第120話 私はお兄さんから絶対に離れない

「まぁ、こんなところかな」


 具現化魔法でベッド二つ分くらいの台を樹の上に作り、おまけで落下防止のための柵も作っておいた。

 そこから瞬間移動で街へと戻り、ソフィアとマーガレットと合流……と言いたい所だが、二人が今どこに居るかが分からない。

 定時連絡まではまだ時間があるし、どうやって探そう。


『あの、ヘンリーさんからマーガレットさんにメッセージを送る魔法を使えば良いのでは?』

(……あ、そっか)


 良く考えたら、メッセージ魔法は魔術師ギルドで有料サービスとして使われている程に普及している汎用魔法だ。

 特殊な魔法ならばともかく、普通の魔法ならアオイが使えるか。

 早速メッセージ魔法を発動させ、マーガレットへ『今、どこ?』と送ると、


『商店街の本屋です』


 と返って来た。

 早速向かうと、ソフィアがジト目で出迎える。


「アンタ。何がしたいの? どうして帰ってきたのよ」

「え? どういう事?」

「二時間で北東の山まで行ってくるだなんて豪語したのに。この一時間、何をしていたのよ」

「あれ? 一時間しか経ってないのか? というかさ、北東の山までもう行って来たんだよ。だからソフィアを迎えに来たんだ」

「う、ウソでしょ? あの距離よ!?」


 ソフィアが驚くのも分からないでもない。正直、俺も驚いた。

 途中、盗賊を捕またり、魔物を斬ったりしていたんだけど、そんなに早く着いたのか。


「で、ソフィアとマーガレットは本屋で何をしているんだ?」

「アンタが北東の山以外も調べろって言うから、地図を買いに来たのよ。精霊魔法で大よその方角は分かっても、どこに向かえば良いか分からないと、アンタに伝えられないでしょ」

「なるほどね。じゃあ、サクッと地図を買って、早く行こうぜ」

「ちょ、アンタ! 中身も見ないで適当に選んで……あー、もぉっ!」


 時間が惜しいので、その辺にあった地図を店員に渡して代金を払うと、ソフィアとマーガレットを含めて先程作った物見台へと移動する。


「お兄さん。流石にこんな所へ移動させられると怖いんだけど、他に良い場所は無かったの?」

「いやー、地上は森が深くて暗いんだよ。おまけに魔物も出るし。ここなら明るいし、魔物は来ないだろ?」

「まぁ明るいのは確かだけど……魔物は来てるよ?」


 魔物!? 俺の身長の四倍近くある、背の高い樹の上なのに!?

 不思議に思っていると、静かにマーガレットが上を指差す。

 つられて見上げてみると、空に大きな鳥の影が三つある。


「あー、そういう魔物も居るかー。すっかり失念してたな」

「ちょ、ちょっとアンタ! どうするのよっ! あんなに大きな鳥ががウチらを狙ってるじゃない」

「ソフィア、落ち着けって。ただ上空を飛んで居るだけで、別に俺たちを狙っている訳じゃないって……って、何でイフリートを出したんだ? で、何で呪文の詠唱とかしてるんだ?」


 先手必勝とでもいいたいのか、ソフィアが魔法を使おうとしている。

 俺としては、そんな詠唱よりも鉱物の検知をして欲しいのだが。

 ……詠唱中に口塞いでも大丈夫かな?


(アオイ。今、ソフィアの口を塞いだら、魔法って止められる? 何か、魔力を高めてるっぽいけど変な事にならない?)

『止められるとは思いますけど……私は呪文詠唱? なんてしないので、正直何とも。大丈夫とは思うのですが……たぶん』

(いや、多分とかやめてくれよ。ズバッと言いきって欲しいんだけど)

『そう言われましても、自分でやらないので分からないですって』

(えぇー。あ、じゃあマーガレットに聞いてみるよ。マーガレットは無詠唱じゃなかった気がするし)


 アオイとの脳内会話を終了し、マーガレットに話を聞こうと近寄る。


「おーい、マーガレット……って、どうしたんだ!? 顔色が悪いぞ!?」

「……お兄さん。私、どうやら高い所はダメみたいです……」

「え? でも、この前は街の壁に上がってたよね?」

「あれはしっかり頑丈だったじゃないですか。けど、ここ……樹の上だからか、時々揺れるのが物凄く怖くて……」

「あー、この床を樹の上に具現化しちゃったからな。まぁでも、万が一の場合は俺が浮遊魔法で……」

「お兄さんっ! 私をしっかり抱きしめてっ!」

「えっ!? マーガレット!?」


 ユーリヤを抱きかかえた俺にマーガレットが抱きついてきた。

 くっ……ユーリヤが間に居なければ、胸の感触が楽しめただろうに。

 何とかユーリヤをもう少し左側に寄せて、右側にマーガレットの身体を密着させられないだろうか。

 顔色は悪いが、比較的大きなマーガレットの胸が小さくなる訳ではないので、もぞもぞと身体を動かしていると、


「ファイアストームッ!」


 何故かソフィアが俺を睨みながら魔法を発動させた。

 ……しまった。マーガレットのおっぱいアクシデントで、ソフィアの魔法を止めるという当初の目的をすっかり忘れていた。

 目の前にソフィアが作りだした炎の柱が生まれ、空高くに昇って行く。

 凄いな。こんな魔法が使えた……いや、使えるようになったのか。


「ソフィア、凄いじゃないか。三匹の鳥が一気に消し炭になったぞ」

「ふんっ! ウチはちゃんと毎日魔法の修行をしているんだからっ! どっかの鼻の下ばかり伸ばしている誰かとは違ってね!」


 何故かソフィアが物凄く怒っているのだが、俺を追い越そうとしているのは本気らしい……って、何だか物凄く焦げ臭いぞ?


「って、ソフィア! 早くその魔法を消せっ! 森がめちゃくちゃ燃えてるだろっ!」

「えっ!? ど、どうやって!?」

「どうやって……って、お前が作った火の柱だろうがっ! マーガレット! 緊急事態だ、一旦離れてくれ!」


 山火事になるから、何とか消化しなければならないのだが、


「やだっ! 私はお兄さんから絶対に離れないんだからっ!」

「それは嬉しいんだけど、今はダメだぁぁぁっ!」

「こ、この魔法って、どうやって止めるのよーっ!」


 マーガレットが離れてくれず、ソフィアは混乱しっぱなし。

 とりあえず、アオイに力を借りて水の魔法でソフィアの魔法を相殺したのだが、結果として炎の柱よりも、二回り程広い範囲の樹が炭になってしまった。

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