第172話 ハーレム?

「うぅー。あのダークエルフが残って、ルミがお兄ちゃんと一緒に行くべきなのにー」

「はいはい。長老のお孫さんは大変ねー。ヘンリーさん、いえヘンリーの事はイロナちゃんに任せて、しっかりお仕事してきてねー」

「あぁーっ! お兄ちゃんの事、呼び捨てにしてるーっ!」


 エルフの村にダークエルフが住む事になり、村のルールの確認や新たな整備などをする事になったそうで、サロモンさんやヨセフィーナさんたちの長グループに混じって、若者いエルフ代表でルミも参加する事になったらしい。

 そのため、悔しそうにするルミと余裕の笑みを浮かべるイロナ……って、お互い仲良くしようぜ。

 せっかくの交流復活なんだからさ。


「イロナ。お兄さんに迷惑をかけ過ぎてはいけないのよ?」

「ヨセフィーナ様ったら、大丈夫ですよー。イロナちゃん、ちゃんと分かってますからー。女の子のワガママはー、男の人にとってはご褒美なんですよねー」

「……お兄さん。悪い娘ではないのよ。ただ、その……ちょっと、いろいろとアレなだけで。だけど精霊魔法が使えるし、薬や毒の知識もあるから、きっと役に立つと思うのよ」


 一先ず、今後も魔族と戦うであろう俺にダークエルフを代表してイロナが俺に同行し、持ち前の精霊魔法や毒の知識で共闘する事で、今回の恩返しにする……という事になった。

 残念な事に、イロナの知識不足のせいで、夜のサービスについては当面実施してくれそうにないが。

 まぁでも、この常にこの大きな胸の谷間を眺められるだけでも良しとしよう。

 精霊魔法を使う者は肌の露出が激しいというのは、実に素晴らしい仕組みだ。


「じゃあ、俺は街に戻りますね。あと、ヨセフィーナさんは俺と一緒に城へ行って、魔族を倒した事について言及してもらうかもしれませんので」

「えぇ、心得ているわよ」


 ヨセフィーナさんと、未だに不機嫌そうなルミに見送られ、イロナを連れてワープ・ドアの魔法でエリーの家へ。

 ルミの家で暫く話していたから気付けなかったが、既に陽が傾いていて、家の前でアタランテが退屈そうにしていた。


「あ、貴方ー! おかえりなさーいっ!」

「アタランテ、ただいま」


 かなり待って居たからか、俺に気付いた途端にアタランテ走り寄ってきたのだが、


「……えっ!? ちょっと、このエルフは誰なのよっ!」

「ねぇねぇ、ヘンリー。この獣人の女性は誰なのー?」


 俺の腕に抱きつくイロナを見て、足を止める。


「アタランテ。この娘は、イロナっていうんだ。後で説明するけど、いろいろあって行動を共にする事になった。よろしく頼むよ」

「ふーん。まぁ後で事情を説明してくれるなら……アタランテよ。よろしく」

「イロナよ。これから私が一番になるけど、よろしくね」


 アタランテとイロナが互いに見つめ合って挨拶をしているのだが、どちらも笑顔なのに目が笑っていないのは何故だろうか。

 というか、イロナは普通に喋れるのかよ。

 あの喋り方は、お店用って事なのか? それとも初対面だから、丁寧に話したのか? まぁどっちでも構わないが。


「立ち話もなんだし、食事にしよう。エリーとユーリヤも待って居るだろうしな」

「うん、そうだねー。今日も頑張ったから、お腹が空いたよー」

「エリーとユーリヤ? ヘンリー……まさか、まだ女の子が居るの?」


 眉をひそめるイロナと反対の腕にアタランテが腕を絡め、三人でエリーの家へ上がって行く。


「エリー。お邪魔しま……」

「にーにっ! にーにーっ! おかえりーっ!」

「ユーリヤ、ただいま」


 幼女らしからぬ速度で俺の胸にダイブしてきたユーリヤに驚き、イロナが腕から離れたので、その手でユーリヤの頭を撫でてやる。


「あのね、あのね。ユーリヤ、ねーねと、ごはんつくたのー!」

「そうなんだー。凄いじゃないか、ユーリヤ」

「うんっ! だから、にーに、たべてー!」

「もちろん。ユーリヤが作ってくれたご飯、楽しみだなー」


 目をキラキラ輝かせて喋るユーリヤを抱きかかえると、イロナが恐る恐る口を開く。


「えっ!? えぇっ!? ヘンリーは既に子供が居るのーっ!?」

「ユーリヤは俺の子供ではないけど、保護者というか、父親代わりというか、まぁいろいろあってさ。一先ず、ユーリヤは俺が護る事にしたんだ」

「そ、そっかー。父親代わりなんだねー。イロナちゃん、ちょっとビックリしちゃったー。てへっ」


 ユーリヤと共に歩きだすと、


「てへっ!? ……そんな言葉を使って良いのはユーリヤくらいじゃないの?」


 アタランテが小さな声で呟く。

 イロナには……うん、おそらく聞こえていないと思う。

 仲良く……仲良くしようぜっ!

 まぁでも、夕食を共にすれば二人とも打ち解け合うだろ。

 今は事情を割愛した事もあって、互いの事がわかっていないからな。

 お腹がいっぱいになれば、皆幸せになって争いの心も消えてしまうだろう。

 そう思って足早にリビングへ移動すると、


「ハー君! おかえりーっ! お疲れ様っ!」

「エリー、ただいま」


 抱きかかえたユーリヤと、腕に抱きつくアタランテの隙間にエリーが飛び込んできた。

 少しすると満足したのか、エリーが離れ、


「じゃあ、皆席に……って、そちらの女の子は初めましてかな? エリーだよー! よろしくねー!」

「あ、うん。イロナちゃんだよ。よろしくねー!」


 イロナと挨拶を交わす。

 一先ず名乗りあったし、詳しい事はご飯を食べながらにしようと思った所で、


「……ヘンリー。お店に来る前から、既にハーレムがあったんだねー」

「ん? お店? 貴方。どういう事か、詳しく話してもらえるかなー?」


 ポツリと呟いたイロナの言葉に、アタランテが反応する。


「え? いや、それはこれから話すんだけど、先ずは食事を……」

「貴方。今日、どこで何をしてきたのかしら」

「ハー君。何か買い物してきたのー?」

「イロナちゃん、知ーらなーい」


 どうしよう。アタランテの眼光が鋭すぎるんだけど。


「にーに! ユーリヤがきれーにならべた、サラダたべてー!」


 俺の膝の上で、無邪気にレタスを差し出すユーリヤに癒されながら、質疑応答に対応する事になってしまった。

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