
「おやおや、これはまた妙なことを。そんなことはありませんよ。それは貴方の間違いです」
「ん? 間違いだと?」
「えぇ、えぇ、そのとおりですよ。この契約書にあるとおり報酬は1束につき銅貨5枚、銅貨5、まい?」
そこで改めて依頼書に目を向けた男の顔色が変わった。だから代わりに私が言ってやる。
「あぁそうだ。今思い出した。確かに私の勘違いだったなぁ。確か依頼書では金貨50枚ではなく、1束につき、白金貨500枚だったなぁ」
「ば、ばばばば、馬鹿なぁあああぁああ!」
男が叫び声を上げた。黒目が左右に揺れ動き、肩もプルプル震えてる。よほど予想外だったとみえるな。
「ところで、今私の耳が聞き間違えたのかな? 銅貨5枚などと聞こえた気がするが?」
「そ、そうだ! こ、この依頼書は、に、偽もんだ! そうだありえない! こんなのありえない! 銅貨5枚の依頼書を、か、書き換えたな!」
「おいおい、あまり滅多なことをいうもんじゃないぜ。その依頼書はどうみてもあんたが書いたものだろうが」
「は? なんだと! 誰だ貴様は! 一体どこから現れた! 部外者が妙な口出しをするな!」
うむ、しっかり予定通りの登場だ。影を薄くしておいて、タイミングを見て影を濃くしたのさ。それに随分と驚いているようだ。
「俺はB級冒険者のハザンってもんさ」
「な、B級冒険者だと! そんな、今までどこにも……」
「いや、俺はずっとここにいたぜ? 何せこのギルドに立会人を頼まれていたからな」
「立会人だと!」
「そうだ。そのうえで事前に見せてもらったが、その依頼書に不審な点なんてなにもなかったぞ。印だって押されてるし、お前のサインもあるわけだしなぁ」
「そ、そんな、だが!」
「だけども案山子もねぇんだよ! お前まさか、白金貨500枚支払うなんて書いておきながら、銅貨5枚でごまかそうってつもりなんじゃないだろうな、あぁあぁあん?」
「ひ、ひぃ!」
男が悲鳴を上げた。いやしかし、こいつ、見た目もそれっぽいが口調もチンピラっぽいな。まるで品がない。
それはそれで、相手をビビらせることには成功しているようだがな。
「さてそれではこの依頼料、しっかり支払ってもらうとするかな。しかし悪いなたかが水虫の薬の素材で1束白金貨500枚。それが5束で2500枚も支払って貰えるのだからな」
「あ、あぁ、そ、それは、その……」
それから、男は地面に頭をこすりつけ少し待って欲しいと願い出てきた。なのでハザンが見てる前でしっかり借用書を書いてもらう。
「もしバックレたら、お前の商会は交わした契約も平気で反故にするような詐欺商会だと言いふらして回るからな!」
ダメ押しにハザンがそんなことを言ってくれた。ふむ、しかしこれではどっちが悪者かわからんな。
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