第182話 マックート村の現状確認

 突然、俺を取り巻く環境が大きく変わってしまったので、一度自身に課せられた課題と現状を再確認してみる。


 やらなければならない課題。

 一.魔法学校を卒業する。

 二.魔族に対抗する武器を作るため、ドワーフの国を探す。

 三.領主としてマックート村を治め、エルフの村と取引を行い、エルフ製の何かを王都で売る。


 課題を成し遂げる為の問題。

 一.今居る村から魔法学校がある王都まで、馬を走らせて三日程掛かる。

 二.ドワーフの国を探す手掛かりすら無い。

 三.領地の統治経験がない。村に特産物が無く、エルフと取引する物がない。


 問題を解決するための手段。

 一.瞬間移動魔法で解決出来るが、使える事は秘密にしている。

 二.王都の騎士団による人海戦術で頑張ってもらう。


 ……って、三つ目の問題の解決手段が無くね?

 いや、一つ目の解決策も正直どうかと思うけど。

 フローレンス様に瞬間移動魔法の話をすると、毎日部屋に呼ばれそうだしさ。……あれは、お姫様抱っこは良いんだけど、ただひたすら頭を撫で撫でするだけってのは辛いんだよね。


『とりあえず、先ずは村の状態をヘンリーさんが自ら確認してみてはどうですか?』

(そうだな。広さはそれなりにあるけど家は少ないから、領民たちへの挨拶を兼ねて行ってみるか)


「えーっと、とりあえず、俺は村を見て来ようと思うんだけど、皆はどうする? あんまり大勢でぞろぞろ行くのは、避けた方が良さそうだけど」


 アオイの意見に従って皆に聞き、


「ユーリヤは、にーにといっしょー!」

「私も主様と参ります」

「じゃあ、ユーリヤとジェーンは俺と一緒に行こう」


 即答したユーリヤとジェーンを連れて行く事にした。

 俺の言葉で、未だに部屋争いをしていたアタランテとマーガレットが表情を曇らせ、クレアが悲しそうに顔を伏せる。


「じゃあイロナちゃんはー、中庭と屋敷の周囲の植物を見てくるー」

「私は、先程案内してもらった書斎が気になります」

「ボクもシャロンと一緒に書斎へ行ってみようかな」


 屋敷に残るメンバーも、それぞれ何かしら興味を示した事があるみたいなので、早速分かれて行動する事に。

 特に何も言っていないアタランテやマーガレットは、おそらく引き続き部屋決めの話をするのだろう。


「じゃあユーリヤ、ジェーン、行こうか」


 いつもの様にユーリヤへ背中を向けると、飛びついて来たので、そのまま背負い、戸惑うジェーンを呼び寄せると、お姫様抱っこをしてテレポートの魔法を使用した。

 ちなみに、ワープ・ドアではなくテレポートを使用したのは、ジェーンをお姫様抱っこしつつ、さり気なく巨乳を触りたかっただけだ。

 右手は太もも、左手は胸……うむ。やはりお姫様抱っこは良い。

 先程バルコニーから見た家の一つ、この屋敷に一番近い家の前へ移動し、その扉をノックして事情を話したのだが、


「こ、これは……新領主様自ら御足労いただくなんて、申し訳ありません!」

「いや、構わないから。こっちから出向いた方が早いと思っただけだから、気にしないで」

「いえ、本当にすみません。奥様やお嬢様も、何卒お許しを」


 どうやら俺が出向くのは不味かったようで、一家総出で謝られてしまった。

 領主……難しいな。というより、性格的に合わない気がする。

 やはり俺は、自ら第一戦に出向いて戦うべきであり、領主や軍を指揮する司令官というのは向いていないのではないだろうか。

 一先ず、家主を除く五人(祖父母、家主の妻、少女、幼女)に、大丈夫だからと念を押して家へ戻ってもらい、村の話を聞いてみる事にした。

 この村人に聞いた事を纏めると、こんな感じになった。


 ・村は裕福ではないが、貧困でもない。徴収される税も、多過ぎるとは思わない。だが観光資源や特産品などは無いため、外からわざわざ村に来る人はほぼ居ない。

 ・一応、外から来た人向けに宿を営んでいる家が一軒だけあるが、その家の本業は小麦農家で、殆ど趣味でやっている。

 ・前の領主は村に殆ど来る事がなく、完全に放置されていたが、国の騎士団が魔物退治はしてくれているので、魔物の被害に遭った事は殆ど無い。そのため冒険者ギルドの支部はあるものの、特に依頼もなく、冒険者も来ない。


 要は、良くも悪くも特徴の無い普通の村という事だ。

 というか、冒険者ギルドの支部があるなら、先にそちらへ話を聞けば良かった。


「いろいろな話をありがとうございます。最後に、個人的な話でも構いませんので、困っている事などはありますか?」

「個人的な話でも良いのなら……うちの長女が十二歳なので、春から魔法学校へ入学させるつもりなんですが、家族が離れ離れになってしまうのと、王都は物価が高いので娘の生活費をどう捻出しようかと悩んでいます」

「あー、王都の学校だと寮生活だもんな。ちなみに、十二歳って事は、村に基礎学校はあるのか?」

「王都にあるような基礎学校とは違い、村の大人が日替わりで村の子供たち全員に勉強を教えています」


 なるほど。つまり、村に学校が無いという事か。

 俺の実家も王都から遠く離れた場所だけど、基礎学校はあったから、まだマシだったのかもしれない。

 一先ず家の数も少ないので、同じように各家に顔見せを行い、冒険者ギルドの支部へ向かう事にした。

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