第171話 ダークエルフのサービス

「やっほー! イロナちゃんだよー! 時空魔法が使えてー、噂では詠唱省略まで出来ちゃうっていうお兄さんに、いっぱいサービスしてあげるから、よっろっしっくねー!」


 俺とルミの目の前で、十代半ばに見える巨乳ダークエルフの少女が決め? ポーズを取っている。

 これは……どうすれば良いんだ!?


「あっれれー? お兄さん、イロナちゃんが可愛過ぎて緊張しちゃってるのかなー? 大丈夫っ! 全てこのイロナちゃんに委ねちゃえば良いんだよー! あと、ちょーっとだけ伝説の時空魔法を教えてくれれば良いからー」

「ちょっと待ったー! ダメだよっ! 時空魔法はルミが教えてもらうんだからっ!」


 ルミがイロナと名乗るダークエルフの少女と俺の間に割って入る。

 だが、そんなルミを全く気にせず、イロナがゆっくりと近づいてきた。


「ねぇ、お兄さん。お名前は何て言うのー?」

「……ヘンリーだが」

「ちょ、ちょっと! ルミを無視するなー! あと、お兄ちゃんも返事しないのっ!」


 ルミが飛び跳ねながら存在をアピールしているが、俺と頭一つ分しか背が変わらないイロナとでは、身長差が有りすぎるため視界に入っていないと思われる。


「ねぇ、ヘンリーさん。さっき使った瞬間移動魔法で、静かな所へ行きましょう。落ち着いて二人っ切りになれる場所へ」

「うみゅあぁぁぁっ! お兄ちゃんはルミのなんだからっ! 盗らないでよっ!」

「イロナ。その辺にしておきなさい。これからエルフとダークエルフで協力し合っていかなければならないのだから」


 ひたすらイロナに無視されるルミを見かねて、ヨセフィーナさんが助け舟を出す。

 しかし、それにしても……だ。

 夜のサービスをしてくれると言ってくれるのは凄く嬉しいし、イロナは可愛く、胸も大きい。

 だが、この獲物を見るかのような、ギラギラとした視線は何とかならないだろうか。

 まるで俺が襲われるというか、捕食されそうな勢いだ。

 ……そういえば、欲求不満モードのアタランテがこんな目をしていたような気もする。


「イロナ。そちらのお兄さんが引いてるよ。自分をアピールする事も大事だけど、ちゃんと相手の反応を見ないとダメだって、教わっただろ?」

「う……確かに教わりましたけどー、でも、この人、押しに弱そうですしー」

「まぁ、確かにこのお兄さんは押すのが正解だけど、それにしても押し方っていうものがあるのさ。まだまだ勉強不足だね」

「でもー、そうは言いますけどー、研修だけでまだ一度もお店に出た事が無いんだから、仕方ないじゃないですかぁー」


『押しに弱いヘンリーさん。会って少ししか経っていないのに、バレてますよ?』

(いやいや、俺は押しに弱くなんてないから)

『そうですかー? まぁ正確に言うと、押しに弱いというより、ヘタレなので押されないと何も出来ないって感じですけどね』

(そんな事ないっての)


 アオイから根も葉もない事を言われ、ふと気付く。

 これは、どうしても確認しておかなければ。


「……今、店に出た事が無いっていったけど、イロナは何歳なんだ?」

「あ、やっと興味を示してくれたねー! イロナちゃんはー、十五歳だよー! でも、まだ実践した事はないけれどー、トレーナーのメルヴィ先輩から指導してもらっているから、安心してねっ!」


 十五歳……って、俺と同い年かよ!

 そして、メルヴィちゃんが指導者なのか。どうりで喋り方が似ているはずだ。

 しかし、俺と同い年って事は、エリーと同い年な訳で……それで、この胸の大きさは反則では無いだろうか。

 現時点では巨乳三銃士に劣るものの、数年後には四銃士になっているかもしれない。

 ……って、待てよ。確か、夜のサービスは十八歳からって言っていたから、そっちのサービスは研修すら受けていないんじゃないのか?

 という事は、イロナの言うサービスって、お喋りだけなのか!?


「あ、ヘンリーさん。その顔は、イロナちゃんに夜のサービスが出来ないんじゃないかって思っているでしょ!」

「そ、そんな事は……無いぞ?」

「ううん。だって、さっきまでイロナちゃんの胸や脚を見て鼻の下を伸ばしていたのに、真顔になったもん。でも、心配ごむよー! 確かにイロナちゃんは夜のサービスについては、まだ教わっていないけど、お母さんが店長だからね。何となく分かっちゃうんだー」

「店長……って、ヴィルヘルミーナさん?」

「そーゆー事っ! ほらほら、ヘンリーさんが望んでいたのは、こういうのだよねっ!」


 そう言いながら、近くの椅子に腰掛けたイロナが脚を組み、靴を脱ぎ始める。

 ダークエルフ全員に言える事だけど、スカートが短いから、パンツが見えそうで……見えるっ!

 褐色の肌に生える純白パンツだっ!

 ルミのジト目をスルーしながら凝視していると、靴と靴下を脱ぎ終えたイロナがおもむろに脚を開く。


「ほら、ヘンリーさん。いいよ」

「えっ!? いいよ……って?」

「もぉー、わかってるくせにー。ほら、舐めて良いのよ。イロナちゃんの足」

「……はい?」


 ピンと伸ばした爪先を俺の顔に向けるイロナを見て、ヨセフィーナさんが頭を抱える。


「あ、あれ? 男の人は女の子の足が好物じゃないの?」

「ヴィルヘルミーナは、娘に何を教えているのよっ!」


 ヨセフィーナさんの叫び声を聞きながら、夜のサービスが遠のいたと察し、俺も頭を抱えてしまった。

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