第45話 はじめまして
久しぶりに愛衣と一緒に金曜の夕食。今夜、武人さんは残業の為、愛衣は自分の家に帰るみたい。乾杯して、くだらない会話して、急に愛衣が溜息を洩らした。
「やっと、半分過ぎたよね」
「半分?」
「千夏さんが帰ってくるまで。後1カ月で帰ってくる、はず」
そうか。もう1カ月たったんだ。武人さんの家にも行っていないから、正樹さんにも会っていない。どうしているんだろう。
「明日ね、久しぶりに皆で集まることになったの。由夏も来るでしょう?」
「明日?」
随分急だな。まぁ、正樹さんの様子は気になる。修さんの彼女候補も。徹も、元気かな。
「千夏さんに、正樹さんの事頼まれたんでしょう?約束したんだから、ちゃんとしなくちゃ、ねぇ」
「……もちろん、行きますよ?」
いつの間にか、仕事に悩んでいた愛衣は元気になっていて、会社を辞めたいとは口にしなくなった。少し強くなった愛衣を相手に、断るという選択肢はない。
「良かった。あ、修さんも女の子連れてくるみたいよ?」
「……それは、見たい」
修さんに彼女、かぁ。とってもいい人だし、イケメンだし、彼女ができないのはきっと理想が高いんだろうと思っている。その理想が、来る。ちょっと、緊張する。
―明日、来るんだよな?―
金曜日の深夜、メールをくれたのは修さん。彼女と一緒なんじゃないのかなぁ。
―行きますよ~。修さんの彼女に会えるの楽しみにしていますね―
―彼女、ではない。行くなら買い物付き合ってもらってもいいか?―
まだ彼女じゃないんだ。徹から聞いたの結構前だった気がするけど。もしかして、その時とは違う人?まぁ、いいか。
―いいですよ―
―じゃぁ、10時頃にそっちに行く。ついたら連絡する―
―はぁい―
10時かぁ、ちょっと緊張する。修さんの連れてくる女の子。初対面だしちゃんとしたい。化粧と、服と。お酒も呑みすぎないように、あ、ウコン呑んでおこうかな。なんだかソワソワして、眠気が飛んでしまった私は、どれだけ修さんが好きなんだろう。
―ついた―
「え、もう?」
時間は10時5分。ほぼ約束通りなんだけど……。
―すみません、あと7分待ってて―
本当は10分にしたいけど、約束の時間は10時だったし。でも5分じゃ準備できない。脳みそフル回転させてたたき出した7分だったのに。
―7分って(笑)ゆっくりでいいよ―
ごめんなさい……。
昨夜、何を着て行こうか、何の話をしようかと明け方まで悩でしまい、修さんからの「今から出る」の連絡で目が覚めた。あんなに悩んだのに、服を選ぶ暇なんてない。髪も。いいや、まとめておけば何とかなるでしょう。
「遅くなりました」
息を切らしながら階段を駆け下りれば、車に乗っているのは修さんだけ。あれ?
「ぴったり7分だな、別に急がなくても良かったのに」
可笑しそうに笑う修さん。ええと……。
「一人、ですか?」
「あ?ああ」
ちょっと気まずそうにしている。喧嘩とか、した?
