第292話 大家族

「あ、あの……立候補しておいてなんだけど、ほ、本当に私なんかで良いの?」

「もちろん。子供が好きならそれで十分。ただ、親御さんの許可は必要だけどね」


 放課後はアルバイトがあるから、あまり時間が無いという三人目の立候補者、ポピーの家に向かう。

 ポピーとは同じ基礎コースだから顔は知っているけれど、実は殆ど喋った事が無い。

 いつも髪の毛がボサボサで、今も長い前髪で目が隠れている為、ぶっちゃけ表情も読めなかったりする。

 そんな、ほぼ初対面とも言えなくも無いポピーの案内で、物凄く立派な屋敷に着いた。


「凄っ! うちの屋敷と大差ない……というか、こっちの方が大きいかも。王都なのに凄いね」

「あ、いえ。そこは、お隣さんです」

「あ、そうなんだ。ごめんね」


 大豪邸を通り過ぎようとした所で、また大きな屋敷が見えて来る。

 凄いな。これが噂の高級住宅街という奴だろうか。


「ポピーの家はこっちか。それでも十分凄いね」

「いえ、そっちでも無いです。その間です」


 間? 一体何を言っているのだろう? と思いながらも、よく見てみると……あった。両隣が凄過ぎて見落としてしまっていたけれど、普通の……よりも、少し小さな家だ。


「ただいまー。お母さん、お友達がお話ししたいって来てくれているから、急いで来てー」

「え? お姉ちゃんのお友達がママに挨拶? ……ママーっ! 大変、大変っ! お姉ちゃんが彼氏連れて来たーっ!」

「えぇっ!? お姉ちゃんが結婚するの!? 嘘で……うわぁっ! ママーっ! 本当に居たーっ!」


 ポピーのお母さんが現れるまでに、小さな男の子や女の子が代わる代わる現れては、奥へ引っ込んで行く。

 なんて言うか……コントみたいな家だな。


「ごめんね。騒がしくて」

「いや、俺は別に構わないんだが……あ、あの人か?」

「ううん。さっきのはお姉ちゃん。で、柱の陰からチラチラこっちを見ているのが、お母さん。……お母さん、時間が無いから早くしてー」


 ポピーに言われた場所を見てみると、陰からピョコつと小さな顔だけ出して、俺を見てくる女の子が……って、あれがお母さんだと!? 容姿がポピーと大差無いんだが。


『おそらくハーフエルフではないでしょうか。彼女たち少しエルフの魔力を感じます』

(あー、なるほど。そういう事か。あまり変に騒ぎ立てない方が良いかもな)


 俺はエルフもダークエルフも獣人も、女の子であれば全て平等にエロ可愛いと思うが、世の中にはそう思わない人も居るらしい。

 少しして、ポピーのお母さんが、恐る恐る俺の前に出て来た。


「あ、あの……娘とはどういう関係なのでしょうか?」

「お母さん。今日から、私の御主人様になるヘンリー様よ。失礼な事言っちゃダメ」

「待て待て待て。今のはポピーの方がおかしい。なんだ、御主人様って!?」


 ポピーのせいで、お母さんはもちろん、姉妹たちも驚いているじゃないか。


「え? でも、ヘンリー様は私の事を買って下さったんですよね?」

「表現がおかしいってば! 住み込みで働いて欲しいっていうお願いだっ!」

「で、夜のお仕事も混みだから、あんなに高給なんですよね?」

「違うっての。仕事は日中帯だけだし、夜はポピーの部屋で寝れば良いよ」

「それなのに三食ご飯が出て、メイドさんが居る屋敷に住めて、魔法学校の単位も取れて、宮廷魔術士並の給料なんですか!?」

「あぁ。ただ、ここからかなり遠いから、週末しか帰ってこれないけどな」


 既に話していた仕事内容を改めて話して居ると、


「あの……私もその仕事します!」

「お姉ちゃん!? ダメよっ! 私の御主人様なんだからっ!」

「じゃあ、私が……」

「お母さんまでっ!? ヘンリー様。お母さんも了承しているし、もう良いですよね!?」


 ポピーのお姉さんとお母さんまで手を挙げる。

 ただ、今のを了承というのだろうか?


「あの、ポピーのお母さん。構わないですか?」

「えっと、後で変な請求とかされませんよね? 実は結婚詐欺とかじゃないですよね?」

「少なくとも結婚詐欺では無いな。あと、請求なんて無いよ。こっちが給与を支払う側だし」


 一先ず念押し確認もして、ポピーが屋敷に来てくれる事になった。

 次はロレッタの家に行くため、今から最後のアルバイトに行くと言うポピーと一緒に歩き、気になっていた事を聞いてみる。


「あのさ、ポピーって何人家族なんだ?」

「うちの家はお父さんとお母さんが居て、お姉ちゃんや妹、弟が居て……十人家族かな?」

「凄いな。八人姉妹なのか」

「うん。でも、お父さんがお母さんの事を好き過ぎるから、また妹か弟が出来ると思う。下手したら、もうお腹の中に居るかも」

「そ、そうなのか」

「そんなお父さんを見てるから、男の人の行動は良く分かっているつもりだし、夜もオッケーだからねー」


 いやだから違う……って、ポピーが盛大に誤解したまま走り去ってしまった。

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