第25話 懐かしい顔ぶれ
本屋で立ち読みをしながら時間をつぶしていれば、1時間ほどしたところで、やっとメールがきた。
『今どこだ?』
ホント、要件しかメール入れないんだねぇ。まぁ、良いけどさ……。
『駅のそばの本屋。仕事は終ったの?』
『迎えにいくから、そこで待ってろ』
仕事は?の質問には回答なしかよ。まぁ、来るってことは終わったってことだよね。結構広い本屋だけど、大丈夫かな?
ま、わかんなかったらまたメール来るでしょ。
気楽に構えて立ち読みを続ければ、少し息を切らした徹が横にいた!
「悪かったな、待たせた」
いつの間に、きました?
「仕事なんでしょ、仕方ないじゃん。待ったのはいいけど、これからどこ行くの?」
ドタキャン期待してました、とはさすがに言えないので気遣う振りなんかしてみました。でも、我ながら、可愛くないなぁ。
「お前、明るい色も似合うだろ? 少しは慣れたか?」
私の服装を眺めながら、クツクツと満足そうに笑う。たしかに徹が選んだ服は評判がいい。 最初のころの気恥かしさは1週間もしたら薄れてきて、褒められる事も楽しくなってきていた。
「まぁ、なれた、かな。ありがとう」
お礼を言った私に目を丸くする徹。なぜ?
「お前に礼を言われるとは、思わなかったな」
いや、お礼ぐらい言いますよ。あんなにたくさん買ってもらって、毎日のコーディネートまでしてもらってるんですから。私の事、どんなヤツだと思っている訳?
読んでいた雑誌を置いて向き直れば、見えたのは背中。おおい、徹さん?
「どこ、行くの?」
「まぁ、黙ってついてきな」
ニヤリと笑う徹に、嫌な予感しかしない。
何を聞いても笑っている徹の後をついて行くこと数分。そこは、徹と再会を果たした、合コン会場。センスのいい、オシャレなイタリアン居酒屋。
ここ、かぁ。まぁ、確かに『また今度行くか?』とは言われたなぁ。こんなお店で、徹と二人、かぁ。ため息をこらえる私を眺めて、またクツクツと笑う徹。
「二人じゃねぇから、心配すんな」
二人じゃない?徹の友達も呼んだ?
愛衣は何にも言ってなかったから、武人さんは違うよねぇ。正樹さんと千夏さんとか?あの二人、いい人なのはわかるんだけど、苦手意識はまだ抜けないんだよね。
しぶしぶ、と徹について行けば、まさかの大人数!
うろたえる私にクツクツと笑う徹。
貸し切られたスペースは、立食パーティー形式になっていて、見覚えのある顔がチラホラ。
これって……。
「由夏、久しぶり~」
「クミ?」
中学3年間同じクラスで、同じ部活で、よく一緒に遊んだ。
ひさしぶりー、なんて言いながら仲の良かったコたちが集まってくる。
懐かしい!けど、何?この状況は?
「この辺いる人だけで、クラス会も楽しいね。やっぱ地元のクラス会には行きにくいもんねぇ。急に決まったのに、まさかこんなに集まるなんて思わなかった。やっぱ徹君の人徳、かなぁ?」
徹が、企画した、クラス会、ですか?
ってことは、まさか……。
ゆっくりと店内を見渡すと、いた!あの頃より、大人になって、美人になっているアサミ。あの頃より、視線は1.5倍くらいきついかも?私の視線に気付いたクミが、アサミと私の間に入る。
「大人になっても、変わらないねぇ」
呆れたような、怒ったような声。
『アサミなんかに、負けていいの?』中学生の頃、心配そうな顔でそういったクミ。その顔は、昔と全然変わっていない。
あの頃だって、味方はいたんだよなぁ。
私の視界が、狭かっただけ。
「由夏が、徹君と仲良くやってて、よかった」
ボソっと呟いたクミ。返す言葉が見つからなくて、聞こえなかったふりをした私は、我ながら卑怯だ。
「由夏、久しぶり~」
にっこり笑いながら、近づいてきたアサミ。なんで話しかけてくるかなぁ。私のコト、嫌いなんでしょ?クミが、アサミを睨んでくれている。
ああ、味方がいる。それがわかれば、そんなに怖くない。うん、お互い大人になったし、大丈夫。
「久しぶり」
やっぱり、嫌だけどね……。
「徹君と、今でも仲いいのねぇ。幼なじみって、いいねぇ」
笑顔が、怖いです。
徹は自分の友達と話してて、全然こっち見ない。ああ、そういやアサミって、徹が見てないときに私に話しかけるの、得意だったなぁ。張りついたような笑顔で、今の仕事とか、どこに住んでるのかとか、色々聞かれた。
うん、会話は、フツー。笑顔も、ある。
怖い気がするのは、私の気のせいかも。苦手意識が、怖いと思わされるのかな?
