第149話 聖杯探し!?

 マーガレットに呼ばれて部屋の中へ入ると、腫れた目を赤く染めたコートニーと、瞳を潤ませるジェーンが居た。

 そんな中、マーガレットは平然としているので、先ずは話を聞く。


「マーガレット。コートニーが俺に言いたく無かった話は言う必要はないが、対応可能な相談なのか?」

「そうだねー。申し訳ないんだけど、現時点では何とも言えないかなー」


 マーガレットの答えを聞き、コートニーがビクッと身体を震わせる。


「それは、対応が難しいという意味なのか?」

「対応が難しいというか、先ずは会って症状を確認しないと何とも言えない……かな。少なくとも診てみれば、対応出来る、出来ない、分からない……のどれかの回答が出来ると思うよ」


 マーガレットの答えから察するに、コートニーの妹が何らかの病気にかかるか怪我をしていて、それを治して欲しいという事か。

 ただ、それを俺に言えない理由は不明だが。


「ふむ。じゃあ、早速会いに行こう。コートニー、俺が妹に会うのもダメなのか?」

「え、えぇ。出来ればマーガレットさんだけの方が助かりますの」

「分かった。なら、途中まで一緒に行こう。それ以上は進めないという所で、俺に待ったをかけてくれれば良いよ」


 そう言うと、フラつきながらもコートニーが歩きだしたので、その後をついて行く。

 宮廷内を暫く歩き、俺が行った事の無い地下へと続く階段を降りる。

 それから再び歩いた所で、


「ごめんなさい。申し訳ないのですが、ここからはマーガレットさんだけでお願いしたいですの」

「あぁ、構わない。最初からそういう話だったからな。……マーガレット、頼む」

「うん。じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 大きな扉の中へ、コートニーとマーガレットだけが入って行った。


「主様。一つだけお伝えしておきますと、コートニー様は主様の事を気遣っておられます。決して主様の事を悪く思っての行動ではありませんので」

「……俺が中に入れない理由の事か?」

「はい」


 それだけ言うと、ジェーンはこれ以上は話せないと言わんばかりに、扉に背を向けて直立不動となってしまった。

 俺の事を思ってコートニーは妹の事を話さない。

 ……一体どういう事だろうか。

 俺が妹さんを病気にさせる……というのは論外として、怪我をさせたとか?

 だけど、女の子に怪我をさせたりなんて事は無いと思うのだが。


『ヘンリーさんが病気にさせる……何か病気を移したとかでは、ありませんか?』

(いやいや、会った事も無い相手に何の病気を移すっていうんだよ)

『ヘンリーさんがコートニーさんの妹だと認識していないだけで、実は会っているのでは?』

(でも、俺より四つも年上だぜ? 同級生なら、その可能性もあるさ。実は魔法学校の生徒の一人が妹さんで、ぶつかった事があって……って、ぶつかっただけで移る病気なんて無いだろうし、そもそも俺は病気なんかじゃないし)

『実は自覚症状が無いだけかもしれませんよ? 何か心当たりはありませんか? 昔は真面目だったのに、急に変態行動を取るようになったとか。で、それが変態病という恐ろしい病気で……』

(変態病とか言うな! というか、そもそも変態じゃねーよ! で、病気とかでも無いっての! というか、仮に俺から移る病気があったとしたら、ここに居るジェーンをはじめとして、皆同じ病気になっているだろうが)


 アオイのとんでも推理に突っ込んでいると、扉が開いて二人が戻ってきた。


「マーガレット。どうだった?」

「うーん。結論から言うと、対応出来ると思う。けど、それには必要な物があるんだ。いくつかあるんだけど、その中から一つでも見つけられれば、解決出来ると思うよ」

「見つけられれば……って事は、普通には手に入らない物だって事か」

「少なくとも、私は簡単に見つかる物ではないと思っているかな。でも私が知らないだけで、実は簡単に手に入る物だったら即解決だよ」

「なるほど。ちなみに、何を見つければ良いんだ?」

「えっとねー。エリクサーか、ユグドラシルの葉。それか賢者の石とか聖杯とか……」

「待った。それって、どれか一つでも実在するのか!? 全て伝説や神話レベルの話に出てくる物ばかりじゃないか」


 エリクサーは言わずと知れた万能薬だし、ユグドラシルは世界樹と呼ばれる神話上の樹で、賢者の石や聖杯なんてのも同格の物だ。


「まぁそうだよねー。存在しない訳ではないと思うけど、簡単に入手出来ないって事はわかったよ」

「それらが無いと、コートニーの妹さんは助けられないのか?」

「ちょっと高度な魔法を使用するから、さっき言った物レベルとまでは言わないけれど、私の魔法を補佐する魔力媒体が必要なんだよ。まぁでも、さっきのが無いなら無いで、一応手段はあるんだけど……」

「けど?」

「けど、代替えの物を作るのに丸々十日くらい掛かるから、その間私が何処かに籠れる場所と、食料とかを用意して欲しいなーなんて」

「わかった。それは俺とコートニーで何とかするよ。後、その間マーガレットは任務に参加出来ないって事だな?」


 マーガレットが頷くのを確認した後、コートニーに顔を向け、


「という訳だ。十日程度マーガレットが集中出来る場所と、食事などが確保出来れば妹さんは助けられるぞ」

「……! 本当ですのっ!?」

「あぁ。一先ず、フローレンス様に言って、どこか部屋を……」

「そ、それなら私が騎士団長様に掛け合いますのっ! 騎士団寮には部屋も余って居ますし、寮にはメイドさんや料理人も居りますから、きっとそちらの方が良いですのっ!」


 な、何だって!? 騎士団の寮に入ればメイドさんがお世話してくれるだと!?

 俺も学生寮ではなく、騎士団寮に住みたいんだけど。

 部屋が余っているって話だし、王宮にほぼ仕官しているし、俺もメイドさんにお世話してもらえないだろうか。

 だが、騎士団長へ俺の事も口利きして欲しいと頼む前に、


「……本当にありがとうですのっ!」


 改めて頭を下げたコートニーが駆け出してしまった。

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