「店で合流することになっているから、いいんだよ」
「私と二人で、車で迎えに行くの?」
「向こうの家が買い出しする店の近くだから、由夏を先に迎えにきたんだけど」
何か悪かったか?と言わんばかりの顔に言葉に詰まる。ううん。悪気は無いんだろうけど。
「彼氏が女と二人で車に乗るの、嫌だと思うな」
「彼女じゃないけど……。そんなもんか?」
ううん、良い人なんだけど。イケメンで、良い人で、でも彼女がいない理由が分かった気がする。
「次から、気を付ける……。人見知りするヤツだから、先に由夏と会わせておきたかったんだ」
その気遣いは、偉い。でも、あと一歩。
心の中で失礼な事を思いながら、車に乗り込む。助手席だけど、いいよね。
「初めまして、香です。よろしくお願いします」
「初めまして、由夏です」
以前と同じお酒のディスカウントショップで合流したのは、きちんとしたお姉さん。ジーンズに黒のTシャツとすごくシンプルなのに、スタイルの良さもあってものすごくしっかり者に見える。申し訳ないけど、修さんが弟に見えてしまうのは、黙っておこう。
いつも通りにポンポンとお酒を買って行く姿にひき気味の香さん。まぁそうだよね。一緒に呑んで、その後でも買い物の量を見たら引きましたから。
「いつも、こんな量なんですか?」
「……はい。あ、でも人数も多いから」
ちょっと言い訳をしてみるけど、そんなにいないなんて、すぐにばれるよね。
「無理に呑まされたりはしないから安心して。ジュースとかお茶とかもいっぱい買うし」
そんなに、嫌な飲み方はしていないと思うんだよね。ただ単に、皆異常に強いだけで……。
「修さんも、よく呑むなぁと思っていたんだけど、皆そのぐらいって感じですかね?」
ううん、もっと呑む人達なんですって、言った方がいいのかな?
「類友って感じかなぁ」
このぐらいに、しておこう。
「おじゃましまぁす」
「……おじゃまします」
「いらっしゃい。待ってたよ~」
エレベーターでは他にも人がいたため、重い荷物をもった修さんには先に行ってもらった。遅れる事数分、私達二人を出迎えてくれたのは武人さんではなく、愛衣。香さんの手土産を受け取る姿が、なんだか様になっている。
「ありがとう。でも、次からは気を使わなくていいからね。私達も何もしていないし、女子は来てくれるだけでいいって、家主の意向なの」
なるほど……。それで、私も毎回手ぶらが許されているんだ。
妙な事に感心しつつ、リビングへ。すでに飲み物はクーラーボックスへ移動し、修さんはビールを片手にテレビを見ていた。だから、ちょっと気を使いなさいって。
思わずため息を漏らした私に、武人さんが笑う。
「コイツはねぇ。仕方ない。香ちゃん、よく考えた方がいいよ」
言葉とは裏腹に、顔は『おすすめ品』って言ってますよ。香さんも、笑っている。
正樹さんは、まだ来ていないみたい。
乾杯だけして武人さんはキッチンへ。修さんと徹の缶を開ける勢いを見て、若干引き気味の香さんに二人で笑う。
「私達も、最初びっくりしたの。お店で呑んだ時、乾杯用のビールの数が合わなくて、さぁ」
もう、一年以上も前なのに、あの衝撃は忘れられない。
「……」
「そのうち、慣れるよ。近くに座っているだけの、別のグループだと思おう?」
なるほど。愛衣、上手い事言うようになったなぁ。
私が立ち止まっている間、愛衣はずいぶん前に進んでいる。並んで人見知りしていたことがちょっと懐かしくて、しっかりしてきた愛衣が、羨ましくて誇らしい。
『どこで知り合ったの?』『いつもどんな話をするの?』『デート、食べるばっかり?』
色々聞いてみたい事はあるんだけど、流石に初対面の相手、しかも人見知りするって申告されている人には聞けない。無難に会社の場所とか、出身地とか、好きな食べ物とか。なんか、お見合いみたい。千夏さんがいたら、きっとうまく盛り上げてくれるんだろうけど。
「ねぇ、1個だけ聞いてもいい?修さんと、どこで知り合ったの?」
愛衣、言った。でも、私もそれ一番気になってた。
「千夏の、友達の紹介、みたいな?紹介って言っても、私達が呑んでた時、偶然同じ店で呑んでて合流しただけなんですけど」
「千夏さんの、友達?」
「はい。あれ?千夏のこと知ってます?」
知っています。大好きです。そうかぁ。そうなんだ。じゃぁ。
「正樹さんも、知っているんだ」
「千夏の彼氏ですよね?可愛い男性。知っていますけど、挨拶ぐらいしかしたことないです」
「そうなんだぁ」
よし、共通の話題発見! ってか、修さん。千夏さんの友達って教えておいてくれてもいいのに……。
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