第251話 炉が大切なドワーフたち

「ちょっと待ってくれ。俺たちは、火山を利用してドワーフたちが鍛冶を行っている事を知らなかったんだ」

「だから何だというのだ! 我々の鍛冶を邪魔しておいて、知らなかったから悪くないとでも言うつもりか!?」

「そうじゃない。鍛冶の仕事を邪魔してしまったのは悪いと思っている。火の精霊力は何とか戻してみせるから、一旦落ち着いてくれないか」


 ヴィクトリーヌが馬鹿正直に火の精霊力を弱めた事を話してしまったので、ドワーフたちが今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。

 一先ずそれを止める為、ヴィクトリーヌを庇うようにしてドワーフたちの前に出たのだが、奥からわらわらとドワーフたちが集まり続けている。


「あの人間の兄ちゃんと、狼の姉ちゃんが溶岩を弱めたっていうのか!?」

「だが、どうやって!? ここはヴァロン王国でも有名な大型の火山だぞ? 精霊魔法を使うエルフならばまだしも、人間と獣人にそんな事が出来るのか!?」

「おい、あの後ろに居る連中も、こいつらの仲間なのか!? とりあえず、全員牢に放り込むべきだろう」


 後から来たドワーフたちは、俺の話が伝わっていないのだろう。

 火の精霊力を戻すと言っているのに、俺たちを拘束しろと言っている。


(アオイ。さっきのサラマンダーたちを元の状態に戻せるか?)

『私の魔法で火の精霊力を高める事は出来ます。ただ……』

(ただ?)

『完全に同じという訳にはいきません。そのため、今の状態よりは強くなりますが、ドワーフたちが思っているよりも火の精霊力が弱かったり、それ以上に強かったりするかもしれません』

(なるほど。だが、一先ずやるしかないな。元々ドワーフの力を借りに来たのに、そのドワーフが鍛冶を出来ない状態だしな)


 とりあえず、俺の話を聞いて居なかった者が多そうだし、もう一度言っておくか。


「同じ事を繰り返すが、火の精霊力は戻す! だから、一旦落ち着いてくれないか!」

「戻すって言ったって、どうやって戻す気だ!? というより、そもそもどうやって火の精霊力を下げたんだ!?」

「ここへ来るまでの間に、溶岩地帯があっただろう。そこのサラマンダーが大量に居た場所で、水の精霊力を高める魔法を使ったんだ」

「水の精霊力を高める魔法……って、そんなのエルフの中でも高位の術者が使うような魔法じゃないか。お前たちの中にエルフが居るようには見えんが……いや、それよりもだ。その、サラマンダーが大量に居る場所とは何だ!? 確かに、この火山には侵入者を防ぐ為のダンジョンを仕掛けているが、そんな場所は無いぞ!?」

「え? でも、来る途中にあったぞ? 周囲が溶岩に囲まれた場所を進んだ先に」

「溶岩に囲まれた場所の先……って、どうやってそんな所へ行ったのだ? そんな場所、到底近づけんだろ」


 あれ? あの溶岩に囲まれた場所って、ドワーフたちのダンジョンじゃないの!?

 そういえば、最初に足を踏み入れた時も、造られたダンジョンではなさそうだって、クレアが言っていたっけ。

 ……つまり、あれは見た目通り行き止まりで、別で正解の道があったって事か。

 で、ショートカット? みたいにダンジョンの別の場所に出てしまったと。

 どうりで、あの場所が異様に暑かった訳だ。ドワーフも通らない道って事だしな。


「あー、とにかくだ。今すぐ、火の精霊力を戻してくるから、少し待っていてくれ」


 ドワーフたちは急いでいるみたいだし、俺も急いで聖銀で剣を作ってもらいたいし、すぐさま戻ろうと思ったのだが、ドワーフの大群に囲まれてしまった。


「待て。お前たちが、このまま逃げる可能性もある。誰か一人、人質として置いていってもらおうか」

「人質だと!? だから、俺たちはすぐに戻ってくると言っているだろう!」

「信用出来るかっ! お前たちが何故ここへ来たのかは知らんが、炉はワシらにとって非常に重要なもので、このままだとまた別の土地へ移動しなければならない程なのだ。ただでさえエルフの高位魔法を使うと言ったり、溶岩の中を進むと言ったりと、怪しい言動のお前たちを信用出来ん」


 ドワーフ側の言いたい事は分からなくもないが、だからと言って人質なんてものは出せない。

 仲間以上に大切なものなんて無いからな。

 だが、実際問題どうする? 力づくで突破する事も、瞬間移動で逃げる事も出来る。

 しかし、どちらも本来の目的である聖銀の加工には結びつかない。

 ならば人質に応じるか……と言われても、人質として出しても良いと思えるのは俺だけで、女性は絶対に許可出来ない。

 けど、俺が人質になってしまったら、誰も火の精霊力を戻せないから、結局意味が無くなってしまう。

 どうすれば良いかと悩んで居ると、


「ヘンリー様。私が人質として残ります」


 クレアが人質になると名乗り出た。

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