「徹君、やっぱりカッコいいよねぇ。ねぇ、彼女とかいるのかなぁ?」
あ、この会話、覚えてる。同じクラスになってすぐ、アサミに聞かれた。
「いないんじゃ、ないかなぁ?」
うん、私の答えも同じ。何これ? 再現ドラマ? そうなんだぁ、と言いながら自分のお仲間の所に戻っていくアサミ。
う~~~~ん。
「あの子、変わんないねぇ。由夏、もう大人なんだから、負けちゃダメだからね!」
「負けたくは、ない。けど、勝てる気はしない」
「勝てるなんて思ってない!けど、負けないで!」
「……」
なんだ、それ?でも、嬉しい。アサミがしたこと、嫌だと思ってくれてる人がいる。私が負けないように、応援してくれてる人がいるって、嬉しい。
そこからは、普通のクラス会。徹とは別々に、昔の友人達と盛り上がった。それぞれの仕事、住んでいる場所、休日の過ごし方、既に結婚している同級生の話や、彼氏の話なんかも。ああ、みんな大人になったんだなぁ。
「由夏の服、可愛いねぇ。すごい似合ってるよ。なんかイメージ変わったぁ。彼氏の影響、かな?」
いや、違います。お誉めいただいたことは、素直にありがとうと言っていいんだろうか?
今日は、クリーム色のシフォンのワンピース。ちょっと落ち着いたブルーのカーディガン。当然ながら、徹の選んだ服。彼氏の影響でもなければ、私が自分で変わったわけでもない。
「そんな服選べるようになったんだから、もう大丈夫だね!徹君たちのトコまざってこよう!」
え? え? それは、ちょっと。アサミもいますし、ねぇ。
オタオタとしている私を引っ張って徹がいる輪の中に進むクミ。
「徹君、ひさしぶり~!ちょっと、こっちにまじっていい?」
「あ? ああ、来いよ。久しぶりだなぁ」
いや、徹も普通に受け入れないで?
でも、皆でなら、徹とも普通に話せた。徹と仲の良かったタケルが、ちょっとホッとした感じで笑ってる。皆、小学校から一緒だったもんねぇ。私の態度は、徹だけでなく、皆にも心配かけてたんだなぁ。
改めて、反省。
「いいなぁ~。ねぇ、私も混ぜて~」
笑いながら平和だった場所に割り込んできたのは、アサミ。そうですよね? 気に食わないですよねぇ。
「ああ」
さらっと言ってのけた徹。クミが目を大きく開いている。
ありがとう~、なんて猫なで声をだして私の隣に立つアサミ。緊張で凍りつく私、睨みつけるクミ。と、周りをみれば徹の友達も固まっている。笑ってるのは、アサミとイゾウだけ。
なんだ、これ?
私はこんな中でご飯食べても、お酒飲んでも、おいしくない。
「なにか食べるものとってこようかな?」
「あ、俺も飲み物とってこよう」
私達がテーブルを離れると、なぜかタケルまでついてきた。
「由夏、ごめんなぁ。俺らじゃ、アイツに勝てねぇんんだぁ」
申し訳なさそうに謝ってくる。だらしないなぁ、なんてクミが笑う。みんなが気を使ってくれていること、ありがたくて情けなくて、ちょっと泣きそう。
ゆっくりと料理を選んだら、近場のあいてるテーブルを使った。
アサミと徹は、楽しそうに話している。その姿をみるのは、昔ほど嫌ではない、が。
う~~~ん。徹、何がしたいんだろう?
「なんだろうねぇ?まぁ、小学生のころから、突拍子もないことする子だったよね。皆が思いつかないような、できないようなこと。一人で考えて、突然一人で行動するから、よくビックリしたなぁ」
ああ、そう言えばそんなヤツだったなぁ。そのまま、小学校時代の話しになり、当時の担任とか、転校しちゃったコの話とか。タケルも一緒に盛り上がって、アサミと徹のことは頭の隅に行ってしまった。
「なんだよ? 戻ってこねぇと思ってたら、こんなとこで食ってたのか?」
ちょっとふてくされたような徹。なに食ってんだ?と私の皿からピザをつまむ。その後ろに、笑顔のまま私を睨む、アサミ。
怖いんですけど……
できれば、こっちに来ないでいただきたいです。
「こっちのテーブルの方が料理に近いから。せっかくおいしいお店なんだから、いっぱい食べたいじゃない?」
ふぅん、と納得したのかどうかもわからない声を出して、私の皿からサラダをつまむ。自分でとってくれば?と皿を取り上げればめんどくせぇ、と笑う。
だから、後ろが怖いって!何なんだ、こいつは。
「仲いいねぇ」
クミが笑う。タケルも笑う。穏やかに、嬉しそうに。
アサミも、笑う。目が、笑ってなくて怖いけど。
「まぁなぁ。そのうち、嫁にする予定だからなぁ。」
「「「「はぁ?」」」」
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