第170話 夜のサービス

「お兄ちゃん。もう、この変な人たちの気配は辺りに無いよ」

「そうか。じゃあ、一先ず全部倒したって事か」


 ダークエルフたちと合流し、十数体のゾンビみたいな男たちを残らず倒した。

 黒服ダークエルフに怪我人が居るものの、重傷ではないし、ダークエルフのお姉さんたちに怪我が無かったのが不幸中の幸いだろう。


「しかし、こいつらは一体何だったんだい? 店の外に居たのは魔族だったけど、こいつらは死体も残らないし」

「……いえ、すぐに消えてしまいましたが、死体はありました。いずれも、勝手に燃えて消えてしまいましたが」

「それって、もしかして小さな人形みたいなアレの事かい? いくらなんでもアレが死体だっていうのは無理があるんじゃないのかい?」

「いえ、俺が前に戦った相手も、同じ消え方をしたんです。そして、あの魔族が一緒に居た事から考えると、こいつらはホムンクルスです」


 怪訝な表情を浮かべたヨセフィーナさんが俺を見てくるが、気持ちは分かる。

 俺だって自身が使う召喚魔法の事を知らなければ、同じようなリアクションをするだろう。

 しかし、それにしても気になる事がある。

 俺たちはロリコン魔族を先に倒した。

 魔力も消えたし、これは間違いないはずだ。

 だけど、召喚魔法で呼ばれたと思われる英霊? は消えずに、ダークエルフたちと交戦を続けていた。

 召喚魔法を行使した魔族が死ねば、魔力を失い英霊は存在出来なくなるような気がするんだが。


『ヘンリーさん、良い所に目を付けましたね。後でお伝えしようと思っていたのですが、自ら気付かれるなんて、流石です』

(ん、アオイ。何か思う所があるのか?)

『はい。ヘンリーさんの仰る通り、召喚魔法を使った者が死ねば、呼ばれた者も還る。つまり、ヘンリーさんにもしもの事があれば私はもちろん、ジェーンさんたちも、この世界から消えてしまいます』

(あぁ。前にそんな話をしてくれたよな)

『えぇ。ですが、先程のホムンクルスたち――あの魔族はハズレと呼んでいましたが――は、おそらく別の者が召喚したのではないかと』

(……つまり、あのロリコン魔族は召喚したホムンクルスを率いているだけで、召喚魔法を使う別の魔族が居るって事か!?)

『その通りではないかと』


 あのロリコン魔族を倒せば解決と思っていたのに、まだ別の魔族が居る……言われてみれば、あの魔族の傍にエリーのお母さんが居ない。

 つまりアオイの推測通り、別の場所に居るって事か。

 ……このロリコン魔族が戻らなければ、他方の魔族が出てくる可能性があるな。


「ヨセフィーナさん。先程のホムンクルスは、召喚魔法で呼ばれた誰かの魂が入っているんです」

「召喚魔法!? どういう事なんだい?」

「詳しい話は後でします。一先ず、ここを離れましょう。先程の魔族とは別の魔族、おそらく先程の魔族よりも強い奴が居ると思われます」

「……そうかい。けど、ここから私たちの村はすぐそこだからね。魔族が相手だと、見つかる恐れがあるね」


 ヨセフィーナさんがダークエルフの長という立場で、どうすべきかを考えているが、流石にこれは俺も答えがわからない。

 今ある村を棄て別の場所へ行くにしても、適した場所が上手く見つかる保証は無いし、場所によっては俺たちの国のようにダークエルフを畏怖の対象としている所だってあるだろう。

 それに、どこかの森で新たにダークエルフが村を作ったとして、エリーのお母さんを助け出さないと、再び魔族が襲って来る事が考えられる。

 どうしたものかと考えていると、ルミが口を開く。


「じゃあ、エルフの村へ来たら良いんじゃない? お爺ちゃん――長老にはルミから話すし」

「なるほど。エルフの村なら、魔族の探索魔法も無効化されるし、良さそうだな」

「二人とも、何の話をしているんだい?」


 困惑するヨセフィーナさんに、ルミが長老の孫である事と、魔族に発見されないマジックアイテムが備わっている事を説明する。


「こちらとしては有り難い話だけど、大丈夫なのかい? ダークエルフは全部で二十人くらい居るんだよ?」

「でも困ってる訳だし、交流復活の話もしてたし、大丈夫だよー」

「しかし、先程聞いた話ではエルフの村は随分と離れているようだし、人間たちの作った国境も越えないといけないと思うのだけど」

「それならお兄ちゃんが何とかしてくれるよ。ね、お兄ちゃん」


 突然ルミに話を振られたので、一先ず説明だけしておく。


「俺が使う時空魔法は、行った事のある場所になら一瞬で移動出来ます。二十人くらいなら纏めて送る事も出来ますが、エルフの中で留めるのであればともかく、他の人間には他言無用でお願いします」

「さっきの魔法かい!? あれは、近場に移動するだけかと思っていたんだけど、どこにでも行けるなんて……」

「まぁそういう訳で、先ずはヨセフィーナさんにサロモンさん――エルフの長老と話してもらいましょうか。ルミの案で良いのなら、ダークエルフの皆さんをお送りしますよ」


 その後、話した通りヨセフィーナさんとルミをエルフの森へ連れて行き、サロモンさんと話して……ダークエルフがエルフの森へと移住する事になった。

 それからワープ・ドアの魔法でダークエルフたちを全員エルフの村へと移動させる。

 これでダークエルフが魔族に襲われる事も無いし、後はエルフの村でダークエルフのお姉さんに夜のサービスをしてもらうだけなんだけど、ヨセフィーナさんからは驚愕の事実を告げられてしまう。


「いや、エルフの村は近くに人間の村がないだろう? エルフ相手に夜のサービスは意味がないから、一先ず廃業だね」

「えっ!? で、でも人間は居なくても、エルフやダークエルフにだって男性は居るじゃないですか」

「あー、言いたい事は分からないでもないけれど、エルフの男もダークエルフの男も人間みたいに精力旺盛じゃないんだよ」

「えぇっ!? こんなに魅力的なお姉さんがいっぱい居るのに!?」

「エルフ族は寿命が長いからね。短命の人間とは違って、沢山子孫を残そうとする必要がないからね」

「そ、そんな……」

「まぁ悪く思わないでおくれよ。魔族と戦い、時空魔法でここまで運んでくれた貴方にはとても感謝している。何か別のお礼を考えるからさ」


 夜のサービスが廃業!?

 最後に一日だけ開店してくれないだろうか。

 本気でそんな交渉をしてみようかと思っていると、


「ねぇヨセフィーナ様。じゃあダークエルフからのお礼として、アタイがこのお兄さんについて行くっていうのはどうかな? もちろん、お兄さんの望むサービス付きで」


 突然見知らぬ……いや、誰かの面影があるダークエルフの少女が現れた。

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