第250話 ヴィクトリーヌの知りたい事

 ついにドワーフの国を見つけた!

 エルフの洞窟みたいに魔法が制限されていないのは幸いだったが、無駄に距離は長いし、溶岩地帯は暑いし、その上しっかり幻覚系の罠を仕込んでくる。

 激しいバトルは無かったものの、大変な道のりではあった。

 それに加えて、そもそものドワーフの国を探すのに大変な労力を掛けたので、かなりの達成感があるのだが……何かがおかしい。


「あの、師匠。何だか、ドワーフさんたち……随分慌ただしくないッスか?」

「そうだな。俺にもそう見える。何だか、バタバタして皆忙しそうに走っているし……ヴィクトリーヌ。ドワーフって、いつもこんな感じなのか?」

「ふっ……我が知る訳もなかろう。我が知りたいと望むのは、ヘンリー殿の気持ちのみ」


 いや、ちょっとマジで何を仰っているんでしょうか。

 ヴィクトリーヌが変な事を言うから、プリシラやクレアがキッて睨んできたよ。

 真面目な二人はの前では、そういう事をしちゃダメなんだって。

 ……隠れてこっそりなら大歓迎だけどねっ!

 と、それはさておき、分からないなら、とりあえず聞いてみよう。

 ドスドスと右へ左へと走り回るドワーフが居たので、声を掛ける。


「すみません。ちょっとお聞きしたいんですが……」

「うるせぇっ! こっちはそれどころじゃねぇんだよっ!」


 マジか。普通に接したはずなのに、一蹴されてしまった。


「俺、何か変な言い方だったか?」

「ううん。隊長さんは普通だったと思うよー」

「もしかしたら、男は受け入れられないとかか? ……よし。ここは最初から最終兵器であるニーナを投入しよう。ニーナ、さっきのとは違うドワーフに、何かあったのか聞いてみてくれ」

「隊長さん。ボクが最終兵器ってどういう意味……あ、やっぱりいいや。聞いてくるー」


 ニーナの素晴らしさを語ろうと思ったら、何かを察したのか逃げるようにしてドワーフたちの元へ駆け出して行ってしまった。

 言葉だけでなく、実際にその弾力や柔らかさ、手触りなんかを実演しながら説明しようとしたのだが、


「うるさい! 邪魔だっ!」


 あのニーナが相手にもされずに戻ってくるはめになってしまう。


「最終兵器のニーナがダメだなんて……一体、俺たちはどうすれば良いんだ!? ……はっ!? まさか、奴らは……いやしかし、リスクが大き過ぎるっ!」


 巨乳美少女のニーナが相手にされないという事は、即ちその逆……どこぞの魔族と同じ様に、幼い女の子が好きな種族の可能性がある。

 つまり、ユーリヤに話しかけさせれば……しかし、万が一ユーリヤが相手にされず、厳しい言葉を投げかけられようものなら、俺が許さん!

 可愛いユーリヤに暴言を吐いた奴は、斬り捨ててしまうかもしれない。

 というか、そこでユーリヤが泣いてしまい、本来のドラゴンの姿に戻る様な事になれば、ここに居る全員が生き埋めになって死んでしまう。

 まぁ俺たちだけは瞬間移動で逃げられるけど、そういう問題でも無い。

 ここにルミが居れば、問答無用で突撃させるのだが……


「ふっ。ヘンリー殿。ここは我が手腕に任されよ!」

「え!? ヴィクトリーヌ!?」

「はっはっは。我が見事に情報を持ち帰ってみせる!」


 変なテンションのヴィクトリーヌが、何も言っていないのに近くのドワーフに突撃して行った。


「我はヴァロン王国第五騎士隊副隊長、ヴィクトリーヌ=フォンテーヌである。そこのドワーフよ。何故、そんなに慌てておるのだ!?」

「……」

「おい! 無視するなっ! というか、可哀そうな人を見る様な視線を我に向けるなっ! いや、我は本当に第五騎士隊副隊長なのだっ! ちょ、頼むっ! 誰か、話を……話を聞かぬかっ!」


 まぁ言い方はどうあれ、何が何でも情報を得ようとする心意気は素晴らしいな。

 暫く様子を見ていると、走るドワーフと並走しながらヴィクトリーヌが話を聞き始めた。

 やるなぁ。


「何っ!? ドワーフにとって、鉱物の次に大事な炉の機能が突然弱まった!? それで原因究明に皆あたふたしている!? なるほど。で、炉とは何だ!?」


 ヴィクトリーヌ。簡単に言うと、炉は鉄などを溶かす為に使う、高温を得る為の装置だよ。

 鍛冶にとって必須と言えるって、士官学校の武器講義で習った……って、ちょっと待った。

 ドワーフ王国の炉が弱まったって、それは大丈夫なのか!?

 聖銀は加工出来る……よね!?

 ヴィクトリーヌは引き続きドワーフに話を聞いているのだが、


「ふむ……なるほど。鍛冶を行うのに必要な物なのだな。……ほう。原因は分からないが、溶岩の温度が下がったから、何かしらの理由で火の精霊力が落ちたのかもしれないと。……おそらく、それだな。先程我々がサラマンダーを弱めたからな」

「……なぬっ!? おい、狼の姉ちゃん! 今何て言った!?」

「だから、我々が火の精霊の力を弱めたと言ったのだ」

「何だとっ!? じゃあ、お前らが原因かっ! おい、皆の衆! こいつらが炉の力を弱めた元凶らしいぞっ!」


 友好的に鍛冶を依頼したかったのに、早速険悪な雰囲気になってしまった。

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