第130話 小さな胸がお好き

「分かりましたの……貴方は、小さな胸がお好きなんですの。だから、あれ程までに私の胸に執着していたんですの」

「いや、違うんだって! これには色んな理由があってだな」

「ですが、ごめんなさい。私の事を求めてくださる気持ちは嬉しいのですが、私にはまだやるべき事がありますの。……そうですね。そのやるべき事が全て終わった後になら、少しくらいは考えて差し上げてもよろしいですの」

「あ、あのな。よく見ろって。これはユーリヤの採寸をしているんだよ」

「しかし、ここまでストレートに気持ちを行動に移せる意気込みは凄いと思いますの。普通はいくら大好きだからと言っても、見ず知らずの私や、幼女の胸を触るなんて行動は出来ませんの。そこだけは感心いたしましたの」


 待ってくれ。コートニーが全く俺の話を聞いてくれないんだが。

 ……そうだ。一先ず、ユーリヤの鎧を作ってしまってそれをユーリヤが着れば、誤解も解けるだろう。


「マテリアライズ」

「そうそう。そちらの女の子が退屈そうでしたので、お菓子を持って来ましたの」

「わーい! おかしー!」


 床に俺が作りだしたユーリヤサイズのフルプレートアーマーが現れたが、ユーリヤとコートニーはお菓子に、ジェーンとシャロンは着替え……って、誰も気付いてねぇっ!


「ユ、ユーリヤ。ほら、欲しがってた鎧だよー」

「おねーちゃん、これおいしー」

「ふふっ。でしょう? 偉い人が来た時に出すお菓子を分けて貰ってきましたの。何でも、隣の国にしか売って居ないらしんですの」


 ユーリヤもコートニーも、お菓子に夢中で話を聞いてくれないんだが。


「シャロン、ジェーン。悪いんだけど、これまでの経緯をコートニーに説明……」

「ジェ、ジェーンさーん! このパーツはどこの部分ですかぁー?」

「それは……左腕の篭手の上、肘にあたる部分ですね。あの、シャロンさん。申し訳ないのですが、そちらの右足部分を持っていただけませんか?」


 ダメだ。二人とも着なれない全身鎧で必死だな。

 これでは俺がユーリヤの胸を触るロリコン認定されたままになってしまう。


『……日頃の行いのですよねー』

(おい、待て。日頃の行いというのであれば、ちっぱいに全く興味を示していないだろ!?)

『もしくは因果応報ですかね』

(それは、俺が悪い行いをしたから、今変態扱いされているって事か!?)

『えぇ。採寸だと言い張って、ジェーンさんの身体中を触りまくってましたからね』

(……さ、採寸だし。お、主に胸の)

『まぁ気持ちは分かりますよ? ヘンリーさんがジェーンさんの胸を触っている感覚が私にも伝わっていましたが、大きくて柔らかいお餅みたいでしたからね。……羨ましい)


 なるほど。ジェーンの胸はアオイが羨む程の逸材なのか。

 ……って、ジェーンの胸が素晴らしいのは分かっているんだ。

 そうじゃなくて、ロリコンの誤解を解かないと。


「コートニーさん。ちょっと聞いてください」

「なんですか……って、そうですの! 女の子の可愛らしさに、つい和んでしまいましたが、こんな事をしている場合ではありませんの! 来てしまいましたの!」

「来た……って、何がだ?」

「教会の審査団ですの! 貴方が王宮の隊を纏めるに相応しい人物であるか否かを教会が見定めに来てしまったというのに、特訓の反動で私の身体だけでなく、こんなに幼い女の子の胸まで求めるようになってしまうなんて」

「だから、それは誤解だってば! ……って、それよりも、その教会の期限を出来る限り引き延ばすって話じゃなかったっけ?」

「そのつもりだったのですが、既に相当期日を延ばしていたので、痺れを切らしてアポ無しでやってきたみたいですの。貴方が出て来るまで、帰らないと言っておりますの」


 うわぁ。執念っていうのかな? 俺が出て来るまで帰らないなんて。

 けど、俺が瞬間移動で家に帰ったら、その教会の一団はどうするのだろうか。

 面白そうだから、ちょっとやってみたい気もするが、フローレンス様に迷惑が掛かりそうなので自粛するけどさ。

 しかし、先程ユーリヤとお菓子を食べていた時とは一転して、現実逃避から戻ってきたコートニーがオロオロし始めたので、そろそろ俺たちの作戦を教えてあげようか。


「ふっふっふ。コートニーさん、落ち着いてください」

「な、なんですの!? 先程とは違った自信に満ちた様子は……ま、まさか、幼女の胸を触った事で、自分を取り戻したんですの!? ですがやはり幼女を求めるというのは人としてどうかと思いますし……けど、教会が待って居ますの。……くっ、貴方がまともに成ってくれると言うのなら、この女の子ではなく、わ、私の胸を触ると良いですの」

「いや、何か盛大に勘違いしていないか? なんだよ、ユーリヤの胸を触って自分を取り戻すって」

「違うんですの? では、今すぐ教会の審査団と対峙しないといけないというのに、その自信はなんですの!?」

「はっはっは。その答えはこれだっ! 今日はこのフルプレートアーマーに身を固めた騎士が、ヘンリー=フォーサイスだ」


 フルプレートアーマーの装着を全て終えたばかりのジェーンが、コートニーに軽く会釈する。

 普通の実戦で用いられるフルプレートアーマーは超重量で動けた物ではないが、これはジェーンが男装するために作った物だ。

 なので、実用性を無視して出来るだけ薄く軽量化しており、本来のジェーンとまではいかないが、多少は動けると思う。


「あの、こちらの全身鎧の男性は誰ですの?」

「私は第三王女直属特別隊隊長、ヘンリー=フォーサイスです」

「……えーっと、その声はジェーンさんだと思いますの。思いっきり女性の声ですが、まさかこのまま代役をさせるというんですの?」

「……主様、いかがいたしましょう」


 鉄仮面で表情は見えないが、ジェーンの声から困惑の感情が思いっきり伝わってきた。

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