第293話 変態との戦い

「ダメだっ! どこの馬の骨とも分からん男に、大事な大事なロレッタをやれるかっ!」

「パパ。だから、どこの馬の骨……って、ヘンリー君は学校のクラスメイトだってば」

「それがどうした! ロレッタ……分かっているのか? 男っていうのはな、狼なんだ。隙を見せた途端に、襲い掛かってくるんだ」


 ポピーの家に続き、ロレッタちゃんの家に来たんだけど、玄関でいきなり仁王立ちのお父さんから、全面的に拒否されてしまった。

 ロレッタちゃんが家の地図を描き、先に説得しておくから……と言っていたのだが、どうやら失敗してしまったらしい。

 とりあえず、俺としても人手が欲しいので、説得に加わる。


「お父さん。何か誤解されているみたいですが、俺はロレッタちゃんを……」

「お前なんかに、お義父さんと呼ばれる筋合いは無いっ!」


 いや、話を聞けよ。

 というか、若干ニュアンスがおかしいんだが、ロレッタちゃんな、何て言って説得したんだ?


「ロレッタちゃん、ちょっといい?」

「うん」

「おい、待て! 父の目から隠れ、二人でイチャイチャする気だなっ!? ワシの目が黒い内は、そんな事は絶対に許さんぞっ! そういう事がしたければ、この父を倒してみせよっ!」


 隠れる気も無いし、イチャイチャもしないんだが……いや、ロレッタちゃんには悪いが、どう見てもお父さんは普通のオッさんだ。

 万が一にも俺が負ける要素が無いんだが。


「ロレッタちゃん……倒して良いの?」

「いやー、流石にお父さんに倒れられると困るかなー」

「ロレッタや。今でこそ父は商人をしているが、こう見えて、元は宮廷魔術士だったのだよ。さぁ、少年よ。どこからでも掛かってくるが良い!」


 どーしたもんかなー。

 過去の栄光に美化が掛かって、自分が凄いと勘違いしているパターンだよなー。

 軽く捻ってしまえば大人しくなりそうだけど、ロレッタちゃんの父親だしなー。


『ヘンリーさん。じゃあ、命に関わらない所で、軽く氷の像にしてあげるとかは、どうでしょう?』

(いや、十分に命に関わるだろ。あと、ロレッタちゃんのトラウマになるわっ!)

『むぅ……でしたら、瞬間移動で遠く離れた帝国に連れて行って、置き去りにするとか』

(それは人命に直結しないけど、ロレッタちゃんが心配する事に違いはないだろ。却下!)


 どうしたものかと思案していると、


「パパ。ヘンリー君は魔族を倒した英雄だよ?」

「ロレッタ。それは、この少年に騙されているんだよ。魔族を倒した? そんな訳ないだろう?」

「本当だってば。皆の目の前で戦ってたし、それに王女様の命を助けたって、勲章まで授与されたんだよ?」

「わ、ワシだって勲章の一つや二つくらい……あ、あるぞ?」

「……パパ。それ、本当?」


 お父さんがロレッタちゃんから、あからさまに目を逸らす。

 この人、色んな意味で大丈夫か?


「とにかくだ! ロレッタから、どこぞの村の領主の息子だと聞いているが、王族だろうと、貴族だろうと、ワシの可愛い娘は絶対にやらん! ロレッタが欲しければ、ワシにその力を示して見せよ!」

「……力を見せれば良いんだな? 後悔するなよ?」

「ふん! ハッタリだけは一人前だな!」


 だんだん面倒くさくなってきたので、足元を素手で軽く殴り、地面に大きな穴を開ける。


「つ、土系統の魔法か。ま、まぁまぁだな」

「いや、単に軽く殴っただけだ。本気を出せば衝撃波を放てる」

「んな訳あるかっ! ……だが、手塩に掛けて育てた可愛い娘だ! まだ胸も発展途中で、成長を見守っている所だというのに、他の男にやれるかっ!」

「……それ、ロレッタちゃんから聞いているけど、止めた方が良いんじゃないのか?」

「な、何をっ!? 父親が娘と一緒に風呂へ入って何が悪いっ!」

「年齢を考えろっ!」

「考えとるわっ! だから、着替えはこっそり覗くだけにしているし、寝顔鑑賞も月に五回までと決めておる!」


 えぇぇ……。引くわ……マジで引く。

 いやでも、手を出さない分、俺の父親よりはマシなのか?

 世の父親って、こんな奴らばっかりじゃないよね?


「パパ……気持ち悪いから、止めて。あと、私……決めた。この家を出る」

「ろ、ロレッタっ!? な、何を……」

「パパがヘンリー君の所で働く事を承認してくれたら、働きながら学校を卒業する。承認してくれなかったら……」

「しなかったら……?」

「ヘンリー君と駆け落ちする!」

「ロレッタぁぁぁっ!」


 ドン引きしたのは、ロレッタも同じらしいけど……駆け落ちって何だ!?

 家から出る為の口実に使っているだけだよな? そうだよな!?


「というわけで、ヘンリー君。これから、お世話になります」


 結局、変態――もとい、父親の了承も(半ば強引に)得られ、ロレッタちゃんがうちで働いてくれる事になった。

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