第183話 乳搾り体験

「すみません。誰か居ませんかー?」


 冒険者ギルドの支部へやってきたものの、冒険者らしき人物はおろか、ギルド職員らしき者すら居なかった。


「だれかいないのー?」


 ユーリヤが俺の真似をして尋ねた声がむなしく響く。

 この村には冒険者が来ないとは聞いていたが、職員くらいは居ると思っていたのだが。


「主様。そこに、『御用の方は押してください』と書かれたボタンがありますが」


 ジェーンに言われて見てみると、テーブルの上に小さなボタンが置かれていた。


「にーに! おしていい?」

「あぁ、良いよ」


 ユーリヤがボタンを押して少し待っていると、奥の方からパタパタと駆けて来る音が聞こえ、


「すみません、すみません。お待たせしちゃいましたー。冒険者ギルド、マックート村支部のナタリーと申しますー」


 ナタリーと名乗る、可愛らしくて胸の大きな少女が現れた。

 だが、その姿を見て俺は驚き、そして肩を落とす。


「……マジかよ」

「え? どうされました? あ、もしかして私、臭ったりします!? 申し訳ないです。ギルドに誰も来ないので、暇すぎて村の人から教わって、酪農を始めたんですよー。これが意外に楽しくて……って、どうされました?」

「違う、違うんだ。その頭……」

「え? もしかしてお兄さんは、獣人を差別しちゃう人ですか? それは、ちょっと悲しいです」

「いや、そんな事は無い。むしろ、獣人族はウェルカムなんだが……ただ、獣人って姿を隠しているんじゃないのか? 以前に、事情があって獣人の村を探した事があるんだが、こんな普通に冒険者ギルドの受付をしていたりするのか?」


 現れた少女ナタリーには、ピンクがかった薄紫色の髪から長い兎耳が生えていた。

 俺がシャロンの為に、一生懸命獣人の村を探していたのは、何だったのか。


「あー、それは個人の性格によるんじゃないかと。私たち獣人の兎耳族は、臆病で人間の前にはあまり姿を現しませんが、私はそういうのって気にしないので」

「そ、そうか。ちなみに、今も牛耳族の村を探しているんだが、聞いた事はないか?」

「うーん。牛耳族は知らないですねー。同じ獣人でも、種族によって文化や生活圏が全然違いますからね」


 ナタリーが言った事は、以前にリス耳族の村へ行った時にも似たような事を言われたので、その通りなのだろう。

 一先ず気持ちを切り替え、本題へ話を戻す。


「あー、ちょっと聞きたいんだけど、このギルドって、いつもこんな感じで人が居ないのか?」

「そうですねー。この村はのどかで、村人さんたちも温厚ですし、家と家との距離が離れているので、争い事なんかも殆ど起きないみたいですし。なので、ギルドへ依頼が来ないんですよ」

「よくある、薬草集めとかは?」

「薬草なんて、そこら辺に生えてますからね。村人が自分で摘みに行ってますよ」


 魔物は騎士団が定期的に倒しているし、森の奥にさえ行かなければ魔物と遭遇する事もないし、定番の薬草集めすら依頼が発生しない。

 うん、これは冒険者は来ないな。


「なるほど。それで、酪農を始めたと」

「あはは。ギルドの本部も、ここがのどかな村だって知っているので、他の支部と違ってノルマが課せられて居ませんし。その分、歩合給が無くて固定給だけですが、私一人で暮らす分には十分ですし」


 だったら、この村に冒険者ギルドを設置する意味があるのか? とも思ったが、魔術師ギルドの代わりにメッセージ魔法を送ったり、何かあった時に王都の冒険者ギルドへ連絡したりと、緊急時の連絡要員として、ナタリーが常駐しているらしい。


「噂では、王都では魔族が出たって話も聞きますし、平和に暮らせて良いですね……って、そういえば、お見かけした事が無い顔ですので村の方では無さそうですが、御家族で来られて居ますし、冒険者って訳ではないですよね? 何かご依頼ですか?」

「いや、そういう訳でも無いんだが」

「そうなんですか?」


 ナタリーが不思議そうに小首を傾げる。

 長い兎耳の片方が、それに合わせてペタンと折れたのが可愛らしい。

 冒険者ギルドで得られる話は特に無かったが、ナタリーと知り合えたのは良かったな。

 何より華奢な身体なのに、胸が大きいのは素晴らしい。フローレンス様と同じくらいの大きさではないだろうか。

 今、話に出てきた王都の魔族を倒したのが俺だって言ったら、触らせてくれないかな?


『ヘンリーさん。そういう所、本当に気を付けた方が良いと思いますよ』

(ん? というと?)

『いえ、一応領主という責任ある立場になったのですから、もう少し自重された方がよろしいかと』

(まぁそれはそれ、これはこれだよ。大きなおっぱいと可愛い女の子を前にして、見ない方が失礼だよ)

『そう思っているのは男性だけ……というか、ヘンリーさんだけですけどね。まぁでも、屋敷で会った二人に対して、何もしなかった理由はよく分かりましたけど』

(あぁ、ノーマとメリッサの見習いコンビか。二人とも幼く見えるし、胸も小さかったからな)


 庭師のワンダはアタランテくらいの胸なんだけど、何と言うかちょっと近寄り難い雰囲気があるんだよな。

 何故かは自分でも分からないけど。

 そんな事を考えていると、


「じゃあ、行きましょうか」


 突然、ナタリーが奥の部屋へ案内しようとする。


「な、何だ?」

「え? その……何度も言わせないでくださいよー。ち、乳搾りです」

「そ、そんな事して良いの?」

「えぇ。他の人は来ないでしょうし、何よりやりたそうなので……特別ですよっ」


 何だってー!

 目は口ほどに物を言うとは、よく聞くけれど、本当だったのか。

 ナタリーのおっぱいを触りたいと願っていたら、絞る程に揉ませてくれるらしい。

 この少女は神だ。ありがとう。


「では、こちらへ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」


 奥の部屋へ入り、すぐさま扉を閉めると、背後からナタリーの胸に手をまわし、思いっきり揉みしだく。


「えっ!? や、やだっ! 何するのっ!?」

「凄いっ! 柔らかいっ! 大きいっ! 素晴らしいっ!」

「こ、この変態っ! 誰かっ! 誰か、助けてっ!」


――スンッ


 ナタリーが悲鳴を上げた直後、閉めた扉が音も無く粉々になって崩れ去る。


「主様。何をしていらっしゃるのでしょうか?」


 何故かジェーンが剣を鞘に戻しながら、目が笑っていない笑みを浮かべて入って来た。

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