第304話 電気分解

「じゃあ、行くのは私を含めて四人ね?」

「あぁ、よろしく頼むよ」


 カティの前に、それぞれ水着に着替えた三人――俺とラウラ、クレアが集まる。

 しかし、クレアの水着姿……悪くない。

 ビキニタイプの水着だが、カティの紐みたいな水着とは違って、標準的な布面積だ。

 そして、


「あ、あの……ヘンリー様。あんまりジロジロ見られると恥ずかしいです」


 そんな事を言いながら、恥ずかしそうにモジモジする。

 うむ! カティみたいに胸を押し付けてくるのも良いけど、こういう初々しいのも良いな。


「……クレアは、さっき自分からローブを捲り上げていた」

「白々しいわね。それに、白い水着ってどうなのよ」


 何故かラウラとカティがジト目でクレアを見ているけれど、今はそれよりもマーメイドだ!


「クレア。水中呼吸のマジックアイテムの準備は大丈夫か?」

「はい。任せてください」


 そう言って、クレアが小さな筒? のような物を取り出すと、


「先ず、このマジックアイテムを咥えてもらいます。そこへ、私が具現化した風の精霊シルフを入れ、シルフの力でマジックアイテムに弱い雷を与えます。この雷のエネルギーを使う事で、周囲の水を分解する事が出来、そこから酸素を……」

「あ、うん。とりあえず、その筒から空気が出るんだよな? 任せた!」

「は、はぁ……一先ず、このマジックアイテム使用中は、私から離れないようにしていただきたいです」


 何やら難しい説明を始めてしまったけど、要はここから空気が出てくるという事だ。

 しかし、クレアは何気に精霊魔法も使えるんだったな。

 マジックアイテムが主だからか、精霊使い特有の露出の激しい格好もしていないし、つい忘れてしまっていた。


「あれ……ふと思ったんだが、水中にも水棲の魔物って居るよな?」

「そうね。これから行く場所は海の中だけど、遭遇する可能性もあると思うわ。私たちエルフは、水中でも地上と同じ様に活動出来る魔法を使うけど……そんなのを咥えて魔法が使えるの?」

「私は水中へ入る前にシルフを具現化しますけど、水中ではシルフの維持のみで、攻撃魔法などを使う事は出来ないです」


 あれ? という事は、水中で魔物と遭遇してしまったら、遠距離はカティ頼みで、近距離では俺が攻撃か。

 ……水中戦も士官学校で訓練していたが、銛……とまでは言わないが、ダガーくらいは欲しい所だな。


『ヘンリーさん、気を付けてくださいね。おそらく、ヘンリーさんも魔法が使えないので、いざという時にテレポートで逃げる……なんて事も出来ないですから』

(いや、逃げるって事は無いだろうけど……魔法が使えないのは困るな)

『そうですよ。化け物じみた強さのヘンリーさんといえども、流石に水中では動きが制限されて、水棲型の魔物の方が有利でしょうし』


 確かに、水中で魔物と戦った経験は無いな。

 水中での対人戦では、互いに動きが制限されるものの、魔物相手ではそうはならない。

 魔物と遭遇したら、かつてない程の苦戦を味わうかもしれないな。


『それを回避するためにも、風の結界を張って行けば良いのではないでしょうか』

(いや、それだとマーメイドを触れない……もとい、肝心の魚を捕まえられないじゃないか)

『ヘンリーさん。完全に目的を見失っていますよね?』


 一先ずアオイのツッコミを無視して、ワープ・ドアを使ってカティの指定する場所――かつてダークエルフの海の家があった場所へ移動する。

 水中では魔法が使えないからと、身体強化系の魔法を全員に使用し、いつもの愛剣ではなく、短いダガーを具現化しておく。

 銛の具現化を試みても良いのだが、普通の槍とは違って、俺が細部まで知らないので、悩んだ末に良く知るダガーにしておいた。

 いつも通り探知魔法も使用しているし、魔法系の事前準備を全て行った所で、


「では、風の精霊シルフをマジックアイテムの中へ具現化します。くれぐれも、私から離れないようにしてください」


 クレアも準備を終え、それぞれがマジックアイテムを口に咥える。

 その様子を見たカティが、


「では、全員準備は良いですよね? これから海に入りますので、ついて来てください」


 俺たちの知らない魔法――おそらく、エルフ専用の水中呼吸魔法――を使用して海中へ入って行ったので、クレアと手を繋ぎ、ラウラに抱きつかれた俺も海の中へと足を進める事にした。

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